加藤のメモ的日記
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2010年04月15日(木) 源氏物語

日本文学がこの十作品の中に入ることを意外に思う人がいるかもしれないが、入れなければ話にならないのである。そのぐらい「源氏物語」は偉大な物語なのだ。まず、ざっと千年ほど前に書かれたものなのに、信じられないくらいの完成度である。決して神秘的だったり民話的だたりするのではなく、登場人物の心の動き、その描写は近代の小説に全く引けを取らないのだ。

どうして千年も前にこれが書けたのかと思うと奇跡だとしか思えない。そのころのヨーロッパなんてロクな文学作品がないんだから。そして、そういう感想は決して日本人だけの、自国贔屓から出ているのではない。最近悲しいことに亡くなられたサイデンステッカー氏が英語に翻訳して世界に紹介して以来、世界中の文学者がこの物語りに圧倒されているのだ。二十世紀のプルーストと並ぶくらいの作家だと、本気で言っているのである。

あら筋を紹介することが非常に難しい。俗に言えば、平安時代の色好みの貴族が、恋の遍歴を重ね、権力の座から落ちたり、また昇り詰めたりして一生を送る物語である。でもその説明では何もわからないから、もう少し詳しく語ろう。時の帝が、桐壺と言う部屋を与えられている身分の高くない愛妾をとりわけ大切にし、美しい男の子が生まれ、その子は光る君と呼ばれる。桐壺(部屋の名でその女性をあらわす)は、人々に妬まれて、それが原因で死んでしまう。

光る君は帝の子ではあるが、母の身分が低いので親王にはならず、臣下になって源氏の姓をもらう。だから光源氏だ。光源氏は母恋しの男である。十代後半になるともう恋に夢中であちこちに女性を訪ねる生活になるが、それは当時の貴族として珍しいことではない。殿上人は恋が仕事、みたいな風だったのだ。

帝は桐壺にそっくりだという女性、藤壺を入内させる(新しい妻にしたということ)ところが、桐壺にそっくりだということは、わが母にそっくりだということだと、源氏はひたすら憧れ、恋焦がれる。そしてとうとう関係してしまうのだ。(父の妻に手を出したってこと)そして藤壺は帝の子だと偽って、実は源氏の子を産む。一方、源氏は藤壺の姪にあたる(つまりは母そっくりの)少女を見つけ、その子を幼い時から世話して育てる・それが紫の上だ。

ところで、光源氏には左大臣からからもらった正妻、葵がいる。年上でどうもしっくりこない妻だ。その葵は光源氏の愛人で、プライドの高い六条御息所の嫉妬で、男の子を生むと同時に呪い殺されてしまう。そしてその後は紫の上が正妻のようになっている。でも恋人は無数にいる光源氏だった。そしてついに右大臣家(敵対関係)の娘で、次の帝(源氏の兄)の愛妾である女性につい手を出してバレる。それが原因で失脚し、須磨・明石に流される。

でもやがて復権し、かなり初老になってから、帝の娘、女三宮を正妻として授けられる。紫の上は自分の立場が弱くなったと苦しむ。ところがここで、女三宮に惚れきっている柏木という男が、ついにその人と密通。そして表向きには光源氏の子として、男の子が生まれる。すべてを知った光源氏は、自分がかって犯した罪と同じことが我が身に振りかかったのだと思い、無常を感じる。

やがて光源氏は死ぬが、そのあと、女三宮が産んだ薫を主人公とする第三部があるのだ、何というものすごい物語であろうか。こんな物語が、見事な筆致で描きだされているのだ。ここには書ききれなかった恋人たちとの、恋の一つ一つがどれも面白い。見事に性格が書き分けられているのだ。


『早わかり世界の文学』


加藤  |MAIL