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あるこのつれづれ野球日記
あるこ
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2003年11月06日(木)
あるこの半日旅 〜奈良・斑鳩編〜 


 なるだけ早く、斑鳩高校に行こうと思っていた。それも単にグランドを見るだけではなく、きちんと練習を見るために。

 その発端は、今夏の東北方面への旅にさかのぼる。
 初日、新潟・柏崎高校のグランドで練習を見せてもらったのだが、そのときに監督さんと女子マネージャーの両方から、何の意図もなく、「斑鳩高校には行かれましたか?」と訊かれた。斑鳩高校は、柏崎高校は選抜に出場したときの対戦相手だ。単純にそれだけが理由かと思っていたのだが、それはちょっと違った。

 すでにご存じの通り、柏崎高校は21世紀枠での出場校だ。同校の選出にはいろんな論議を呼んでおり、ネット上での批判中傷もあり、それは監督さんもご存じだった。試合は2−1で斑鳩高校が勝ったのだが、そのときに斑鳩高校の監督が、マスコミを通して、「(柏崎高校は)まぐれで出場したわけではない。力のあるチーム」というコメントを出したという。それを話してくれたときの監督の表情がすごく印象的だった。安堵したような、それでいて、誇らしげに見えた。目線は、グランドにあった。一番認めて欲しい人に、認めてもらったんだ。それでいいんじゃないか。私はそう思った。私個人は21世紀枠に好意的ではないが、こういう風に個々とは別問題である。そういうことにも気づかせてもらった。そんなわけで、斑鳩高校が気になる存在になった。

 法隆寺駅に到着したのは、午後2時。練習開始は大体4時くらいと見込んで、余った時間で法隆寺へ行くことにした。仏像とかには興味ないが、寺の雰囲気は好きだ。散策しているだけでも十分楽しい。曇り空に平日だったが、修学旅行生や観光客がいて、思いの外賑わっていた。良心のほんのかけらが、「拝観した方がええんとちゃうん?」と囁いたが、拝観料の1,000円に度肝抜かれ、良心のかけらくん、撤収。外から、五重塔を眺めて、「秋やのぅ〜」と自販機で買った爽健美茶を一口。紅葉もいい感じ。近くにある観光案内所によって、斑鳩の名所を映像で散策し、パネルで五重塔の作り方や、法隆寺改修時の現場を撮ったビデオを鑑賞した。

 もうぼちぼちやろと斑鳩高校へ向かった。道路が狭く、すれ違う車におびえながら路肩を歩いた。途中で勇気を出して道路の渡ったのだが、その直後、カンカンカンカンカンというアルミっぽい音がして振り向くと、大型トラックが歩道に突っ込んでいた。衝撃の事故現場だった。あと1分移動が遅かったら、うち、死んでたかもなあ。

 拝観料も払ってないのに、神のご加護があったようだ。ありがたし。約20分かけて、富雄川沿いにある斑鳩高校に到着。川沿いの道路は広く、歩道からグランドを眺めることが出来た。前述したが、今日は天気がよくなく、グランドには水たまりもあった。野球部員はグランドの端っこでウォーミングアップをしていた。手前ではサッカー部が、キャッチボールならぬ、キャッチヘディングをしていた。

 普通にグランドを見るだけなら十分な距離感。でも、今回は練習を見ることが目的である。学校へいざ。事務室へ行き、練習見学のお願いをすると、部長先生が応対してくださった。多少は予想していたが、グランド状態がよくないため、今日はノックやバッティング練習などは出来ないでしょうとのこと。一瞬、テンションが下がったが、「それでもよろしければ、どうぞ」と言われたので行くことにした。グランドに降りたって確認したいことがあったのだ。

 体育館の横を抜けるとグランドにたどり着けるわけだが、途中、弓を射る生徒がいた。弓を引き、しばしの沈黙。動きが止まる。あのシャンとした雰囲気、好きだ。見とれていたら、生徒の放った矢は的を射ず、灰色の砂にドスッと当たって落ちた。邪魔したかな。そういや、ここは弓道も強いはずだ。姉が学生時代弓道部にいたとき、下級生が弓道推薦で入部していきたが、出身校が斑鳩だったと聞いたことがある。

 グランドに着いて真っ先にしたこと。それは五重塔探し。以前見た雑誌に、『レフト後方に五重塔が見える』と書いてあったのだ。結果は、「えっ、どこにあんの?見えへんって!」。天気がよくなかったからかもしれない。

 ネット裏で、グランドを見ていると、女子マネージャーに「こんにちは、監督さんに用事ですか?」と聞かれた。私は首を振って、練習を見せてもらっていることを話した。色黒で、ソフトボールでもやってそうなスポーティーな雰囲気の女の子で、何故かニコニコしていた。間もなく、彼女からお茶をいただいた。やっぱりニコニコしていた。私にお茶を渡したあとは、もう一人のマネージャーと一緒にダグアウトの近くで何か作業をしていた。私は湯飲みを返しに行くついでに何をしているか見てみることにした。水筒みたいな容器が10個か20個くらい並んでいて、中にはクリーム色の液体が入っていた。「何を作ってるんですか?」と聞くと、「プロテインです」という答えが返ってきた。容器のふたには部員の名前が書いてあるようだ。それから間もなく、ネット裏に戻って練習を見ていると、「失礼しま〜す」という声が聞こえたので、振り向くと、彼女たちはすでに制服に着替えていた。グランドの前でぺこりをお辞儀をすると、門の方向へ向かって歩き出した。女子マネが途中で帰るのを見たのは、初めてだ。チームの方針なのか、校舎内で作業があるのかよくわからないが、外はすでに真っ暗だったし、周辺道路は交通量の割に狭い。危ないと言ったら、危ない。

 グランドではトスバッティング、ブルペンでは投球練習が行われた。ネット裏にはカーテンみたいな網が二重に設置されており、それにとってより多くの部員が練習出来るようになっている。水色にケースにはカラフルなテープで巻かれた色とりどりのボールが入っている。部員が打ち込めば打ち込むほど、グランドには色で満ちていく。そこで、右手ボールをあげるときに、関係のない左手も何故か逆方向へあげてしまうクセのある部員を見つけた。ボールをあげるときの彼に両手は、まさしくプチバレリーナ。あ、この子、きっとはさみ持ったら、口も一緒に動くタイプやで、などと思ってほほえましく見ていた。けど、いざバッティングとなると、小柄なわりになかなか鋭いスイングをしていて、驚いた。

 ずっとブルペンにいた監督が、ネット裏に。少し話しをした。柏崎高校の監督の名前を出すと、監督の口がちょっと滑らかになった気がした。でも、「鈴木(柏崎高監督)の知り合いですか?」と聞かれ、否定はしたけど、なんか詐欺を働いたかのような後味の悪さが残った。会話は唐突に終わる。近畿大会の話をしているときに、監督の声がふいにグランドに向かった。「おい、右肩入るの、早いんじゃないか?」監督は見ていないようで、見ている。私にとっては不思議な人種だ。改めてそう思った。


☆金払うのがもったい無くて、外から撮影した法隆寺