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| 2002年09月14日(土) ■ |
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| サウスポー・野畑投手 |
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ネットで入手した情報を元に、全日本身体障害者野球甲子園大会を観戦してきた。昨日までその存在すら知らなかった野球。
身体障害者野球、字体通り、身体に障害を持つ選手がする野球である。各地にチームがあり、今やプレーヤーが700人いるという。今大会は、元阪急ブレーブス、世界の盗塁王として有名な福本豊氏が名誉理事長を務める日本身体障害者野球連盟が中心となり、選手たちにも野球の聖地と言われる甲子園球場でプレーさせてあげたいと方々の関係者に働きかけて実現した“もっとも贅沢な草野球”(大会パンフレットより)だ。
一般観客席は、バックネット裏。普段そうそう入れない場所、選手が少し身近に感じられる距離。オレンジシートではブラスバンドがヒッティングマーチを演奏し、試合に彩りを添えていた。もっと閑散とした場内を想像していた私は面食らってしまった。思わず「おお〜」と声をあげた。しかし、のどかな雰囲気でもあった。ベンチには選手の家族が入って、電光掲示板をバックに記念撮影をしていたり、試合終了後には土を持って帰る選手もいた。
パッと見た印象は、中学生が野球をやっているのかなという感じ。小柄な選手がちらほらいたからだ。それもそのはず、登録選手は下は16歳から上は60歳までと実に幅広い年齢層。一見すると普通の草野球。でも、よく見てみると、ゴロを裁く野手の足がびっこを引いていたり、懸命に走るランナーに片腕がなかったり、攻守交代のとき、ベンチから車いすが迎えに来る。
2試合見たが、展開される野球としては、守りの野球だなと思った。内野ゴロは思ったよりさばけるし、フライも捕れる。また投手がいいのか、ハンデ故のことなのかわからないが、打球がなかなか芯に当たらない。ただ外野に行くとほぼ100%ヒットになる(だから、帰る間際に外野フライを捕球した野手を見て、思わず拍手)。1人でもランナーがいたら得点。
この障害者野球では、バントと盗塁が禁止されているのだが、しっかりした走塁をする。確か第一試合だったと思うが、二死ランナー満塁からセンター前ヒット。ランナーが一人還った。ところが、内野とバッテリー間で返球にもたついている間に残りの二人もホームイン。2点差を見事ひっくり返したシーンがあった。ここまで隙をついてくるかあ?!身体障害者ということで、のんびりした野球を思い描いていたのだが、意外や意外だった。
印象に残った選手がいる。第一試合、近畿ブロック連合チームの3番手で投げた野畑一徳投手。彼には、右腕がない。つまり、サウスポーだ。すらっとした細身の体。それでいて、足は長く、太股にはしっかり締まった肉がついていて、ユニフォームのズボンはパンパン。しっかり鍛えているのだろう。年齢も21歳とまだまだ若い。
彼は投球に関する一連の動作をすべてグローブなしで行う。捕手からの返球を素手で受け、右足を高く上げ、ボールの握り方を相手に丸ごと見せた状態で投げ込む。それでも、打てない。なかなか威力のある球。右バッターへの内角のボールは、よもや打てないのに審判はストライクコール。これではバッターもお手上げだ。
ピッチャーは総じて野球センスがいいと言うが、それは彼にも当てはまる。ピッチャー横を転がる微妙なバウンドの打球もしっかり処理したし、打っても片腕で外野の頭を越すヒット。軟式ボールを使っていると聞いたが、カーンという打球音だったような気がする。あるいはそう聞こえてしまう言うべきか…。
また、走塁においてもスライディングでホームに還ってきて、ユニフォームのお尻付近が土で汚れていた。片手でスライディングって、怖くないかなあ。そう思ってみたが、すぐに撤回。彼は今までずっとこれで生きている。この体を甘受することから野球を始めているはずだ。
どうも、私は彼らの野球を健常者と比較する形で見ていたように思う。野畑投手に対する感想も、正直に言えば、「普通の野球選手と遜色ないんじゃないの?」というもので、それは彼に対して失礼である。この身体障害者野球、機会があれば、もう一度見てみたい。野畑投手も気になるし、健常者との比較という安易な見方から脱却したら、この野球の本当の魅力が姿を見せてくれるはずだから。
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