加藤のメモ的日記
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2009年04月08日(水) 猫は不快な選択を避ける

☆上杉隆 ジャーナリスト ★佐藤優 作家・外務事務次官 ◎荻原博子 経済ジャーナリスト

◎内政に目を向けると、麻生さんの言うことがコロコロ変わることに国民は辟易しています。定額給付金だって。高額所得者がもらうのは「さもしい」と言ったのに、舌の根も乾かないうちに「高額所得者にも盛大に使っていただきたい」でしょ。どうしてこんなにブレるのでしょうか。
 
★おそらくご本人の中では一貫しているんですよ。僕は外務官僚を見てきたから分かるのですが、「自己保身」という観点からは一貫しているんです。

☆私はかって鳩山邦夫総務相の秘書をしていたのでその感じはわかります。鳩山氏は、無所属で初当選を果たした後、自民党から非自民政権に移り、新進党や民主党などを経て、今再び自民党に戻っています。それで自民党に戻るとき「どう思うか?」と聞かれたので、当然、有権者に説明がつかないし、ブレているように見えるのでは、と答えたら、「だからキミは政治オンチなんだ。俺はブレずにまっすぐ行っているのに、政党のほうがブレているんだ」と言うわけです。(笑)

★霞ヶ関の官僚も似ているんですが、麻生首相の行動を理解するには、猫を研究したらいいんです。

◎猫?

★猫は善悪の基準ではなく、快・不快で動きます。不快な選択は極力避けて気持ちのいい選択をする。それに自己保身という基準が合わさると、普通の人からすると理解できない矛盾した行動になるのですが、本人の中では一貫しているんです。

◎なるほど。麻生さんはよく経済対策を発表していますよね。そのたびに世間もマスコミも振り回されているけれど、結局まだ何もやっていない。法案が通った一次補正予算は福田首相時代に作られたものだし、二次補正は法案が通ってもいない。なのに、もう第三弾を発表している。自分は経済通だという顔をして何度も経済対策を発表しているけど、あれは本人が「気持ちがいい」からやっているだけのことなんですね。

★発表して、ああ気持ちよかったという顔をして戻ってくると、官僚たちはそれを見逃さない。そこで自分たちの権益につながる政策を「また一発ぶち上げてはどうですか」とささやくわけです。

☆麻生首相が経済通だという根拠は、麻生グループの社長を経験して実体経済に通じているからだというものでしたが、それも実は怪しいものなんです。麻生氏が社長時代に次々を新規事業を立ち上げたんですが、ことごとく失敗して潰してしまった。それで弟の泰さんに社長交代して麻生グループは立ち直ったんです。しかし、この実態は隠されていて麻生氏は経営のプロとだという間違った評判だけが流布したわけです。

◎でも経済企画長官もやっていましたよね。

☆当時の官僚に取材したのですが、最初のレクをしたときから、ほとんど経済を理解していなかったと言っていました。

◎まったく理解できないのは、一日当たり三億円もかかる国会を開いて 補正予算に消費税の増税時期を盛り込むか、盛り込まないかを議論していることなんです。国民からすればそんな議論をする前に本当に増税が必要なのか、もっと無駄な支出がないのか、ということのほうが重要です。そんな道筋もない議論を聞かされているうちに、なんとなく消費税は上がるものだとみんな思い込まされてしまって、どんどん生活がシュリンクしているのが実情です。

☆これも世界の流れに逆行しています。金融サミットで各国は内需拡大に努めると約束して、英国は消費税に当たる付加価値税を2.5%下げましたし、中国は五十七兆円の景気刺激策を発表しました。オバマ新大統領も最大で八千億ドル(約七十二兆円)の景気対策をやると言っているわけです。その中で日本だけが二年後の増税を宣言して、マーケットのマインドを一人で冷やそうとしている。

◎天下り団体への国からの事業発注や補助金って十二兆六千もあるんです。これを二割削ればだいたい二兆五千億円で消費税一%分。こういう無駄をなくす努力をしないで、なぜ増税なんて言い出せるのか分からない。麻生さんは良く「国民目線」なんて言葉を使いますが、財務省の目線でしかない。まったく国民のことが分かっていらっしゃらない。「増税」と言うことがよぽど気持ちがいいのでしょうか。

☆安部税権時代から顕著になったと思うのですが、日本の首相の行動様式は、世界とどんどんかけ離れたものになっています。麻生首相が指定から外交電話をかけたこともそうですが、安部氏は首相時代に携帯電話を良く使っていました。外務担当の首相秘書官の使っている特別なものではなく、ごく普通い市販されているものです。麻生首相も携帯を使うのですが、東京にはすぐそばに米国、ロシア、中国などの大使館があり、傍受しているに決まっている。

●携帯は部下を信用しない証

★イスラエルやロシアの情報機関の建物に入るときは、携帯はスイッチを切っていても取り上げられます。それは電源を切っていても出る微弱電波が探知されるのを避けるためです。この微弱電波をたどって、誘導ミサイルが打ち込まれ暗殺される危険があるというのは現実の話です。だから国家首脳が携帯電話を使うというのは、禁じ手中の禁じ手。にもかかわらずそれが許されているのは世界情勢とわが国がいかに無関係かということです。

☆安部政権時代首相官邸で首相周辺に「普通の携帯で、総理が話をするのはまずいんじゃないか」と聞いたことがあるんです。そうしたら、「今はデジタルだから盗聴されないんだよ」と。そんなことないですよ。その程度の認識の持ち主が首相官邸にいると思うと、背筋が凍りつくような思いでした。

◎毎晩、ホテルや行きつけのバーに行くのだってセキュリティー的に大変なはずですよ。お友達との飲み会だったら公邸でやればいいのに。

★携帯電話を使うのは、部下を信用していないからなんです。小泉政権の首相秘書官だった飯島勲さんが書いていましたが、小泉さんは携帯を持たず、電話は必ず有線で、しかも一緒にいる人に内容を聞かせていた。つまり、総理の発言は重要だから、証人にするんですね。裏返せば総理の通話内容をバラした犯人がすぐわかるという怖さがあった。

☆たしかに、最近の麻生首相は側近を信じなくなってきました。政務秘書官の村松一郎氏や他の事務次官などの言うことはきかずに、総務省出身の岡本秘書官の言うことだけ聞くという感じですね。

◎なぜですか。

☆二人とも大雑把な感じで適当なことばかり喋るからじゃないですか(笑)。総務大臣時代からウマが合うようです。一方の村松氏は、きちんとしていていかにも”秘書”という感じ。本来であれば、総理と政務秘書官の連携がしっかりしていれば事務の秘書官は所詮役人ですから、一歩引くんです。ところが慣例では財務省から出ることになっている筆頭秘書官のポストを、総務省出身の岡本氏が奪い、さらには麻生氏と執務室にこもって二人でこそこそとやっている姿を見せ付けられて、他の秘書官たちは嫉妬し、疑心暗鬼に陥っているんです。

★それは、エリツィン元大統領の末期と似ていますね。彼も大統領顧問や首席秘書官を信用せず、信頼していたのは二人だけ。それも、ボディーガードとテニスの先生でした。

☆小泉政権では、基本的に飯島秘書官を通してしか情報が首相に伝わらないし、逆に情報も出ない仕組みになっていました。つまり情報のラインが秘書官を通じて一本化されていたのです。ところが安部首相時代になると、飯島秘書官のような存在がいないので、安部首相自ら携帯で情報の収集・発信をするようになったのです。しかし、いくつものチャンネルから入る千差万別の情報を総理自身が管理できるはずがない。しかも携帯で直接やるので横の情報共有もされない。その結果、情報が錯綜して混乱し何がなんだか分からなくなってしまった。

◎そんな安部さんのことは、麻生さんもよくわかっているはずなのに、消費税の問題で、またもや調整役として出てきましたよね。「お腹が痛い」とか言って、逃げるような辞め方をした人を引っ張ってきて、麻生さんは支持率低下に拍車がかかるとは思わないのでしょうか。

☆結局、そこが「世襲議員」の限界なんですよ。彼らには、彼らにしかわからない共通言語というか共通意識のようなものが通底しているのだと思います。麻生内閣の18人中12人が世襲議員。彼らは地方に選挙区があるといっても、生まれも育ちも東京都心部の高級住宅街で進学校に通って成長した人たち、そこにはひとつの「階級」のようなものができあがっていて、その仲間内でなければ信頼できないのです。

◎しかも、世襲議員同士で姻戚関係が絡んでいたりして、もはや貴族社会のようですよね。

★貴族というのなら”ノブレス・オブリージュ”(貴族の義務)がないといけない。だからカースト制と言ったほうが近いでしょう(笑)

☆そういった階級ができる最大の要因は、「地盤、看板、カバン」、とくにその中でもカバンを非課税で相続できることが大問題なんです。じつは、親の政治資金管理団体からこの政治資金管理団体に資産を移すときは、寄付という形であればすべて非課税なんです。世の中には相続税で頭を悩ませている人達がいっぱいいるのに、政治家は何億円という遺産を事実上無税で相続できる唯一の職業ということになります。年末、このことを『週刊文春』に書いたら、何人かの世襲議員から「あれだけは書くなよ」と苦情が来ました(笑)。

★村上正邦元参院議員が言っていました。「なぜ世襲議員が増えたのか分かるか?簡単だよ、儲かるようになったからだ」と。歳費は上がっているし、月百万円の文書通信交通滞在費もあるわけです、ろくに政治活動もしないで、それを使わず溜め込んでおけば、億単位の蓄財も可能です。こんな職業は他にありませんよ。

◎政治家と公務員が税金を食いつぶすことで、特権階級を作りつつあるということに、国民は苛立ちをつのらせている、実際、国家公務員の平均給与は約663万円、地方公務員は約730万円で、一方の民間は430万円ぐらいなんです。

★こういった現象が今後も続くなら、非常に怖いシナリオが出てくる可能性もありますね。例えば田母神前空幕長の論文問題のとき、みんなクーデターを連想したわけです、それから元厚生次官宅襲撃事件のときはテロを予測しました。そういったクーデターやテロを怖いなあと思う心理の裏には、そうでもないと今の政治は変わらないという気持ちがあるのではないでしょうか。

◎もしそうなら、1929年の世界大恐慌の後、昭和恐慌に見舞われて、青年将校たちがクーデターを起こしていったのと変わらないじゃないですか。

★昨年起きた秋葉原無差別連続殺傷事件だって、あれが秋葉原でなく経団連を襲っていたらどうだったでしょうか。

☆世襲議員だけではなく、永田町の政治家たちが国民の利益ではなく党のことばかり考えるようになったのも、問題を悪くした一因ではないでしょうか。安部首相以降、、会見などで首相が平気で党の利益を代弁するようになった。所信表明で、野党との対決姿勢を示し、「私は逃げない」と党総裁の立場から国会演説した麻生首相が最たる例です。首相は党の総裁である前に日本の首相なわけですから、この国家の危機に自民党の危機なんてどうでもいいんです。


週刊文春 2009.1.29


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