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2003年06月18日(水)
■『ドゥームズデイ・ブック』(上・下) ★★☆☆☆

著者:コニー・ウィリス  出版:早川書房  [SF]  bk1bk1

【あらすじ】(上巻カバーより)
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の女子学生キブリンは、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった……はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF

【内容と感想】
 中世史を研究する女子学生キブリンは、ダンワージー教授が危険だと説得したにもかかわらず、中世へのタイムトラベルを実施した。この時代へ女性が一人で行くことは危険すぎたが、キブリンは周到に用意したはずだった。しかし思いがけない事態がおこり、誰ひとり知る人のいない世界で、キブリンは病に倒れ蒙昧状態となる。翻訳機もうまく作動せず、帰るためのランデブー場所も分からなくなり、途方に暮れる。

 一方元の時代では、未知の伝染病が発生してパニックになっていた。キブリンを過去へ送った技術者は倒れ、彼との接触者はダンワージー教授も含め、全員隔離されてしまう。キブリンの安否を気遣いタイムマシンのフィックスを知ろうと懸命になるダンワージー教授だったが、キブリンの指導教授はタイムマシンの接続を断ってしまい、彼女がいつの時代に送られたかすらわからなくなってしまう。


 かなり分厚い上下巻だが、申し訳ないがあまり面白くない。不自然で無理のある展開があまりにも多すぎて、行き当たりバッタリとしか感じられない。また、スラップスティック(どたばた喜劇)なノリの脇役陣やそれに振り回され途方に暮れているだけの主役陣も鼻につく。何より、何かが起こったらしいのに、事態がいつまでたっても明らかにならない引っぱり方がまだるっこしい。引っぱりに引っ張った挙げ句、明らかになるのは予想がついたことでしかないし、引っ張ったからには伏線があるのかと思いきやそうでもない。

 全体を通して「〜を知らなければ」と焦る主役陣と、それを阻止する様々な事態・人・タイミングという構図のエピソードが延々と繰り返される。きっと反復の効果を狙っているのだろうが、ひとつでも十分まだるっこしい。

 後半になるとようやくどの時代に行ってしまったかが分かり、悲壮な状況も進行していってそれなりに読みごたえはある。しかし過去を描くだけなら何もSFである必要はないと思う。そもそもタイムマシンが出ているというだけで、SFとしてはかなりお粗末で一貫性がない。

 SFは荒唐無稽な世界観で展開されるのはいいのだが、それが全体を通してチグハグでは成り立たない。リアルに悲愴感を出したいのなら、スラップスティックなノリのキャラクターを出しては現実味が薄れ、逆効果だと思う。スラップスティックは、突拍子もない展開があってこそ活きてくると思うのだが。

 イメージや雰囲気も、残念ながら私にはそんなに美しいとは思えない。また主人公だけが「良い人」で、脇役の「悪い人」や悲壮な状況に翻弄されているだけという構図もどうかと思う。前半あれだけ不慮の事態で物事が全てうまくいかなかったのに、後半は全てがすんなり運んでしまうのもご都合主義すぎる気がする。それにキブリンの時にはあれだけ用意周到でもうまく行かなかったのに、ダンワージーの時は用意も何も無しにタイムトラベルしてしまうというのは何なんだろう。また、ちょうどSARSが世間をにぎわしている時期に読んだので、かえって小説の中の伝染病に対する対処の仕方の不自然さが際立ってしまった。


 ライトタッチな話が好きで、悲しみにひたるヒロインを楽しみたい人向きの作品かもしれない。賞もいくつか授賞しているし、他の人の感想を見る限りでは絶賛している人も多いのだが、私にはなぜそんなに支持されるのかがよくわからない作品だった。下巻の後書きに、「この作品を読んだ後「??」という感想だったが『航路』を読んだ後で彼女の作品のテクニックのうまさに気がついた」というようなことが書かれている。果たして私もそれを読めばこの作品を面白いと感じるようになるのだろうか。



2003年06月06日(金)
〜 更新履歴 〜 「bl07」他追加

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