加藤のメモ的日記
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2009年02月15日(日) ゲーテ 「ファウスト」

ドイツに実在したと言われる伝説的な魔術師ファウストが主人公である。ファウストはあらゆる学問をしてみたが、真に知的欲望を満たすことはできないと絶望している。私はすべて知りたいのに、というところであろう。そこへ、悪魔のメフィストフェレスがつけ込むのだ。魂を賭けた契約を結び、若返りの薬を飲んで人生を体験しつくそうということになる。

ファウストは契約をし、若返る。そして純真な少女マルガレーテ(グレーとヒェン)と恋に落ちる。マルガレーテはファウストとの逢引を一瞬でも引き伸ばそうと母に眠り薬を飲ませるのだが、量を誤って殺してしまう。

やがてマルガレーテはファウストの子供を身ごもる。そこへ軍隊から兄のヴァレンティンが帰ってきて、妹を傷物にしたからとファウストに斬りかかるが、逆にファウストに殺されてしまう。マルガレーテは子供を殺してしまい、牢獄に入れられやがて処刑される。そこまでが第一部である。

第二部は話のスケールがぐっと大きくなって天界や、古典世界や、神の領域までが舞台になる。そして簡単にいうならば、天才は何をやってもうまくいき、何をやっても許されるだろうか、という問いの答えを探していくのである。ギリシアの美女へレナとファウストが結ばれて子供が生まれたりもする。

すらすらと読めるとは言い難いのだが、まるで天上界のパーティーに巻き込まれたように、次から次へといろんなものが主張を並べ立てて賑やかな感じである。ギリシア世界や中世のゲルマン社会などが自在に出てくるのも、教養のきらびやかさという感じだ。ファウストとメフィストフェレスの契約は、もしファウストが現世の誘惑に負けて、ある瞬間に対して「止まれ、お前はなんと素晴らしいのだ」と言ったときには、喜んで自分は滅びよう、というものである。

そして第二部の第五幕では、ファウストは大領主となっているのだが百歳で死に、契約に従ってメフィストフェレスに魂を渡さなければならない。しかしそこで、ファウストが昔見捨てたマルガレーテが出てきて聖母マリアに仲介してくれ、魂が救済されるのである。壮大なな話である、と思わざるをえない。

要するにこれは天才が悪魔と契約をして、全世界、全存在の意味を知ろうと人生をやり直して、ついには神に救われるという構造の物語なのだ。それを思いもかけない場面の連続で、とうとう描ききってしまっているのだ。神も悪魔も、古代も現代も、愛も裏切りもすべてが出てきてファウストに何事かを教えてくれる。


『早分かり世界の文学』清水義範


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