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2003年10月31日(金)
■『獲物のQ』 ★★★☆☆

著者:スー・グラフトン  出版:早川書房  ISBN:4-15-208507-X  [MY]  bk1

【あらすじ】(カバー折り返しより)
かつてはキンジーを威嚇恫喝し、大いに畏れさせていた昔なじみのドーラン警部補も、寄る年波からか健康を害し、今は捜査の第一線から身を引いている。そんな彼が突然訪ねてきた。聞けば、かつての先輩である元刑事のステーシーが癌に冒され、余命いくばくもない。ステーシーの、そしてドーラン自身の心残りになっている事件の解決に手を貸してくれないかと言うのだ。事件は18年前、偶然にも彼ら二人が第一発見者となった他殺死体遺棄事件。郊外の石切場付近に打ち捨てられ腐乱していた、少女のものと思われた死体で、全身に多数の刺し傷が認められた。だが、多くの遺留品にもかかわらず、ついに死体の身元は判断せず、ジェーン・ドウと名付けられたまま、警察の記録書類のなかに埋もれていたのだ。退屈な日常の調査業務にうんざりしていたキンジーは、依頼を引き受ける。だが、二人の老刑事とともに遺体の発見現場に向かったキンジーは、そこで思わぬ事態に直面する……

1969年8月、サンタ・バーバラ郡で発見され、以来今日に至るまで身元不明のままという、現実のジェーン・ドウ事件にインスパイアされて執筆し、全米で大きな反響を呼んだ最新作。

【内容と感想】
 女性探偵キンジー・ミルホーンシリーズ。『アリバイのA』に始まってB、Cとアルファベット順にタイトルが続き、本書『獲物のQ』は17作目にあたる。このシリーズは実際の年代と物語の中の年代が少しずれていて、書き始められた1980年代当初から何年かしか経っていないという時代設定となっている。そのためか時の流れが緩やかで、キンジーはいまだにコンピュータなどは使わずタイプライターを愛用し、インデックスカードに情報を書き出して推理している。

 主人公キンジーは幼い頃両親を事故で亡くし、変わり者の叔母に育てられた。そのせいかキンジー自身も少し変わっている。女性っぽい女性が苦手でおしゃれに自信も興味もない。独立心が旺盛で好奇心旺盛。他人の生活を覗き見るのが好き。警官だった父親の影響で警察に勤務した後独立し、探偵を営んでいる。覗き見趣味はこの仕事にうまく活かされている。錠前やぶりの道具で密かに鍵をあけて侵入し、探ることもある。仕事上、ハードな立ち回りに巻き込まれることもあるので、ランニングやジムでのトレーニングはかかさない。女性ながら、一匹狼でプロに徹しているところが読んでいて気持ちが良い。キンジーの、几帳面だが、型にはまらず自分らしく生きている自然体なところがけっこう気にいっている。しかしジャンクフード好きなところはあまりいただけない。彼女が美味しいと思って食べているものが美味しそうには感じられないし、健康にも悪そうだ。


 今回キンジーは18年前の未解決の殺人事件に取り組む。キンジーの父親の元同僚のドーラン警部に頼まれた仕事だった。ドーランは採石場で発見されたこの身元不明の若い女性の遺体の第一発見者で、同じく発見者となった先輩のステーシーと当時捜査を担当していたのだが、事件は解決できなかった。この事件は長年二人の懸案事項だった。

 大病を患った直後のステーシーは自分はもうすぐ死ぬと思いこんでいた。ドーランはステーシーが生きる張り合いを失っていることを心配していて、この事件を捜査することで彼が元気を取り戻せるのではないかと考えていた。そこで自腹を切って、自分達と共に捜査して欲しいとキンジーに依頼する。

 レギュラーの一人として毎回登場しているドーランだが、今回は奥さんを亡くした後で、アルコールと不摂生がたたって荒れている。ドーランとステーシーはお互いを気遣いあって不摂生を注意しあい、どちらも好きにさせてくれと譲らず、けんかばかりしている。

 事件の被害者は若い女性で、ヒッチハイクでトラブルに巻き込まれたのではないかとされていた。犯人として一番怪しまれていたのは事件の少し前に別の殺人事件で逮捕されたフランキー・ミラクルだったが、証拠が不十分だった。キンジー達は再度事件を調べなおし、手がかりを丹念に追い始める。やがてある砂漠の小さな町がうかびあがってきた。住民は皆が知り合いどうしのような小さな町で、意外な人物関係が次第に明らかになってゆく。最初は無意味に思えた報告書上の小さな事柄が次第に意味を持ち始め、捜査は進展して行く。

 書いてある事柄を丁寧に読み返しながら読むという、推理小説ならではのじっくりとした読み方を、久々に経験した。この作者は情景描写が細かく、そこに事件の手がかりが何気なく書かれているので、うっかり見落としがちだ。


 このシリーズはずっと読み続けているので安心して読める。登場人物達も長いシリーズの中で少しづつ変化していて、本筋ではないがそれらのドラマも楽しみの一つとなっている。ドーランも初回からの傍役の一人だし、家主のヘンリーや、よく行くレストランのオーナーのロージーなどのサイドストーリーも気になる所だ。また、今回キンジーは予期せぬ親戚との交流によって心を揺さぶられる。キンジーの母方の親戚なのだが、長年身寄りがないと思っていたキンジーは、親戚との交流に戸惑う。キンジーの母親と祖母達との間の確執が、今回明らかになっている。



2003年10月27日(月)
〜 更新履歴 〜 「bl09」他追加

「ギャラリー」に、ビーズアクセサリー「bl09」「vi07」「rd08」「wh05」を追加しました。



2003年10月16日(木)
〜 更新履歴 〜 項目整理

ギャラリーの方も項目を整理しました。
ブックレヴューとギャラリーをきっちり分けた形にしてみました。



2003年10月14日(火)
〜 更新履歴 〜 項目整理

後付けの項目もあって分類が分かりにくくなっていたのを、整理してみました。
とりあえず一括で簡単にデザイン変更ができる部分のみです。
分かりやすくなっていると良いのですが。



2003年10月13日(月)
□『世界の果て』 ★★★☆☆

著者:ジョーン・D・ヴィンジ  出版:早川書房  ISBN4-15-010744-0  [SF]
【あらすじ】(カバーより)
グンダリヌはいま〈世界の果て〉にいた。行方不明となった二人の兄を捜すために。愚かな行動によって、家族の領地、財産、階級、すべてを失った二人の兄は、一攫千金を夢みて〈世界の果て〉へ行き、そのまま消息を絶ったのである。惑星ティアマットを離れ、新たな任地ナンバー・フォーで〈主導世界〉の警視として職務を遂行していたグンダリヌは、休暇をとり〈世界の果て〉へとやってきたのだ。だがそこで彼を待ち受けていたのは、想像を絶する恐るべき試練の数々であった! 俊英ジョーン・ヴィンジが、流麗な筆致で見事に描きあげたファン待望の『雪の女王』の続篇!

【内容と感想】
 アンデルセン作の童話を下敷きとした長編SF『雪の女王』の続編。前作に脇役として登場していたグンダリヌ警視が主役として登場し、前作同様に〈巫子〉が物語の核となっている。舞台は海の惑星ティアマットから打って変わった火の惑星〈世界の果て〉。貴重な未知の鉱物が眠るこの星はナンバー・フォーの〈会社〉が所有していて、荒くれ者たちが一攫千金を狙う場所となっていた 。
 グンダリヌは行方不明となった二人の兄を捜しに〈世界の果て〉に入り、その中心にある〈火の湖〉に向かう。さまざまな電磁現象が起こり、位置を変え、幻覚を見せ、〈巫子〉にも答えることの出来ない謎に満ちた〈火の湖〉。グンダリヌはさまざまな試練を乗り越えてこの謎を解明する。


 グンダリヌの故郷ハレモークは科学技術に優れていることで〈主導世界〉の中でも中心的な地位をしめていた。その社会構造は技術力に準じた厳しい身分制度が布かれていて、技術階級と非技術階級では直接口も聞けないほどだった。

 グンダリヌは『雪の女王』の中で盗賊に捕らわれ、技術貴族の名誉をかけて自殺を試みたが失敗した。自殺失敗者はハレモークでは「ゲッダ」と呼ばれてさげすまれていた。貴族として染み付いているこうした価値観に悩み、長子継承制度と駄目な兄達のことで悩み、また恋したムーンをあきらめきれず心の傷を抱えていた。さらに彼の属す〈主導世界〉は実はティアマットも含めた傘下の世界を経済制裁や情報操作などで利己的に操作して統治しているということに気がついて嫌気が差しており、仕事面で自分の正義感と義務との両立に困難を感じていた。

 兄を捜して〈世界の果て〉をさまようグンダリヌはそういった矛盾を抱えて鬱々と葛藤している。また同行者は凶暴で、ことあるごとに対立し、状況は一触即発となっていた。

 〈世界の果て〉に入る前にグンダリヌは一人の巫子に彼女の娘を探して欲しいと頼まれていた。その巫子は娘を通じた〈転移〉でグンダリヌの兄達を見かけていた。困難な旅の果てに〈火の湖〉近くのその町〈聖域(サンクチュアリ)〉へ彼は向かい、そこで意思を持つ〈火の湖〉に捕えられている人々を見つける。そこでは巫子の娘ソングは〈湖〉の意思を伝える者として崇拝されていて、グンダリヌこそが〈湖〉の待ち望んでいた答えをもたらす者だと歓迎した。グンダリヌもソング同様〈湖〉の見せる幻覚にとらわれる。〈湖〉の真実はグンダリヌの現状を変え、〈主導世界〉やティアマットの運命をも大きく変える程のものだった。

 グンダリヌとどうしようもないダメ兄達が対比的。グンダリヌも、ようやく不完全な人間の作ったルールに盲目的に忠誠を誓うことをやめ、自分なりの努力で自分の正しいと思う道を進みはじめる。


 男性的で、欲望がうずまき、凶暴で、汗臭く、狂気と幻想のイメージが織り込まれた物語だ。その中にあってグンダリヌは一人志高く救われる。しかし陰鬱に家庭の悩みを引きずっていて、その心情が語られるので滅入る。それでも最後はさまざまな葛藤を乗り越えて立ち直り、ヒーローとなる成長物語だ。読み直してみるとなかなか良い作品なのだが、たぶんこちらも『雪の女王』と同様、絶版となっているかもしれない。

 ティアマットの未来がどうなるか、この旧帝国の技術を発掘しながら発展しようとする世界がどうなるか、また旧帝国はどのようにして滅んだのか気になるところだが、残念ながらこれ以上は書かれていないようだ。



2003年10月11日(土)
□『雪の女王』 ★★★★★

著者:ジョーン・D・ヴィンジ  出版:早川書房  [SF]
【あらすじ】(カバー折り返しより)
燃える雪片さながらに輝く星々にとりまかれたティアマット星に、いま〈変化〉が訪れようとしていた。〈双子〉と呼ばれる太陽がブラックホールである〈黒い門〉に近づくとき、もう一つの太陽〈夏の星〉は輝きを増し、〈夏〉の到来を告げる。それはまた、科学技術の花開いた〈冬〉の終りでもあった。〈夏〉の到来とともに、〈主導世界〉との唯一の連絡路である〈黒い門〉は使用不能となり、ティアマットは通商停止の世界、宇宙の孤島となるのだ。150年にわたる〈冬の女王〉の治世は終り、〈変化〉を象徴する〈祭り〉とともに、100年の〈夏の女王〉の治世が始まる。だが数千年にわたって繰り返されてきたこの〈変化〉にただ一人反逆を試みようとするものがあった。アリエンロード―〈雪の女王〉。“生命の水”によって永遠の若さを保ち150年にわたってティアマットを支配してきた彼女は、その座を簡単に〈夏〉の人々に譲り渡す気はなかったのだ。彼女の張りめぐらした恐るべき陰謀の糸に捕えられた〈夏〉の少年スパークスを取りもどすべく、〈夏〉の少女ムーンは〈雪の女王〉の支配する首都カーバンクルめざし、旅立ったのだが……。
米SF界の〈新星〉ジョーン・ヴィンジがアンデルセンの同名の作品をもとに描き上げ、見事ヒューゴー賞最優秀長編賞に輝いた傑作SFファンタジイ!
【内容と感想】
 アンデルセン作の童話『雪の女王』を下敷きにした長編SF。高校生の頃SF好きの人に勧められて読んだこの作品は、今でも私のお気に入りのSFの一つだ。
 海の惑星ティアマットの少女ムーンが困難な旅をくぐり抜け、自分の元から離れてしまった恋人をさがして取り戻すという、基本的にはラブストーリー。そこにかっちりとしたSFの要素がさまざまに折り込まれ、衰退した旧帝国の片鱗がそこかしこに見え隠れする魅力的な世界が作られている。
 1980年に書かれたため、さすがに今読み返すと少し古く感じる部分もあるが、それでも秀逸なストーリーと世界観はじゅうぶん魅力的だ。ハードカバーはすでに絶版になっているようだが、文庫本が1987年に出版されているので、そちらはまだあるかもしれない。


 主人公は〈冬の女王〉アリエンロードのクローン、ムーン。何も知らずに〈夏〉の部族の一員として天真爛漫に育って来た彼女は、〈巫子〉としての試練にパスし選ばれる。この星の迷信的な〈夏〉の部族の間では〈海の女神〉に仕える〈巫子〉は社会的に重要な地位にあった。〈巫子〉は人々の質問に応じて〈転位〉と呼ばれるトランス状態に陥り、〈巫子〉自身も知らない真実を答えることができた。しかし〈巫子〉の血は一般人の血に混じると発狂させてしまう力を持っていたため、「〈巫子〉を愛するは死」と言い伝えられ恐れられてもいた。ムーンの恋人スパークスは、ムーンが自分より〈巫子〉を選んだため、首都カーバンクルへと旅立ってしまう。
 ムーンはスパークスを追いかけてカーバンクルへと向かおうとするが、さまざまなトラブルに巻き込まれ、ワームホール〈黒い門〉を抜け、遠く離れた〈主導世界(ヘゲモニー)〉のハレモーク星へと連れて行かれてしまった。

 果たしてスパークスにそこまでする価値はあるのか私には疑問なのだが、ムーンはスパークスを取り戻すため、努力し冒険を重ねる。運命に導かれ、〈巫子機構(シビル・マシーナリー)〉の謎を解きあかし、“命の水”のために虐殺されている海獣マーの真実を知る。そしてアリエンロードの陰謀を知り、それを覆すために活躍する。それはティアマットのためであり、彼女の星の人々が、外世界のテクノロジーから切り離され後進的な文明へと衰えるのを防ぐためでもあった。

 印象的なのは長い〈冬〉が終わり〈夏〉へと移り変わる象徴の〈祭り〉。人々は色とりどりの羽で飾られた仮面をかぶり浮かれ騒ぐ。外世界から〈祭り〉を見るために多くの人が訪れ、宮殿では贅を凝らした宴が催される。何千年も続いた儀式にのっとり、〈夏の女王〉を選ぶための競争が行われる。また〈冬の女王〉は愛人で右腕でもある〈スターバック〉とともに生け贄に捧げられることになっている。アリエンロードはそれを逃れるために最後のあがきを試み、それを阻もうとする人々との間で戦いが繰り広げられる。
 〈祭り〉の喧騒とそれが終わった後の倦怠感、また〈夏〉の訪れの期待感が印象的である。

 作者のジョーン・D・ヴィンジは女性で、そのためか物語には様々な種類の女性が登場し、いきいきと活躍している。
 主人公ムーンは純朴さとしたたかさを合わせ持ち、強い意志と優しさで周囲を説得していく。対するアリエンロードは自己中心的な策略家だ。しかしティアマットを外世界人の搾取から護るために手腕を振るっている。
 傍役として登場する外世界人の警察司令官ジェルシャは、正義感にあふれた野心家である。自分の職業に誇りを持ち出世欲も旺盛だが、男性主導の根強い社会構造の中で徹底的に叩かれ、限界を感じて倦み疲れている。しかしアリエンロードの野望をくじくために活躍する。
 他にも社会の底辺で卑屈に生きているカジノ経営者のトール、盲目の〈祭り〉の仮面作り師フェイト、従順のベールを脱ぎ捨て科学技術(テック)密輸業者となったエルゼビアなど、異なるタイプの女性達が登場し、それぞれの物語を持っていて面白い。
 この作品の中では女性は男性より圧倒的に元気で強くたくましく描かれている。葛藤しながらも、困難に負けず、目的や夢に向かって努力し、諦めない。これがとても魅力的で気持ちいい。


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