加藤のメモ的日記
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私は常々、ガン手術の上手と下手とガンが治るかどうかは、あまり関係がないと言っていますが、「できれば上手な外科医に手術してもらいたい」と思うのが患者さんの心理です。実は手術の腕が影響するのは、手術の安全性なのです。もっとわかりやすく言えば、腕のいい外科医に手術してもらうほど、手術中や術後の合併症(手術がきっかけで起こる余病、肺炎など)が減り、命の危険性が減るということです。
しかし、昔とは違い、今の医療レベルでは医療機器や術後管理の発達のおかげで、下手な外科医が標準的なガン手術をやっても、手術が直接の原因で患者さんが命を落としてしまう確率は数%以下に低下しています。では手術の上手な外科医がやれば、それがゼロになるかといえば、さにあらず。腕の差で下がる危険性は1%あるかどうかでしょう。もともと低い確率ですから、上手、下手のありがたさも感じにくい、それが現状です。
ところが心臓の手術では、ガン手術とは違い、手術の上手い下手が命に直結しますから、よくよく術者を選んだほうがよいといえるでしょう。では確実に腕の良い外科医に手術してもらうためには、どうしたらよいのでしょうか。それがまた難しいのです。仮に、腕の良い医者にめぐりあえても、実際その医者が執刀するとは限りません。
患者さんは全身麻酔で意識がありませんから、自分では確認しようがありませんし、誰が手術したかわかるのは手術の後ですから、それでは意味がありません。今の健康保険の料金システムでは、卒業したばかりの新米医者が手術しても、キャリアを十分積んだ外科医が手術しても、値段は同じになっています。人の命に関わることなので、手術の難易度に見合った技術や、経験を持った外科医が執刀することにはなると思いますが、研究や教育もしなければならない大学病院やその関連病院では、若い経験の浅い外科医が執刀する機会が、どうしても多くなることは否めません。
ところが、このような患者さんの心理を逆手に取ったような行為が、堂々と行われているから問題です。亡大学病院では、教授に手術してもらうためには、裏金を渡すようにと、担当医が患者さんに直接指示しているというのです。金額や具体的な渡し方まで指示しているというのですから驚きです。「教授が廊下を歩いてくるときに、Ο十万円渡してください。なるべく目立たない、包装紙のようなものに包んで廊下ですれ違う際に、ポケットの中にそっと入れてください」と、こんな具合です。
この大学病院で手術を受ける患者さんの間では、「医者がポケットの大きい白衣を、ボタンをかけないで、着ている理由がよくわかった」とまことしやかに言われているそうです。以前、某大学病院の教授の家に、泥棒が入ったときのことです。被害届の中に、商品券数百万円と、あったそうです。商品券を数百万円も置いている家が、そこの世界にあるのでしょうか。まさか自分で商品券を買ったとはだれも思わないでしょう。
キャンサーフリートピアでよくされる質問の一つが、この謝礼の問題です。少しでも待遇が良くなるようにという患者さんの気持ちもわかりますが、こういう習慣はなくなるべきだと思います。私はもちろん、ほとんどの医者は、礼金で同行するという意識はなく、それが医者というものなのです。
『ドクターハラスメント』
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