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あるこのつれづれ野球日記
あるこ
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2002年11月02日(土)
“走りたい!”と思った。


 野球部の練習を見に行った。午後からたっぷり4時間。最近、練習を見るのがほんまに楽しい。選手たちにしてみたらいい迷惑かもしれないが、いろんなことを微笑ましく見ている自分に気付く。

 今日一番印象に残ったのは、終盤に行われたベースランニング。ひたすらベース間を走るだけのものだが、これがまた手に汗握ってしまったのだ。全体練習だから当然いろんな選手がいる。足の速い子、遅い子。ぎこちないフォームをして走る子、元気のいい子…。

 最初はみな、「これくらい平気やで〜」という余裕の表情で目の前を走り抜けていく。ところが、本数が増えるにつれ、1人また1人と息の上がる選手が出てくる。「あご、ひいて〜」とコーチの声が響く。それでも、知らぬ間にあごが上がってしまう。「ヒィヒィ」という喉の奥からしんどそうな声がネット越しの私の耳にも届く。足がもつれ始める選手もいる。後ろには俊足の選手が迫っている。「おい〜、抜かされんなよ〜」、側で別メニューをこなす選手の声。体を重たそうに引きずりながら走る選手、やけくそになって「おりゃぁ〜!!」と叫び声を挙げる選手。「9秒、10,11,12…」、コーチは淡々とタイムを読み上げている。最初は、シュッシュッと軽快だった足取りは、いつしかドタドタという重い音に変っていた。

 そんな彼らを周りにいるチームメイトが励ます。人事のように自分のメニューをこなしている選手には、「おい、お前ら、声かけたれよ」という檄が飛んだ。コーチも秒を読み上げる合間をぬって、「はい、がんばって!」と早口で声をかける。そして、みんなが盛り上がってきた。単調な練習メニューである。極端に言えば、ただ走っているだけ。それでこれだけ盛り上がれるなんてすごい。知らぬ間に、“がんばれ、がんばれ!”“もうちょい、もうちょい!”、心の中で声援を送っている自分がいた。

 ものすごく長く感じたベースランニングが終わったときには、日はすっかり暮れていた。照明が入り、真っ白い光が辺りを包んでいた。グランドではさっきまで必死に走っていた選手がストレッチをしていた。まもなく、奥から選手がトンボを持ってきた。今日の練習も終わり。

 グランドに背を向け、歩き出した。空気は冷たく、手もかじかんでいる。ふと、歩くことに違和感を覚えた。そして、“走りたい!”と思った。こんな衝動、初めてだ。元来運動嫌いである。特に走るという行為にはかなりのコンプレックスがある。走らねばならないときは今まで何度もあった。急がねばならないときもあった。でも、今日はその必要はないのに。

 そして、私は走り始めた。重いはずの体が不思議と軽かった。渋滞で動きの止まっている車の列や、買い物帰りの家族を追い越していく。空気は相変わらず冷たい。でも、走っても走っても、しんどいとは感じなかった。