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あるこのつれづれ野球日記
あるこ
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2002年03月06日(水)
“裏方”事件

 
 私はその出来事を“裏方”事件として、強く記憶に留めている。

 
 高校野球の練習試合を見ていた気付いたのは、バックネットの最前列には、父兄さんの中でもお父さんが難しい顔をして試合に見入っているチームが多いということだ。

 その日の練習試合も例に漏れず、ネット裏にはマイチェアーに深く腰掛けたお父さんたちがいた。

 その日は確かWヘッダーの試合で、第一試合が主力級の選手が、第二試合では下級生を主体としたメンバーが出場していた。

 第二試合の準備がとりおこなわれているころ、すでに試合に出場したあとの主力選手がネット裏のお父さんたまり場の近くにいた。

 すると、お父さん集団の1人は、彼に声を掛けた。小柄で表情の柔和な方だった。

 「おい、バッターボックスのラインが引けてへんけど?どうなってんのや」

 もうすぐ試合が始める頃の話。

 すると、彼は平然とこう答えた。

 「あ、それは裏方の仕事だから」

 すると、それまで柔和だったお父さんの表情は一変した。

「おい、裏方とは、なんやねん!裏方とは。試合はお前らだけじゃ出来ひんのやろ。みんなが支えてくれて出来るもんやろ、それを何やねん!もっとちゃんとせいっ!」

 びっくりした。
 空気が鋭いナイフで引き裂かれたかのごとくだった。

 でも、周りはそんな2人に全く気付かない。それが不思議でしょうがない。

 彼はあっけに取られたような表情でその方を見ていたが、おもむろ脱帽し、頭を下げた。

 そのお父さんは、うなすいて見せると目線プレーボールを待ちわびるグランドみむけた。今、何が起こったかなど、知らぬ騒然という感じで。

 柔和な表情のお父さんがなぜ“裏方”の一言に鋭く反応し、ところかまわず怒鳴ったのだろう。もしかしたら、息子さんがその“裏方”と呼ばれる部類に属しているのかもしれないし、はたまた、準備不足を人のせいにしたその態度に他人とはいえ、親の本能がうずいたのかもしれないし…。

 確かに、社会に出たら、“裏方”と呼ばれる仕事は存在するし、実際高校野球でもベンチに入れなかったら、そういう仕事をしてチームに役に立とうと思う選手もいるだろう。

 でも、基本にあるのは、同じチームでプレーする仲間であり、同じ人間だ。お父さんは“裏方”という言葉が平気に口から出る選手に、チーム内の温度差を感じてチーム状態を危惧したのかもしれない。

 嬉しいことに、それ以来、怒鳴られた選手の態度は目に見えて変わった。控え選手や下級生にも積極的に声をかえる気配りが出来るようになったのだ。

 人間関係が希薄だと言われて久しい。昔は、他人の子供でも悪いことをしていたらしかる大人がいた。私も幼いころに、近所のおっちゃんやおばちゃんに叱られた経験を持っている。今は、それも皆無だという。

 そんな中、この日見た光景は目に鮮やかだった。