加藤のメモ的日記
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| 2010年10月09日(土) |
漁民は逮捕せず歓待しろ |
そもそも今回の中国漁船の問題は、日本のほうが外交的にずっと有利な立場だったはずです。事件の起きた尖閣諸島は、日本の固有の領土であり、しかも実効支配が及んでいる。そこに領海侵犯し、公務執行妨害まで起こした中国漁船を捕まえて、身柄も押さえていたんですから。ところが、そこから日本政府の打った手は間違いに次ぐ間違い。最初のミスは、事件後すぐに船長を「逮捕」してしまったこと、そして肝心の漁船と船員を中国返してしまったことです。
ではどうしたらよかったのか。私なら、中国漁船ごと石垣島に連行してきて、船長だけでなく船員全員に、時間をかけて事情聴取しますね。「逮捕」などの処置を決めるのは、中国側の出方を見極めてからでいい。まず日本側に有利になる証拠、情報を徹底的に集める。これが肝心。
実はこれは、北方領土で周辺でロシアが行なっているやり方なんです。あの海域で日本の漁船がしばしば拿捕されますが、ロシアは船ごと連行し、船員だけ順次人本に帰す。もちろん、日本としては中国の船員たちへの人道上の配慮も忘れてはなりません。海上保安庁の職員が同じ海の男として接すればいい。むしろ、彼らに食べたいものだけ食べ、飲みたいだけ飲ませて、糖尿病になるぐらい手厚く歓待すべきです。そうやって日本側に好意的な証言者にしていくくらいの知恵は必要でしょう。
そうして懐柔したうえで、取り調べは徹底的にやる。日本の検察は名うての「割り屋」がいるではないですか。大阪地検の前田主任検事あたりを投入すればいい。「減刑してやるから、船長の口を割らせろ」と命じれば全身全霊でやるでしょう(笑)証拠・情報の確保で、日本政府の犯した大きなミスは。問題の漁船を返してしまったこと。大事な証拠物件じゃないですか。もっと局面が進めば、損害補償請求などの話も出てくる、その時、「漁船の返還」は日本側の有効な外交カードにもなるんです。
今回、漁船と船員を慌てて返してしまった日本政府の対応を見ていて、北朝鮮の金正日書記長の長男を思い出しました。2001年、密入国しようとした金正男を成田から直ちに出国させてしまいましたね。その時も時間をかけて彼を取り調べておけが、強力な対北朝鮮カードたり得たのですが、時の外相、田中真紀子さんは、危ないものには触りたくないとばかりに、何の手だてもせず放り出してしまいました。
そして、第二の失点は、船長の「逮捕」で、中国側の強硬姿勢を引き出してしまったことです。前にも述べたように尖閣諸島を実効支配しているのは日本です。中国は、この現状を覆すことは当面できないが、それを認めない、という立場。これを今回の事件でいうと、「中国漁船が拿捕され、取り調べを受けるのはやむを得ないが日本の法律で裁かれるのを認めるわけにはいかん」となる。
ところが仙谷由人官房長官や前原誠司国交相(当時)は、船長を逮捕して「国内法に基づいて粛々とやる」と言ってしまった。これは中国側からすると「日本が自分の法律に従えと一歩踏み込んできた」ということになる。前原さんは北方領土に関しても同様の問題を引き起こしています。昨年秋、根室まで来て北方領土問題について「ロシアの不法占拠」だと言った。
一政治家の発言ならともかく、今、日ロ両国が係争地域だと公式に認めて、話し合いをしている問題ですよ。閣僚がちゃぶ台をひっくり返してどうしますか。威勢はいいが、先を見据える戦略がまるで感じられない。
外務省と官邸は、逮捕前に中国側と連絡をとり、日本の対応を伝えて水面下で協議すべきでした。船員全員の身柄と漁船があれば、アドバンテージを持って交渉できたはずです。さらに問題なのは、「中国の圧力に屈した」と誰もが思う形で船長を釈放したうえに、その責任を菅直人総理をはじめ官邸が負おうとしなかったことです。
中国政府は、船長一人のためにチャーター機まで送ってきました。そして帰国した船長はVサインをしながら、「党と政府の配慮に感謝する」と言いました。ここまでバカにされた話はありません。しかも釈放はあくまでも那覇地検独自の判断だと強弁している。那覇地検に外交を判断する権限などあるはずないでしょう。
外務省も中国課長を沖縄に派遣しているじゃないですか。指揮権が働いたことは明白です。私は、国益の観点から指揮権を発動するのは構わないと思う、それならそうだとはっきり言わないのがおかしい。菅さんは、細野豪志前幹事長代理が中国へ行ったことも、他人事のように「承知いていません」です。では、誰が指示したんですか。「去年の小沢訪中団の事務局長だった細野氏がパイプを持っているから頼んだ」と言えばいいじゃないですか。言わなくていいことは言うくせに、必要なことは言わない。危機管理の未熟さを感じます。
『週刊部文春』鈴木宗男談
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