加藤のメモ的日記
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2009年05月05日(火) 環境の影響を受けないウィルス

細菌は、この生命の基本単位である細胞ただ一個で完結した生命体だ。小さいながられっきとした立派な化学工場としての設備がある。細胞膜があり、その穴を通して外界から栄養や空気を出し入れする。核はなく、DNAやRNAはそのまま中央付近にうごめいているが、リボゾームはちゃんとあってタンパク質を合成している。例えば大腸菌はたった2ミクロンほどの中に1ミリメートル以上のDNAがあり、3000個ぐらいのDNAの鎖が並んでいて、3000種類ものタンパク質を合成させている。適度な温度と湿度、栄養があれば生命を維持し、自力で子孫を増やしていく。

一方ウィルスはDNAだけからできている粒子といっていい。生命維持のシステムが何もない。だから取り付いた細胞を損傷させる過程も細菌とは違う。細菌は自らの化学工場で生産活動を行い、増殖するときに毒を排出したり菌が死んで壊れたときに毒素が排出されて、これらの毒素が周辺の細胞を破壊したり、損傷させたりする。

ウィルスは自分に生命維持システムが何もないから、自らを再生産するために、他の化学工場を乗っ取る。つまり宿主の細胞の中にもぐりこみ、その細胞の生命活動そのものを乗っ取って、自分の遺伝子を大量生産する。逆に言えば生きている細胞の中でしか増殖できない。流行語にもなったパラサイト(寄生する)とはウィルスが元祖なのだ。

ウィルスは宿主の目当ての細胞にとりつくと、タンパク質の衣を脱ぎ捨て、裸のDNAだけするりと中に入り込む。ピストルの弾だけが中に撃ち込まれるようなものだ。そして自分のDNAの指令のもとに、細胞質内のタンパク質を使って、自分のDNAをどんどん複製して増殖する。思う存分増殖すると、何十倍となったDNAにタンパク質の衣装をまとい「ウィルス準備完了、パラサイト生活よさようなら」とばかりに宿主の細胞膜を破って外に飛び出し、次のターゲットに向かう。ターゲットが見当たらないときは、そのままの形で空気中をさすらう。

とりつかれた細胞は持てるものをすべてウィルスの遺伝子生産のために消耗して死んでしまう。ウィルスは今のところ地球で最小の生命体である。細菌は1〜5ミクロン(1.000分の1ミリ)くらいで、これもまさに「ミクロの世界」だが、、ウィルスはその十数分の一から数十分の一だ。ナノメートル(10億分の1ミリ)の世界である。ウィルスは細菌の細胞の中に入り込むことができるし、人間一個の細胞の中にウィルスが一個入れば、その中で200個ぐらいに増える。

細菌は生物としての弱みがあるが、ウィルスは生物としての弱みがない。だから手に負えない。ウィークポイントがないから殺しようががないのだ。生物はすべて環境次第で生死が左右されるが、ウィルスはあまり環境の影響を受けない。乾燥していようが温度が高かろうが低かろうがかまわない。温度に関係なく、風とともに宙を舞い、地面に落ちても死なない。だから本当に撲滅されることはあまりない。遺伝子と守りの殻のまま何年でも生き延びるし、いつまでも感染力を持ち続けのだ




『ウィルスの時代がやってくる』菅原明子


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