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旧あとりの本棚 〜 SFブックレヴュー 〜
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著者:パトリック・オリアリー 出版:早川書房 [SF] 【あらすじ】(カバーより) 1991年、ぼくはハリウッドでタイムマシンを燃やした。人生でいちばん狂気じみた、この一年の締めくくりとして。一年間でぼくはエイリアンと恋に落ち、忘れられた夢の秘密を発見し、地球を最終戦争から救い、時間旅行の能力を手に入れたのだ。すべてはあの時から、エイリアンの娘と名乗る女性ローラがぼくの診療所にやってきた時からはじまった……! 夢と現実が交錯するディック的世界を描き、英米で絶賛を浴びた話題作
【内容とあらすじ】 先日読み終わった『不在の鳥は霧の彼方に飛ぶ』と同じ作者の作品。こちらの方が先に発表され読んでいたのだが、『不在〜』を読んだついでに再読。
この本は『時間旅行者は緑の海に漂う』というタイトルの印象が強く、本屋で目をひかれた。手にとってめくってみると書き出しがまた凄い。
ぼくらはハリウッドでタイムマシンを燃やした。(本文より) こんな強烈な書き出しにはなかなかお目にかかれない。まるで要らなくなった家具でも燃やすようなお手軽さ。しかも映画の都、ハリウッドで。そしてこう続く。
『エイリアンと恋に落ち、忘れられた夢の秘密を発見し、地球を第三次世界大戦から救い、自分自身を殺した。』(本文より) かなり奇抜な展開になりそうである。
セラピストのジョンの元へ、ローラと名乗る女性が患者としてやってきた。彼女はホロックというエイリアンを信じ、自分はホロックと人間の間に生まれて地球とは別の世界で育てられたと主張する。治療の過程でジョンはローラから、ホロックの棲む世界のことを詳しく聞く。ゼリー状の緑の海、横は上下、折りたたまれた空間、夢の部屋。ホロックは夢を見ず人間と夢を共有する。ローラはホロックとの約束上、ジョンに1年以内に彼女の話を信じさせなければならないことになっていた。
一方ジョンは自分の家族との間に問題を抱えていた。根源には母親との不和があり、それが弟との関係にまで影響を及ぼしていた。物語の進行とともに彼自身の心の問題が明らかになってゆき、それを修復していく物語でもある。また自分自身を愛するようになれるまでを描いた物語でもある。
ただ一人ホロックのことを話せる新しい友人ソールと共に、ジョンは何が進行しているか分からないまま、渦中に巻き込まれていく。ソールの発明した「どうみてもローテクなただの寝台」のようなタイムマシンで、ジョンはローラを追って未来へと旅立つ。
フィクションだか狂気だかの区別がつかぬまま語られていくホロックの世界のイメージが強烈。夢と現実、時間と空間、狂気と正常、患者と医者、などの境のあやうさが魅力の個性的な作品。
原題は『DOOR NUMBER THREE』だ。作品中に「三つ目のドア」という記述もあるので、原作を大切にするならやはり原題を活かすべきだったのではと思う。しかし個人的には『時間旅行は緑の海に漂う』というこの邦題も非常に好きだ。『三番目のドア』とかだとイメージが変わるので、買っていたかどうかはわからない。
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著者:パトリック・オリアリー 出版:早川書房 ISBN4-15-011444-7 [SF] bk1
【あらすじ】(カバーより) 1962年の晩夏、小麦畑で寝ころがっていた少年マイクとその弟ダニエルは、空飛ぶ円盤を目撃し、ふと気がつくと秋になっていた……40年近くが過ぎ、CM監督となったマイクと英文学教授のダニエルは、二人とも死んでいた。だが、どちらも死んだことは自覚していない。二人をそれぞれに訪れた謎の男タカハシが、疎遠になった兄と弟にお互いを見つけだすように脅すが……P・K・ディックの後継者と評される著者の話題作
【内容と感想】 奔放な性格で満足することを知らないCMディレクターのマイク。生真面目でお人好しな教授のダニエル。タイプが正反対の二人には、お互いの間で口にするのもはばかられる秘密があり、性格の違いもあって、常にいさかいが耐えなかった。二人は両親を知らず、叔父に育てられて来た。子供の頃常に一緒でかばいあっていた二人は、どちらかが死ぬと一緒に死ぬと誓った。そして二人は共に死んでいた。
しかし二人とも自分たちが死んでいることに気がついていなかった。彼らの記憶のコピーはエイリアンによって、なんとハチドリ(!)にバックアップされ、死や空腹などから解き放たれたバーチャルなユートピアにいた。次第にその世界のルールが明らかになっていき、それと絡み合って、マイクとダニエルの子供時代に何が行われていたのかが明かされていく。二人は「越境者」と「矯正者」に分かれて、殺しあう。
かなり突拍子もないストーリーである。しかも話の内容が過去や現在に飛んでいて、説明もないまま謎の部分に触れられているため、何がどうなっているのか戸惑う。しかし読んでいくうちに、ジグソーパズルのピースが一つずつ当てはまって全体が見えてくるように、状況が少しずつ分かってくる。それらの伏線は巧妙に張り巡らされていて、伏線とは思ってもいなかったものまで開いた穴に見事にピタリとはまってくる。
子供の頃は愛しあいかばいあってきた仲の良かった兄弟。いつの間にか心の離れてしまった兄弟。しかし最終的に、血を分けた兄弟であるという絆、ただそれのみが残り、二人は和解しお互いを理解しあう。
全体を流れる雰囲気は、人生の苦悩が織り込まれているため陰鬱で重苦しい。あまり万人向きの作品ではないと思うが、それなりにいい内容で、面白かった。
こんな旅はくりかえしたくない。一度で充分だ。一度でも多すぎるくらいだ。長い旅の末に発見したのは、死のおそろしい美しさだった。けれどもその価値はあった。その過程で自分自身を発見したのだ。(本文より)
原題は『The Impossible Bird』で、本文中に『ありえない鳥』というタイトルの本の話が出てくる。『不在の鳥は霧のかなたへ飛ぶ』というタイトルのイメージも好きなのだが、やはりタイトルはそのままの邦訳のほうが良かったのではないだろうか。
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