江草 乗の言いたい放題
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2008年05月06日(火) ハメこまれた人たち15(千年の杜)        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan

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 ボロ株と呼ばれる一群の銘柄がある。キムラタン(8107)や、ニューディール(4740)、イチヤ(9968)という極端に安い株である。5月2日の終値はキムラタン11円、ニューディールとイチヤがそれぞれ6円という哀れな状況である。これらの企業の株価がなぜこんなに安いかというと、長期間業績が低迷していたり、株券を発行しすぎて一株価値が希薄になったりしているからである。

 ボロ株を売買するのは通常は個人投資家である。ただ単に最低投資単位が少ないからという理由でお手軽に参加できるのだが、なぜそんなに安いのかということを考えたときあまり賢明な投資先であるとは言えない。外資や投信などはこういうキワモノには普通は手を出してこない。ある意味純粋にギャンブルを楽しみたい投資家がボロ株に集まっているという見方も可能である。わずかな資金で参加できて、大きなリターン(ほとんどそんな僥倖は起きないが)を期待できる究極のギャンブルがボロ株投資であると言えるかも知れない。そんなボロ株の中のひとつに「千年の杜(1757)」という銘柄があった。

 いちおう建設業という看板を掲げてはいるが、給排水管会社を買収して傘下におさめて2006年8月からは純粋持株会社になっている。業績はかなり悪く、子会社の営業有価証券評価損等の原価計上の結果が大赤字で、2007年9月末の時点で11億円の債務超過となっており、なんらかの方法で資本増強しない限り企業としての存続は困難な状況であった。だから株価も低迷を続け、2008年1月17日は19円まで値下がりしたのである。まさかそのボロ株にこんなドラマが待っていようとは誰が想像しただろうか。いや、想像できた人間はいたはずだ。ここから起きるすべてのシナリオを事前に予想して大金を稼いだ人間が存在したのである。証券取引法違反(インサイダー取引)で検挙されるのはいつも小物ばかり。数十億を手にした大物はいつも巧妙に捜査の対象を免れているのだ。ここから発生した千年の杜の大相場を株価操作と呼ばずしてなんと呼ぶのだろうか。

 19円を底に徐々に動き出した千年の杜の株価は1月末には100円を突破、半月の間に5倍以上になったのである。その急上昇を見て個人投資家が徐々に群がってきた。そして出来高もどんどんふくらみ始めた。参加者が集まらないと仕手戦は盛り上がらない。ただ、ここで注意しないといけないことはこの「千年の杜」が非貸借銘柄、つまり空売りできない銘柄であったということである。個人投資家はこの仕手戦に参加する方法として、「買い」で参加することしかできなかったのだ。新たな参加者がどんどん高値で買ってくれるので、初期の参加者は利益を確定して売り抜けることができる。しかし、自分が売った値段以上に値上がりすると、また買って再度参加してしまうのである。そうして株価は上昇し続けたのである。

 この相場上昇にはちゃんと理由があった。「千年の杜」は2006年12月に20億円分のMSCB(「転換価格(下方)修正条項付き転換社債」)を発行していたのである。その転換価額をできるだけ安くして、そして実際の株価をもっと高くすればその差額が利益になる。2月12日、株価が142円になった時点で大量保有報告書が登場した。澤田地平氏が412万株(9.36%)を保有しているということだった。澤田氏は400万株を借り株で調達し、12万株は市場で平均70円で購入している。またこの時点での大株主はROXANE(1444万株=平均取得額90円)ライズ(479万株・39円)、ユナイテッド(488万株・40.5円+新株予約権111万株)となっている。売り抜けるための準備万端を整えたプレイヤーたちが出揃ったのである。

 その後「千年の杜」の株価は3度のストップ高をはさんで連日急騰し、なんと2月21日につけた最高値は501円だった。しかし、その日の終値は363円(−80)のストップ安だったのである。急騰時には一日の出来高が1000万株近くふくらんだ。大口の保有者たちはその急騰時におそらく借り株を売却する形で空売りを行ったと推測できる。急騰劇にだまされた個人投資家たちは最高値近くでこのボロ株をつかまされるハメとなった。まさに「ハメ込まれた」のである。

 しかし、個人投資家は本当に逃げるチャンスはなかったのだろうか。たとえば2月12日に「千年の杜」は第7回〜第18回新株予約権発行のIRを発表している。発行数は各100個▽新株予約権の目的となる株式=それぞれ1000万円を行使価格で除して得られる最大単元数に新株予約権の発行数を乗じた数の普通株▽発行価格=1個につき各8万1100円▽発行総額=各811万円▽割当先=Top Gear Investment▽払込日=2月27日▽行使期間=2月27日〜2011年2月27日▽当初行使価格=1株につき各135円という内容だ。確かなことは2月27日を過ぎれば135円で転換された株が市場で売却されるわけで、その時点での時価と135円との差額が売却者の利益となるのである。つまり、少なくともこの仕手戦の参加者は2月27日までには撤退する必要があったのだ。

 2月15日(金)、株価が高値298円を付けたものの引け際に大量の売り物が出て245円で引けた日があった。このときはそれまで連続三日間、1000万株近い出来高だったのである。オレは週末のこの動きを見て「ここで終わった」と思ったし、上昇相場に参加しなかったことを惜しかったと思ったが、その場合ここで逃げ切れたという自信はなかったのだ。誰もが終わったと思ったその時点で、最後の陥穽が用意されていたのである。それが2月14日付けで発表された 謎のIRである。それはこの「千年の杜」がロシアのソチ市で、黒海沿岸の人工島プロジェクトに参画するという内容だったのである。2014年に予定されている冬季オリンピックの関連施設がそこに建設されるという。ロシアの「有限会社ホマル社」から株式の譲渡を受けてその権利を取得するということがそこには記されていたのである。 これを裏付けるような内容のタス通信の記事も2月15日に出た。IRだけでは信じなかった投資家も、タス通信の記事を見て「本当だったら買い!」と判断したのだろうか。終わったはずのこの株は2月18日から急騰を再開した。18日は283円(+38)で引けたのだが、19日はストップ高の363円、20日もストップ高の443円をつけて、21日の最高値501円に向かって一気に駆け上がったのである。崩れればあとは一気呵成だった。誰が最後にババを引くかのロシアンルーレット状態で株価が上昇し、それが一気にはじけただけのことである。

 19円から501円に株価が上昇したということは26倍である。わずか一ヶ月で26倍、まさに常識はずれの動きである。オレは長年株式投資をやってるが、こんな劇的な上昇にはなかなかお目にかかれない。現物株でも26倍、もしも上昇時にどんどん信用取引で買い増しを続けていれば元金を100倍以上に増やすことも可能だったわけだ。しかし、株価がもっとも上昇した時点で信用取引の買い建玉を大量に持っていれば、その後の暴落で破産したことは間違いない。いつその相場が終わるのかは誰にもわからない。2月15日に一度売り抜けて大きな利益を手にした人の中に、その後の上昇を見てあわてて飛び乗って、せっかく手にしていた利益をすべて失っただけではなくさらに大きな損失を出した人もいたはずである。

 高値づかみの多くの遭難者を出してその後静かに下げていくかと思われたこの「千年の杜」は、その後何度かだまし上げを繰り返した。オレはその上昇は逃げ遅れた大口の投資家が逃げ切るために仕掛けたのだと想像している。そのだまし上げを見て個人投資家は「夢よもう一度!」とばかりに食いついては、そのたびに大量の売りを浴びせられて壊滅していったのである。暴落を開始した2月25日の出来高が1800万株もあり、その後も少し上昇すれば出来高がふくらんだことから想像するに、かなりの個人投資家が「まだ終わっていない」とこの仕手株に果敢にチャレンジしていったことがわかる。しかし、下に示すこの株のチャートを見てもらったらわかるように、下落過程で参戦した投資家のほとんどが敗れ去っているのである。しかも非貸借銘柄だから個人投資家は空売りで稼ぐこともできない。最後は結局逃げ遅れた個人投資家の墓場のようになっていったのである。




 4月30日の終値は131円、一ヶ月あまりの間に株価は約1/4になってしまった。そして2月14日に出されたIRの続報はない。黒海の人工島プロジェクトはいったいどうなってしまったのだろうか。もしもその話が本当に実現性のある話なら、ここまで暴落しないと思うのである。しかし、そんな大事業を受注するのはおそらく大手ゼネコンであり、社員17名の再建途上の赤字会社が受けたというのは怪しすぎる。オレは今回のこの相場が、大量の新株予約権を利用して仕掛けられた壮大な個人投資家へのハメ込み劇だったような気がしてならないのだ。しかし、ハメ込まれたことを恨んではいけない。仕手株というのは基本的にそういうものである。ハイリスクハイリターンだからこそ多くの個人投資家が夢を描いてそこに集まってくるのである。その夢をつかむことができる頂点での売り抜けに成功するのはごく一握りの投資家と、すべてを計算して仕掛けた仕手本尊だけなんだが。

 一株資産6円というこの会社の株価が今も100円以上あるのは高すぎる。いずれ株価はスタート時点の19円に限りなく接近していくだろう。そしてもう一つオレが巧妙だと思うことは、この会社が社名を「千年の杜」から「東邦グローバルアソシエイツ」という雄大な名前に変えたことである。まるで自己破産したヤツが養子縁組して名前を変えたようなうさんくささをオレは感じてしまうのである。そこまで言ってしまうと暴言が過ぎると叱られそうだが、今回の相場で稼いだ連中の悪辣さに比べればオレの暴言なんて実にカワイイものである。

追記:私が予想したとおり、このプロジェクトは実は売り抜けのためのヨタ話であったことが判明した。7月25日に発表された会社のIRは以下の通り
 人工島建設における業務委託に関しロシアSOYUZMORNIIPROKET社との交渉打ち切りに関するお知らせ
当社は、平成20年6月26日に開催の取締役会におきまして、ロシアSOYUZMORNIIPROKET社との間で人工島建設における業務委託契約の締結に関し基本合意したことを決議しましたが、今般、同社との交渉を打ち切ることを決定いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。

当社は、平成20 年6 月26 日付当社プレスリリース(「人工島建設における業務委託契約締結の基本合意に関するお知らせ」)でもお知らせしておりますとおり、ロシアSOYUZMORNIIPROKET 社との間で、人工島建設における現地詳細調査(ボーリング、地盤探査等)、建設に向けた実施設計ならびに建設の許認可変更手続等に関する業務委託契約の締結に向けて、相互に交渉に入ることについて基本合意をいたしました。しかしながら、今般、SOYUZMORNIIPROKET社との間で金額面での隔たりが大きく、折り合いが付かなかったため、かかる基本合意を終了させ、交渉を打ち切ることで同社と合意いたしました。
以 上


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