加藤のメモ的日記
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仕事一筋、御前様も当たり前。モーレツサラリーマン時代を経て独立し、部品工場を経営していたある日、病魔が突然襲った。「まさか自分が半身不随になるなんて考えたこともなかった。仕事をしていた時は、介護される自分などこれっぽちも想像していなかったんですから」入院後、立つこともできない自分に対して絶望しかけた、という。「諦めかけたときに耳にした医者の一言が心に沁みたね『年をとったら、みんなどこか不自由になる。それが少し早く来た、と思えばいいんじゃないですか』って。特に、『みんな』というところがね……」
医師の言葉に奮起し、畑沢さんは懸命にリハビリに取り組んだ。歩行訓練を重ね、数十センチ単位で移動距離が増えていった。やがて杖をつきながら外に出られるようになった。そして男たちの集う「『松渓ふれあいの家』へと辿り着いた。「ここは押し付けるんじゃなくて、興味のあるテーマに少しずつヒントや課題を出してくれる。だから明日も来よう、と思うんだ。一言で言えばやる気を引き出してくれる。会社で部下を使っていた時のノウハウやマネジメントにも通じるよね」(畑沢さん)
男性中心のデイサービス。成功の秘訣は、企業戦士のメンタリティーを充分に汲み取り、介護サービスの常識を変えたことにあったといえよう。高齢者施設で働く介護スタッフにアンケートをとったところ「男性入居者に対する介護の難しさ」を指摘する意見が群を抜いて目立った。
「社会の第一線にいたプライドを傷つけないように気をつけている」「入居者とスタッフは上司と部下のイメージで」「頑固な方も多く、他人と交わることが苦手なケースも多い」「情をかけられることを嫌う傾向があり、こちらがあまり主張しないようにしている」
介護スタッフが苦慮している様子が目に浮かぶ。男性は自分の体が思うようにならないことへの戸惑いが強いという指摘もあった。「企業戦士に多いのは、ある日突然、脳血管障害で倒れて手足が動かなくなるケース。つまり、一晩のうちに障害と老いが同時にやってくる。その大変化で、アイデンティティの崩壊に直面してしまう」
「もはや家族を養い、部下を指導してきたかっての自分ではないのだ、努力しても前の自分には戻れない、という諦めが倒れたというのになかなかできない。なぜなら現役時代は『頑張れば何とかなった』から。特に社会的に高く上りつめた男性ほど着地することが難しく、弱い自分を受け容れられない傾向が強い」
女性に比べて、男性が老いに弱いのは厳然たる事実のようだ。とすればいかなる対処法が有効なのだろうか。三好氏はこうアドバイスする。「一番にいいのは肩書きやキャリアなど過去のプライドを捨てて『オバサン化』すること。実は男社会なんて限られた世界なんです。企業を一歩離れれば、女性中心の社会が膨大に広がっていることに気づくはず。となれば、『無理な我慢はしない』『弱い自分を認める』『競争しない』といった、いわば女の論理に合わせて介護の世界に溶け込む。それができれば何とかなるはずです」
週刊ポスト 4月8日号
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