初日 最新 目次 MAIL HOME


あるこのつれづれ野球日記
あるこ
MAIL
HOME

2002年06月23日(日)
A君の好投


 高校の練習試合を見に行った。

 山の中腹にある高校のグランドは広く、空気がおいしかった。外野席から見る野球もまたオツってなもので。誰がどこにいるのかほとんどわからなかったけど、あのユニフォームを着ている選手がフィールドを駆け回っているのなら、それでいいや。

 このところ、見に行く試合、見に行く試合で負け続けていた。今日も正直期待していなかった。でも、ここにきて、2試合とも快勝。大きなエラーもなかったし、打線は基本に忠実なつなげるチームバッティング。こんな痛快な勝ち方を見たのは、いつ以来だろう。その間隔の広さにちょっと驚く。

 試合終了後、スコアをじっと眺めていると、こみ上げてくるものがあった。

 そんな中でも、一番感激したのは、第二試合に登板したA君の好投だ。大量14点のリードに守られての完封(5回コールド)。それでも、昔のA君を見ている私としては、ハラハラした。

 A君は、現在3年生。初めて彼の登板を見たのは、2年前の夏、彼が1年生のときだ。試合は13−7の大量リードでの登板。これなら安心して投げれるだろうと思いきや、先頭打者のストレートの四球を与えた後、痛打を浴び続け、味方のエラーも相まって、たちどころに追いつかれ、逆転されてしまった。当時私はスコアをつけていたのだが、彼の登板したところだけは、かわいそうなくらい赤く染まっている。

 いつの日か、彼が完封するところを見て届けてやる。
 今日のこと、しっかり覚えておこう。

 何故かわからないけれど、そう思った。

 それから、彼の登板を2回見た。でも、2回が2回とも同じようなパーターンで降板した。結果が出なかった。11月の練習試合を最後に彼の姿を見ることはなかった。

 あんな洗礼浴び続けたんだもの、辞めてしまったかもな。見たところ、そんなに気が強そうには見えないし…。

 冬が明けた。春一番の練習試合を見に行ったとき、大勢の控え選手たちが目の前を駆けて行った。その後方に彼の姿があった。よかった、辞めてへんかったんや。

 春季大会後、外野席で観戦する2年生の父兄さんがいた。お父さんたちはおそろいの帽子をかぶっている。そこで、彼のお父さんを見つけた。

 挨拶程度が出来るようになったときにふと訊いてみた。「息子さん、がんばってはりますか?」。お父さんは、「思う通りいかへんで苦しんでいるみたいやわ。家帰ってきたら、犬に八つ当たりするときもあって、犬もブルブル震えてんねん。…せやけどな、これも自分で越えていかなあかんもんやからね」と答えてくてた。

 A君は諦めていないんだ。そう思った。

 再びマウンドに登るA君を見たのは、この年の秋のことだ。約1年ぶり。2年生になった彼は、前の年のように打ち込まれることはなくなっていた。でも、四球を連発し、ピンチを招くことが多くなり、お世辞でも成長したとは言い難かった。

 チームメイトの父兄さんで彼を良く知る方が、「上がり症なんかなあ?なんか特効薬でも飲ませてやってほしいわあ」と話してくれた。

 でも、彼のいいところも発見した。それはフィールディング。四死球や痛打でよれよれになっていても、無死一二塁のバントでセカンドランナーをサードで刺してみたり、意表をついた牽制をしてみたり…。
 
 登板のたびに四球を連発するようなピッチャーが、実に的確にそれをやってのけるのだ。まったく不思議なピッチャーだ。結果がなかなか出ずとも、使いたくなる指導者の気持ち、わからなくはない。いい意味で、ピッチャーしかできない子なのかもしれない。

 また、冬を越した。
 
 春、今まで以上に登板のチャンスに恵まれるようになった。どうにか0点で抑えることが出来るようにはなっていたが、まだ投球が不安定で首脳陣の信頼を得るには足りない。

 A君もここでおしまいかな。不覚にもそんな思いが脳裏をよぎった。

 ところが、今日、投げていたA君は別人だった。スコアをつけなくなったので、よくは判らないが、私がわかる限りでは四死球はない。ヒットは2,3本打たれたがいずれも単打。野手のチームメイトもよくがんばり、またベンチも彼の名前を呼んで声援を送っていた。

 ときどき、過去の名残を思わせるクソボールもあるが、それもご愛敬。トータルすると、丁寧に打たせて取る投球をしているようだ。

 側で観戦していた父兄さんが、彼の好投はまぐれでもなんでもないことを教えてくれた。前の登板では強豪校相手に1失点完投したのだという。

 息子が打ち込まれても、試合に出れなくても、熱心にグランドや球場に足を運んでおられたお父さんは、車で買いだしに行き、暖かい飲み物を私たちに差し入れしてくださった。せっかく息子さんがいいとこ見せているのに、見てなくてもいいのかなあと思ったりしたが、こういう形もまた親心?

 A君はまだ公式戦の登板がない。
 最後の夏に向かって、今ラストスパートの真っ最中だ。

 そうそう、もし彼が公式戦に登板したら、名前のアルファベット表記を外ししょうか?

 Aくん、それでもいいかな?