江草 乗の言いたい放題
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2007年06月11日(月) ハメこまれた人たち12(共栄タンカー)        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan

 過去のハメこまれた人たちシリーズを読む。

 2007年4月から6月にかけて、なぜか突然の海運株ブームが起きた。原油高で燃料費高騰は海運業界にとっては逆風のはずだった。ところが中国の経済発展による需要の増大や、用船料の値上げなどで燃料分を穴埋めできる見込みがたち、各社が好決算を次々と発表したことも重なったのである。3月19日に安値890円をつけた日本郵船(9101)は6月5日には1227円まで上昇したが、小型株の値上がりはもっと激しかったのである。乾汽船(9113)は4月6日には784円だったが、6月4日にはなんと1994円と2.5倍の値上がりを見せたのである。他にも川崎汽船(9107)、飯野海運(9119)、第一中央汽船(9132)などもそろって値上がりした。海運株のめぼしいところが値上がりしてしまって物色対象がなくなると今度は関西汽船(9152)のような好景気に関係ない内海航路中心のところや、佐渡汽船(9176)のように債務超過の会社まで暴騰した。とにかく海運株と言うだけで猫も杓子も上がる状況だったのである。

 さて、その海運株ブームに出遅れた銘柄が一つあった。それは共栄タンカー(9130)だ。過去に何度か大相場を作ったことのある往年の仕手株である。4月2日に295円だった共栄タンカーは5月9日にいったん407円まで上昇したがそこから失速し、5月21日にはなんと283円の安値を付けた。その407円までの上昇の原因は個人投資家に情報を無料メールで配って買い煽り、じわじわと値上がりさせて売り抜けたとある投資顧問の仕掛けだったのである。その投資顧問は売り抜けてから「今回の共栄タンカーはこれで終了」というメールを配布した。すると共栄タンカーを空売りしてそこからの値下がり益を確保しようとする個人投資家がどんどん増えて、その結果283円まで売られたのである。

 「空売り」というと昔は相場師や機関投資家しかやらなかったが、ネット取引で信用取引を利用する個人投資家が増えた結果、この空売りという危険な行為にもまた個人投資家が短期での大きな利益を求めて群がるようになったのである。共栄タンカーが407円から283円まで値下がりするのに要した日数わずか12日である。たとえば400円で1万株空売りするのに必要な委託保証金はマネックス証券の場合120万円である。それを300円で買い戻せば手数料を計算に入れなかった場合100万円の利益が出るわけだ。元金120万円が12日後に220万円になるという短期でのコストパフォーマンスの高さに個人投資家が群がるのも無理はない。しかし、この暴落と大量の空売り発生を見て一発仕掛けようとして虎視眈々と狙っていた誰かがいたのである。その誰かが個人なのか、機関投資家なのか、あるいは複数の名義に分散させて名前が出るのを隠した大物仕手筋なのかはわからない。もしかしたら選挙資金獲得用に政治家が暗躍したのかも知れない。

 5月28日298円(+3)、29日306円(+8)、30日315円(+9)と少しずつ共栄タンカーの株価は上昇し始めた。しかし出来高はわずか30万株程度でありさほど目立つ動きではなかった。突如仕掛けてきたのは5月31日である。その日325円(前日比+10)で寄りついた共栄タンカーはなんと395円(+80)のストップ高を演じたのだ。その日の出来高は657万8000株だった。しかし問題なのはこの日に100万株以上の新規の空売りが発生してしまい、かなり売られすぎて株不足の状態になってしまったことである。ここで空売りした個人投資家たちにしてみれば「前も407円から下げた。上がってもどうせ400円くらいだろう。ここは空売りで狙おう」と思っていたはずである。6月1日に発表された5月31日分の逆日歩は0.55(55銭)だった。この逆日歩というのは空売りしている人が払わされる品貸し料である。1万株の空売りをしていれば一日あたり5500円払うことになるわけだ。株不足が進めばさらに値上がりすることになるし、火曜日に空売りを持ち越した場合は逆日歩を3日分(週末を含むため)払うことになる。約定の日付と実際の受け渡しの日にズレがあるからこのようなことが起きるのである。

 さて、ストップ高の翌日、売り方は不安な一夜を過ごしたわけだが、翌金曜日、共栄タンカーは寄り付きこそ高かったもののそこから下げ、いったん前日比マイナスになって387円まで下げた。「やっぱり400円は越えない!」と安心した売り方はさらに新規の空売りを入れた。しかし11時に発表された逆日歩(5月31日持ち越し分)は1.5円に上昇していた。その日の引け値は402円とわずかに400円を越えた。引けに掛けて買われたからである。売り方の一部には警戒して返済する者も出てきた。その時に大事をとって返済買いして損切りしておけばその後全財産をなくすようなことはなかった者もいたかも知れない。悲劇はその後に起きたからだ。この日の出来高は1300万株を超えていた。その後の大相場を予感させる出来高だった。

 株を買うものは財産をなくすが、株を空売りする者は命をなくすというのは昔から相場の世界でよく言われることである。買いで入った場合、損失は買った金額以内で済むのだが、空売りの場合の損失は青天井だ。読みを誤れば無限に損失が拡大していくのである。だから命をなくす場合もあるのだ。大物仕手筋の中にはヤクザの資金運用に携わる者もいるという。もしも彼らが負ければどうなるか。失敗して大きな穴をあけたために大阪湾にコンクリ詰めにされた沈められた者や富士山麓の樹海で首を吊った者も過去にいたかも知れない。相場とはそんな生き馬の目を抜く世界なのだ。個人投資家が単なるお手軽な利殖
の感覚でこんな危険な仕手株に近づいてはならないのである。空売りした株がわずか30%値上がりするだけで保証金はすべて吹っ飛んでしまうのである。

 週明けの6月4日、共栄タンカーは427円(+25)で寄りついた。辺りをなぎ倒すような勢いの海運株ブームは物色対象を求めてこんな辺境の株にまでやってきたのだ。そして一気にストップ高まで押し上げられて482円(+80)で引けた。この日発表された逆日歩は1.5円(6月1日持ち越し分)である。株不足は一層進んでいる。下手をするとどんな高額の逆日歩になってしまうかわからない。売り方はどんどん追いつめられていったのである。しかし、かなり安い値段で空売りしてしまった人たちはあまり損切りして返済買いするような動きをしていなかった。まだ大丈夫だとたかをくくっていたのだろう。海運祭りはついにクライマックスを迎えていた。その掉尾を飾ったのがこの共栄タンカーの暴騰だったのである。

 6月5日、492円(+10)で寄りついた共栄タンカーはあろうことか寄り付き直後に459円(前日比−23)まで売られる。誰もが「もう相場は終わった」とここで思ったはずだ。売り方はここぞとばかりに新規の空売りを入れたし、買いでこの相場に参加していた投資家たちもそこであわてて利益確定の売りを入れた。上昇相場についていけずに見事に振り落とされてしまったのである。しかし、株価はそこから急反発してすぐに500円台に乗せた。14時近くまで何度も大きく下げながらもみ合ったために「やっぱりこのあたりが頂点」と思った人は新規の空売りを入れた。この日発表された逆日歩(6月4日持ち越し分)は3円に上昇した。6月5日に持ち越せば逆日歩は3日分である。空売りが返済されて減少していない限り売り方は3円×3=9円、もしくは4円×3=12円支払わされることになるのだ。上昇を阻止したかったのか売り方はそこで買い方に投げさせようと必死の空売りを入れた。この日発生した新規の空売りは300万株を越えていたわけでそれだけ売り方が真剣に売り崩そうとしていたことがわかる。しかしその努力も空しく14時台になんと成り行きで300万株の買い注文が入った。上昇を阻止しようとして並んだ売り板は鎧袖一触粉砕され、株価はたちまちストップ高の562円(+80)に張り付いたのである。そこからは大量の買い注文が膨らみストップ高比例配分となった。もう売り方に逃げ場はなかった。返済買いして損切りしようにもあまりに買い注文が多くてもう買えなくなってしまったのである。

 大量に発生した株不足のために東証は6月5日、共栄タンカー株の信用取引規制(新規の空売り禁止)を発表した。発行株数3800万株、浮動株せいぜい1300万株のこの小型株が一日に5853万株の出来高を記録し、600万株を超える株不足という状況になってしまったのである。

 新規空売り禁止になった6月6日、売り注文で出てくるのは買い方の利益確定の売りだけだった。この日も572(+10)で寄りついたのも一瞬ですぐに急上昇して株価は662円(+100)のストップ高に張り付いた。売り方の多くは突っ張って耐えることを止めてそこでついに力尽き、損切りすることを選んだからである。その日返済された空売りは380万株を超えた。その日の出来高1839万のうち20%近くが空売りした人の損切り返済買いだったのである。売り方はその日ほぼ壊滅した。6月6日に発表された逆日歩(6月5日持ち越し分)は12円だった。空売りした人は損切りさせられただけではなく、さらにこの逆日歩も支払わされたのである。

 6月7日、海運株相場は突如終わった。この日の寄り付きで海運株のいくつかはストップ安気配を示しているものもあったという。共栄タンカーも徐々に気配値を下げて結局寄りついたのは672円(+10)だった。しかしそこから最後のマネーゲームがはじまったのである。大きな単位の成り行き買い、売りが炸裂して株価は上下に激しく揺さぶられ、買った者は暴落に狼狽してすぐに投げ売りし、売って利益を確定したものはその後の暴騰に驚いて買い直した直後に暴落に見舞われ、なんと瞬間的にストップ高の762円(+100)までこのマネーゲームの中での上昇があったのである。それが最後の打ち上げ花火みたいなものであった。徐々にザラ場の参加者は敗者ばかりになっていった。どんどん値下がりするということはババを掴まされたものだけが賭場に残ってるという状況である。ついにはストップ安の1円手前の563円まで下がった。一日の値幅が上下で実に199円もあったのである。終値は587円(−75)、もはや完全に相場は終了した。その日、生き残っていたはずの売り方はさらに激減した。高値で泣く泣く返済させられて終値の安さに悔し涙を流した者も多かっただろう。6月8日には一度も前日比プラスになることもなく514円(−73)、もはや誰もそこから上昇するとは思わない無惨な状況となったのである。

 この共栄タンカーの場合、空売りでこの勝負に入ったものが壊滅しただけではなく、買った者も素直に儲かったものはいない。途中で何度も「相場終了」のだましサインを見せられてわずかな利益で満足して勝負を下りてしまったものが多かったからである。往年の仕手株は海運祭りの掉尾を飾るにふさわしい伝説となる3日連続ストップ高を見せてくれた。もちろん江草もこの勝負に買いで参加できた一人である。ただ度胸もなく逃げ遅れを怖れるあまりにわずかな利益に満足して勝負を下りた一人のチキンな投資家であったということもまた逃れようのない事実なのだが。


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