加藤のメモ的日記
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| 2009年05月12日(火) |
ガンもそんなに悪くない |
ガンが増えています。日本人は毎年およそ100万人が死亡していますが、そのうち32万人くらい、つまり3人に1人がガンで亡くなっています。65歳以上では、2人に1人がガンで亡くなるのです。ガンは、人間の細胞の設計図であるDNAに徐々に傷がついたために生まれる異常な細胞です。簡単にいえばガンは細胞の老化です。そして、DNAの傷が積み重なるには、時間がかかる。たった一つのガン細胞が検査でわかるほど大きくなるには、10年から20年の時間が必要です。つまり長く生きなければガンを作るいとまがないのです。
日本人は第二次世界大戦後、急速に長生きになったのですが、乳幼児の死亡率が減少が最大の理由です。現代の日本女性の平均寿命は86歳で、これは子供の死亡率までを含んだものですから、65歳に達した方々は90歳まで生きることになる。日本は前人未到の長寿国家なのです。
がん治療の進歩によって、ガンの半数は治癒できる時代になりました。しかし、「ガン=死」というイメージはまだまだ根強い。実際、高い喫煙率、動物性脂肪ばかりが増えている食生活、低い検診率と必要の乏しい高額の検査、あまりの手術変調、軽視される放射線治療、不適切なそして使われすぎの抗ガン剤治療、放置される患者の苦しみ、心が通わない医師と患者の関係……など。
ガンが治っても人は必ず死にます。人間の死亡率は100%です。ガンを通して人生を考えることが、「よく生き、よく死ぬ」ことにつながると確信しています。
最近の研究では、ガン細胞は健康な人の体でも一日に5.000個も発生しては消えていくことがわかっています。ガン細胞ができるとそのつど退治しているのが免疫細胞(リンパ球)です。免疫細胞はある細胞を見つけると、まず自分の細胞かを見きわめます。そして自分の細胞でないと判断すると殺してしまいます。ガン細胞はもともと私たちの正常な細胞から発生していますので、体の外から侵入する細胞などと比べると、免疫細胞にとって「危険な細胞」と認識できない傾向がある、といわれています。それでも免疫細胞はできたばかりのガン細胞を攻撃して死滅させます。
しかし年齢を重ねると、DNAの傷が積み重なってガン細胞の発生が増える一方で、免疫細胞の機能(免疫力)が落ちてきます。そのためガン細胞に対する攻撃力が落ちる結果、発生したガンが免疫の網をかいくぐって成長する確立も増えるのです。長生きするとガンが増えるのは、突然変異が蓄積されるのと、免疫細胞の働きが衰えるからなのです。ガンが老化の一種といわれるのはそのためです。ガンは一部のガンを除き遺伝しません。ガンになるならないは運の要素が大きい。
どんなガンができやすいかは、生活習慣にも左右されます。例えば乳ガンや前立腺ガンが増えているのは、動物性の脂肪を多く摂るようになったことが背景にありますわが国では高齢化によってガンの死亡はどんどん増えていますが、その中で2005年に死亡が減少したのは、胃ガン、子宮頸ガン、肝臓ガンという「アジア型のガン」だけなのです。逆にタバコが原因となる肺ガン、動物性脂肪の取りすぎが原因と考えられる乳がん、前立腺ガン、大腸ガン、子宮体ガン等、「欧米型」のガンが増えています。
日本女性のバストも欧米人並になりました。これも肉を食べるようになった影響です。肉食の結果女性ホルモンが多く分泌され乳ガンが増えているのです。このように、ガンは生活習慣が発生のリスクを高めることはあっても、ガンになるかどうかの根本は運(確率)である点です。ですからベジタリアンの聖人君子でも、ガンになってしまう可能性はあるのです。
現在、日本で最も脂肪が多いガンが肺ガンです。タバコが原因の肺ガンは男性で70%、女性で15%。特に若い人の喫煙は危険で、20歳未満で喫煙を開始した人は、吸わない人の約6割も肺ガンによる死亡率が高い。ノドのガン、胃ガン、食道ガン、肝臓ガンなどもタバコで増えます。あまり増えないのは大腸ガンと乳ガンぐらいでしょう。タバコがなくなれば日本男性のガンの3割が消滅するのです。
放射線治療の特徴は、ガンを切らずに治し臓器の機能や美容を保つ点にあります。例えば喉頭ガンは、手術でも放射線治療でも治癒率は変わりませんが、選択されるのは放射線治療です。手術をすれば声を失うからです。乳ガンは、かって乳房の下の筋肉を根こそぎ切り取る手術が主流でした。しかし今は腫瘍の周辺だけをえぐり取って、乳房全体に放射線をかける「乳房温存療法」が主流です。
放射線治療では、多くの場合一ヶ月程度の通院ですが、一回の治療は数分で患部の温度は2000分の1度しか上がりません。なぜかというとこのわずかなエネルギーでもガンのDNA(遺伝子の本体)が切断されるため、ガン細胞の分裂と増殖がうまくいかなくなるのです。また免疫の仕組みが、ガン細胞を異物として認識できるようになることも大きい効果です。このためガンが免疫細胞に攻撃されてしまう。放射線は一種の免疫療法という側面もあるのです。
現在ガンの治癒率(5年生存率)は、およそ5割ぐらいです。治療の進歩にもかかわらず、いまだに半数近くの方がガンで命を落としています。しかし、ガンで亡くなる患者さんを支える医療が、日本では充分に行われているとはいえません。死に直面し、体や心に痛みを抱える患者さんにこそ、最高の医療が提供されてしかるべきでしょう。これこそが医療の原点であるはずです。
欧米では、治療できないガンや痛みなどの症状をもつ患者さんの、さまざまな苦しみを和らげることを主眼として、緩和ケアの考え方が確立されています。日本はガン治療の後進国ですが、緩和ケアはさらに遅れています。ガンの痛みを和らげるのことは、緩和ケアの一番大事な役割ですが、その主流はモルヒネ、あるいは類似の薬物を薬として飲む方法です。モルヒネと聞くと、薬物中毒など悪いイメージがありますが、口から飲んだり、皮膚に張ったり、ゆっくり注射する分には安全な方法です。
このモルヒネの使用量が、日本はカナダ、オーストリアの約7分の1、アメリカ、フランスの約4分の1程度と先進国の中で最低レベルです。しかし薬物を使わない分、日本の患者さんは激しい痛みに耐えているのです。実際日本ではガンでなくなる方の8割がガンの激痛に苦しむといわれています。この理由は、麻薬を使うと中毒になる、寿命が短くなる、だんだん効かなくなるなどの迷信があるようですが、まったく根拠はありません。
現実にはモルヒネなどの麻薬系の薬を飲んでも、中毒などは起こりません、それどころかモルヒネなどを適切に使って痛みがとれた患者さんのほうが長生きする傾向があるのです。これは食事もとれ、睡眠も確保できるからです、日本人は痛みをとることを拒否し、結果的に激しい痛みに苦しんで、人生の仕上げができないばかりか、生きている時間の長さでも損をしているのです。
ガンの治療とケアは対立するものではありません、治療とケアはともに必要で、症状によってウエィトが変わってくるだけなのです。ガンの治療とケアのバランスをとれるのが「名医」の条件だと思います。僕はガンで死にたいと思っていますので。実のところガンもそんなに悪くないと思います。
『がんのひみつ』中川恵一
『僕はガンで死にたいと思っています』と中川恵一氏は言う。中川氏にガンが見つかり「あと3ヶ月の命です。」と言われたら中川氏は何と言うのだろうか。「死にたくない、恐い」と泣き叫ぶのではないか。彼は50才とまだ若く、死は彼方にあるから死が実感できないのではではないのか。私は死ぬときは事故死とか、いつの間にか眠るように死にたいと思っている。なるべく苦しまないように。死期が決められたら地獄の日々だろう。日本の病院ではガンの痛みに耐える患者が偉いとか、立派だという倒錯した価値観があるらしい。それでモルヒネの使用量が先進国で最低レベルということだ。
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