のづ随想録 〜風をあつめて〜
 【お知らせ】いよいよ『のづ随想録』がブログ化! 

【のづ写日記 ADVANCE】

2002年08月27日(火)  転勤

 いきなりズバリのタイトルである。9/1付けでの転勤が、決まった。

 先週の月曜日、朝一番に部長に声をかけられた。
「ちょっと、来てくれ」
 部長は親指でフロアの片隅にパーテーションで仕切られた契約室を指さした。
(――いよいよ、来たか……)
 なにか予感めいたものが俺の中に拡がった。その様子を見ていた同僚の一人が俺と視線を合わせ、意味あり気に深く頷いた。俺はあえておどけた表情で肩をすくめて見せたが、彼は表情を弛めることはしなかった。
「失礼します」
 俺は上着の前釦をとめながら契約室の扉を開いた。部長はこちらを背にして革張りの回転椅子に腰掛けている。くゆらせる煙草の煙がブラインドのすき間から差し込む斜光に照らされていた。
 暫く俺は契約室の扉に手をやったまま立ちすくんでいたが、部長は振り返りはせずに少しだけ頭をこちらに向け、「まあ、掛けたまえ」と低く言った。
 俺は座り心地の悪いソファに腰掛け、次の部長の言葉を待った。
「――我が社が極秘裏にジャカルタの南西部で水力発電事業に着手しているのは、知っているか」
 やはり、この話か。俺は予感していたものが間違いないことを感じた。社内的には公になっていないこの話を部長自らこの俺に切り出したとなれば、とぼける必要はなかった。
「ええ、聞いています。今年の6月には第一陣が現地入りしている、ということまでは――」
「さすが、耳が早いな」
 逆光の中で部長は小さく笑った。そしてシルエットになった部長の背中はそのまま言葉を止めたが、次の瞬間、ゆっくりとこちらを振り返った。回転椅子が軽く軋む音が契約室に響いた。手にしていた煙草を灰皿にそっと押し付けると、そのままの姿勢でやや上目遣いで言った。
「――君に、ジャカルタへ行ってもらうことになった」
 しばしの沈黙。部長は俺の瞳の奥をじっと覗き込みながら何か次の言葉を探しているようだった。そして、大きく嘆息した後、壁にかけてあるシャガールの幻想的な油彩に視線を移した。
「それは、……部長、決定ですね?」 俺は特に意味もないことを口にした。
「まあ、一応、社命だからな。しかし急な話だから時期的なことは考慮しないことはない」
「いえ……」
「――俺としても君を出すことには抵抗したんだが……」
「いえ、部長。光栄です」
「“上”から君をご指名だったからな。会社としてもこのジャカルタの水力発電には社運を賭けていると言ってもいい。よろしく頼んだぞ」
 部長は回転椅子から立ち上がると、そっと右手を差し出した。俺が部長の右手を握り返すと、彼はさらに両手で堅く俺の手を握った。節くれだった男の手だった――。


 というのはまったくの作り話である。本当なのは最初の1行だけ。
 さすがにジャカルタへの転勤はないが、池袋の本社へ異動することになった。こりはびっくり。詳細を待て(別に待たなくていいけど)。



2002年08月21日(水)  静寂

 ツマが近所の図書館から借りている本の返却日がとうに過ぎている――というような連絡が図書館の事務員さんからあった。先日の日曜の朝。
 電話の向こうで『オタクの奥さんの……』なんて言いだすものだからてっきり『――命は預かっている。無事に帰して欲しかったら3000万円用意しろ』と言われるのかと思ったのだが、どうもそういうことではなく、『オタクの奥さんの借りてらっしゃる本の返却について……』ということだった。
 それまでの真夏の日々が嘘のように小雨のそぼ降る一日だったので、車を出すことにし、ツマが借りていた本を返しに図書館まで行った。ツマは大きな紙袋に10冊程の本を入れて車に乗り込んできた。
「そ、そんなに借りてたの?」と俺はマジで驚いてしまったが、もともとツマは俺なんかよりずっと読書家で、かなりいろんな作家の本を読んでいる。

 図書館はウチのすぐ近所で、車で数分のところにある。ツマはしょっちゅう通っている図書館だが、俺自身といえばそのものに馴染みがなく、この図書館を訪れるのも一年ほど前にやはりツマと一緒に本を返しに来て以来だったかもしれない。ツマは本の返却コーナーへ、俺はフロアをぶらぶらと歩きだした。
 “図書館”にはどうも独特の雰囲気がある。
 ちょっと張り詰めたような空気が漂っていて、古本屋とはまた違う“本の匂い”がする。びっしりと様々な本が整然と並べられ、閲覧コーナーではゆっくりとページをめくる人々がその静寂の中に居る。
「ああ、大学時代……」
 卒業論文を仕上げるために大学の図書館に通い詰めた時期を、ふと思い出した。“図書館”の独特の雰囲気に居心地の悪ささえ感じていたその頃の俺だったが、毎日のように図書館へ足を運び、珍しく集中して調べものなどをしていると、慣れてくればあのひんやりとした静寂も心地よい。受け付けの女性ともなんとなく顔見知りになったような気がして、軽く会釈ができるだけでも友人がひとり増えたような気分だった。
 ウチの近所にあるその図書館には(他の図書館にも当たり前にあるのかも知れないけれど)雑誌が閲覧できるコーナーがあって、俺の愛読書である『週刊ベースボール』なんかも毎週読むことが出来るようだ。
 なるほど、日々ばたばたと喧騒の中で右往左往しているのだから、たまにはこういう静かなところでゆっくりと過ごすというのもいいかもしれないな――と思った次第で。

「おまたせ」 新たに10冊の本を借りて、ツマが戻ってきた。「『模倣犯』が借りられなかったわあ」
 人気のある本はずっと先まで予約が入っているようだ。ツマは戦利品をひとつひとつ確かめるように、借りてきた本の表紙を嬉しそうに眺めていた。



2002年08月14日(水)  夕刻

 夏休み、三日目。
 言ってなかったかも知れないけど、一応今週は休みを取っている。とは言っても、昨日の火曜日は仕事の打合せを入れてしまっていたので実質出勤ではあったが。

 今日は一日まったりとした時間を過ごしてしまった。特になにをするでもなく、ぼんやりとテレビを観、昼にはツマが用意してくれた素麺をすすり、高校野球を観、かなり濁った時間だけが俺の前を通り過ぎていった。めったにこんな時間の過ごし方をすることもないので、まあ折角の休みだしこういう一日もいいじゃないですか――とすっかりぺったんこになってしまったローソファに横になりながら自分に言い訳したりして。
 ツマが通っているスポーツクラブが夏休みの特別企画でビジター料金が500円で利用できる、ということらしく、ツマに「一緒に行こう」と誘われたのだが、どうも気分が乗らない。スポーツクラブで汗を流すことは嫌いではない(大阪で一人暮らしをしているときはよく通っていた)が、どうせ汗を流すなら御天道様の下でだらだらとしたたるくらいに汗を流したい、そんな気分だった。

 ということで、帝京高校が見事完封勝利をおさめたのを見届けた後、俺は久し振りに近所の公園へ繰り出した。公園内のジョギングコース1周2キロをゆっくりとジョグ&ウォーク。太陽がそろそろ西に沈もうかという時間になっていて、空気はしっかり熱気を帯びているが、時折頬をなでる風はかなり涼しげだった。
 なにせ数ヶ月振りに走るので、無理はできない。調子に乗って無理に走ると、すぐ右ひざが痛くなるんだよなあ。

 公園内には俺と同じようにジョギングやウォーキングをする人が多い。芝生の上でくつろいでいるカップルや子供連れの夫婦。ベンチで横になっているお年寄り。キャッチボールをする親子。沢山の大きな飼い犬が芝生の広場を自由に駆け回っていて、その飼主達が笑顔で彼らを見守っている。
 そんな光景を俺は心地よく眺めながら、ゆっくりとジョギングコースを走った。
 気がつくと、沢山のトンボが空を舞っていた。確実に秋は近づいている――なんて油断できないよな。まだまだ暑い日は続きそうだ。

 明日はまたまた東京ドームで巨人―ヤクルト戦を観戦しまあす。今季19試合目。



2002年08月10日(土)  発見

 その時俺はどうしても“ラーメン”が食べたかった。今流行りのナントカ系とかいうんじゃなくて、こう、シンプルな、安い中華料理屋で出すようなラーメンが。

 営業車を駆っての外回りという仕事柄、自分の担当エリア内の何処にどんな飲食店やファミレスがあるか、というのは主要な店ならだいたい頭ン中にインプットされている。特に美味い蕎麦屋とラーメン屋は必須事項、打合せの為に使うことも多いのでファミレスもしっかり押さえておきたいところである。

 すでに“口がラーメン状態”になっていた俺は、その時はたまたま自宅の近所にいて、記憶にある街道沿いのラーメン屋を思い起こしながら営業車を走らせていた。
 ラーメン屋はあるにはあるのだが、どうも“気分”ではない店ばかりだった。明らかに不味かった店、いわゆるチェーン店のラーメン屋などを2、3軒通り過ぎ、気がつけばずいぶんと自宅の近くまで来てしまっていた。
 ふと、赤い看板の中華料理店が目に入る。それはまさしくその時の俺が欲しているラーメンを出しそうな、間口1、2間ほどの小さな店であった。
 目標をロックオンした俺はゆっくりと営業車を減速したが、その店の専用駐車場がどこなのか見当がつかず、
(――車が停められないんじゃしょうがないな。別の店を探そう)
 心の中でそう呟きながら、そのまま俺は店を通り越してしまった。
 さて、このあたりのラーメン屋と言えば――。頭の中であらためて検索を始めたが、これ以上俺が食いたいラーメン屋を求めて走り続けるのは危険だ、ということも同時に浮かんだ。なにより次のアポイントの場所からは俺は確実に遠ざかっている。ラーメン屋を探していて約束の時間に遅れました、というのはあまりにもばかだ。
(――引き返そう。さっきの中華料理屋だ。路上駐車でもなんでもいいや)
 俺はすぐさまUターンをし、側道にこっそりと車を停めて、先ほどロックオンした小さな中華料理屋に入った。

 運命的な発見、と言っていいだろう。

 5、6席のカウンター席、小さなテーブル席が4つほどの狭い店だった。「いらっしゃい!」の声。夫婦ふたりで切り盛りしている様子。しかし、俺の目に飛び込んできたものは――。
 ジャイアンツの選手のサイン色紙が壁一杯に張られている。
 反対側の壁には、原辰徳現監督の現役時代の最後のホームランのパネル、清原が薄笑みを浮かべる「報知ジャイアンツカレンダー」、2000年にジャイアンツが日本一になった時の、テレカ・レリーフ・新聞切り抜きなどグッズの数々、選手のフィギュア、松井の記念ホームランのテレカなどなど、思わず真剣に見入ってしまいそうなモノ達がびっしりと壁に張られているのである。
 まさに“ジャイアンツの店”。
 俺は注文したワンタンメンをすすりながら、壮観な店内をぐるぐる見回していた。
 これだけのものを集めるのには相当の労力と気合が必要である。
「マスター、実にいいお店ですね」
 会計を済ませて、俺は人のよさそうな笑顔の店主に話しかけた。店主は、ありがとうございます――そう言って小さく笑うと、
「お客さんもジャイアンツファン?」
「ええ。今年は20試合近く観に行ってます」
「へえ、そらすごい。私も月に一度は行くようにしてるんですよ」
 油断をしていたら、今年の原采配や松井の三冠などなど、終わりのないジャイアンツトークに発展しそうだったが、なにせお互い仕事中である。
「ごちそうさまでした。また来ますよ!」
 後ろ髪を引かれる思いで俺はその店を出た。
「また来て下さいね! 待ってますよ!」 店主の弾んだ声が心地よかった。
 あの時、思い直して車を引き返し、この店に入って良かった、と俺はしみじみ思った。そんな奇跡がなければ俺は一生この“ジャイアンツの店”に入ることはなかっただろう。
 今度は野球中継がある時に来よう。そして、唐揚げでもツマミながらテレビ中継を観ようっと。



2002年08月09日(金)  緊急

(『発見(仮)』をお送りする予定でしたが、予定を変更して緊急特別随想録をお送りいたします)

 春に大学時代の後輩カップルがめでたくゴールインして、決してそれが理由というわけではないだろうが、昨年にはほぼ2、3ヶ月に一度定例的に行なわれていた大学時代の仲間達との呑み会がそれ以来ぱったり途絶えてしまっていた。まあ皆忙しいことだろうと慮ってはいたが、それでもちょっぴり寂しいなあと思っていた。そこへ、その呑み会のメンツの一人である後輩からメールが届いた。

 この夏、結婚する――という。

 大学時代、彼女は俺の2コ下の代で、それまで両手で余るほどの人数しかいなかった我がサークルに、当時からすれば結構な人数が入部してきた代の一人だった。お調子者のKやカラオケで激しくスパークするR子などかなり個性的な連中が揃ったその中で、彼女は特別目立つわけではないが実にしっかりしたタイプの女性だった。サークルの幹部連中――つまり当時の俺達の代――が、たとえばサークル内での後輩達の役割分担を決める、というような場面においても、
「うん、アイツは大丈夫だよ」
 と、 誰もが口々に言うほどで、特に彼女の同期の仲間達からは頼りにされる役回りのようにも見えた。

 学生時代もその片りんはうかがわせていたが、それぞれが卒業してから定例的に行なわれる呑み会では彼女のその酒豪ぶりもいかんなく発揮していた。
 彼女なりのいろんな不満もありながらも仕事はきっちりこなし、ある時は“酒”と格闘する。そう書くと彼女があまりにも豪傑な酒飲み女ととられそうだが、彼女と呑み会の席でいろんな話を交わすうちに、俺はそんな彼女がとてもカッコよく見えた。それは俺と彼女の“先輩―後輩”という図式を超越した、彼女自身の人間的魅力だった。
 ああ、この娘はケッコンしたら幸せになってほしいなあ――などと身勝手なことを考えていたのだが、いよいよ彼女も新しい道を歩み始めようとしている。

 あえて彼女に苦言を呈すとすれば、彼女自身が“アンチ・ジャイアンツ”だというところか。
 TV中継でジャイアンツが負けているとお茶の間に不穏な空気を漂わせるほど不機嫌になる、という立派な父上がおられ、聞けば彼女のフィアンセも“超”が付くほどのジャイアンツマニアだというではないか。
 この点だけは彼女に強く更生を促したい。

 結婚おめでとう、A.T。やろうやろうと言って実現していない“浦和の夜の会”、可及的速やかに実現したく思っております。



2002年08月07日(水)  総理

 子供の頃、特に小学校くらいの頃は夏休みというと何故かその期間中だけテレビの再放送が花盛りとなって、夏休みの楽しみのひとつだった。
 花のピュンピュン丸、ウルトラマン、河童の三平、ゲゲゲの鬼太郎……。懐かしいテレビ番組。
 で、昨晩、ぼんやりと新聞を眺めていたら、テレビ東京で驚愕の再放送を発見してしまった。これも夏休み期間限定なのだろうか。

『ゆうひが丘の総理大臣』

 この名作学園ドラマを知らぬ者はいないだろう。
 中村雅俊、神田正輝、井上純一、藤谷美和子、岡田奈々、樹木希林……今からすると大御所が勢ぞろいしている、今更なんの説明も必要のないドラマだ。
 昔からこのドラマが再放送されると確実に見ていた。俺の大好きなドラマ・ベストテンには必ずランクインするくらいだ。ここ最近はめっきり見なくなったが、さすがはテレビ東京、それも朝の8時からという信じられない時間帯にこの名作を再放送してくれている。
 俺が気づかぬうちにすでに何話かは放送してしまったらしいが、早速今日から録画予約。今日は帰宅が遅かったので、遅い夕食を済ませて24時過ぎから数年ぶりに『ゆうひが丘の総理大臣』と再会した。
 主題歌の『時代遅れの恋人達』のイントロが流れるだけでもう泣きそう。本放送は1978年から、というから俺が11歳の時に始まったドラマなのか。多分、その時は見ていなかったんだろうな。恐らく何度となく繰り返された再放送でその魅力にハマったに違いない。
 台詞の中に見え隠れする“時代”が、いい。不良生徒の柴田(井上純一)や前川が学校の坂道を駆け降りながら『ゲームセンターにブロック崩しやりに行こう!』と叫んでいる。タバコの値段が120円。学生達の普段着のファッションセンス――。
 初めはそんな風にやや左45度あたりからナナメに観ていたのだが、胸を打つ台詞が画面に出てくるラストシーンには、すっかり中高生時代の俺に戻った気分だった。

『ひとりの友が去り
 また新しい友が生まれる
 青春とは
 そうした時代――』  

 (BGMは勿論『生まれてぇ来なければぁ 良かったなんてぇ……』のあの曲)

 この夏、しばらく『ゆうひが丘の総理大臣』にハマりそうな予感。

※  ※  ※

「いやあ、やっぱソーリはいいなあ……」
 ちょっとひたりながら、深夜の定例作業のメールチェックをしたら、久々にココからのメールが届いていた。
 お久しぶりですね、M.Kさん。メールありがと。
 驚きやヨロコビなどなどが沢山ちりばめられたメールで、“ゆうひが丘効果”も手伝って、シミジミと読ませてもらいました。リアクションはちょっと待ってろや。



2002年08月05日(月)  継続

 もうじきこの『のづ随想録』も一周年を迎える、ということに最近気がついた。

 記念すべき第一回が昨年の9月9日。特に事前の準備をすることもなく、なんとなく思い付きと勢いでスタートさせた日記的随想録公開HPである。
 作品、と呼べる内容でないことは俺自身が一番よく分かっているが、折角書き貯めたものでもあるので、第一回からすべての内容は自宅のPCにバックアップを取ってある(以前、不定期に知り合いに送り付けていたメールエッセイ・『のづ○歳時記』はPCのメールソフトの不具合により作品の半分くらいが消失してしまっている。もはや自分でも何回分くらい書いたのかも覚えていないが。そんなことがあってからバックアップはしっかり取るようにしてます)。
 久しぶりに『のづ随想録』を始めた9月頃のものを読み返してみた。俺以外の人間には分かるはずはないのだが、妙な気負いのようなものがなくて、いい。裏を返せば今、俺はどんな心持ちでこの“随想録”を書いているのかっつー話だ。

 まずは継続すること。たとえ10日間の空白があったとしても、一カ月間の空白があったとしても、まずは継続すること。これは多分、今のところは大丈夫だ。

 どんなスタイルを目指しているか。
 自分の中には「あーいった作風」「こんな雰囲気」といった明確なイメージはあり、ぼんやりとそのイメージに近付けようと思っている部分はあるのだが、実際、書き上がった随想録を読むと、思い描くイメージとはかなりかけ離れていることが多い。
 結局“このカタチ”が俺のスタイルなのかも知れない。良い・悪いは別。

 あまり気負わずに継続してゆこう。内容という点では、読み手はまったく面白くもなんともない回も少なくないだろうが、まあいい。とりあえずは数人の方々がココを読んでくれている、と思えるうちは、細々と継続してゆこう。

 読み手はどんな感想をもってココを読んでいるのだろうか―― ふと、単純に、そう思った。



2002年08月03日(土)  夏祭

 すっかり日も暮れ、仕事帰りに家の近くで信号待ちをしていると、ちょうど交差点の角にあるラーメン屋の駐車場にかなりの人だかりが出来ていた。決して流行っているわけでもないラーメン屋なので、さてどうかしたものか――などとぼんやり考えていると、そのわけはすぐ分かった。
 ラーメン屋と細い路地を隔てた小さな空き地で、盆踊り大会が行なわれていた。
 4、5メートルくらいの高さのヤグラが組まれていて、そこから四方に緩やかなカーブを描いて提灯が吊るされている。そして、そのまわりを様々な浴衣姿の老若男女がぐるり囲んでおり――という典型的な夏の盆踊りの風景がそこにあった。路地には焼きそば、綿菓子、金魚すくいなど、定番中の定番と言える出店がずらりと並んでいる。
「お。なんか、いいじゃない。夏だねえ」
 俺はそう呟いて営業車を路上駐車させ、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるその盆踊りを覗きに行った。
 信号待ちをしながらその光景を眺めているときは車内のラジオから流れるジャイアンツ戦の歓声で気づかなかったが、車を降りてみると辺りにはオーソドックスなリズム&メロディの『なんとか音頭』がかなり大音響で鳴り響いていた。
 出店は道幅が3メートルあるかないかの狭い路地に互いを肩で牽制しあうかのようにひしめき合いながら並んでいて、人が歩ける道幅は余計狭くなっていた。そこを大勢の人々が行き交うわけだから、国会の牛歩戦術もかくあらん――といった風情だ。
 当然世間は夏休み。親に手を引かれた小学生や友達同士で来ている様子の中学生など、子供達の姿が大半だった。

 Tシャツに短パン、真っ黒に日焼けした男の子。赤や青の浴衣を纏った女の子。

 浴衣姿の女性は、なんかこう眩しく見えて、よい。
 それが小さな女の子であればより可愛らしく見えるし、中学生や高校生くらいの女の子はちょっと大人びて見える。
 出店を一軒々々覗きながら歩いていると、おそらく同じクラスなんだろうな、という中学生くらいの男の子のグループと女の子のグループが、その人込みの路地をすれ違った。女の子達は皆、色とりどりの浴衣姿で、男の子達に気づくといつもの調子で彼らの名前を呼ぶ。男の子達は半分無視するような、そして半分はちょっぴり嬉しそうな笑顔も見せながらぞんざいに手を挙げた。

 ――夏休み。たとえば夏祭りや花火大会などでばったりと知り合いの女の子に会うと、おまけに彼女が浴衣姿だったりなんかすると、何故だか妙に気恥ずかしい気分になったものだった。
 いつも冗談ばかり言っている仲間の一人の筈なのに、この時ばかりはその娘は妙に大人びて、綺麗に見える。ちょっとドキドキしている自分がいて、必要以上にその娘を意識してる自分がいて、不思議に甘酸っぱいものが身体の中に拡がる。『なんなんだ、俺は!』と心の中で明らかにロウバイしていた。

 女の子達の弾けるような笑顔。男の子達の少し照れたような笑顔。
 BGMに盆踊りのメロディ。

 胸がちょっとだけしめつけられるような、遠いあの夏の思い出が俺の中に蘇った。


 < 過去の生き恥  もくじ  栄光の未来 >


のづ [MAIL]

My追加