旧あとりの本棚
〜 SFブックレヴュー 〜
TOP はじめに 著者別 INDEX 新着  

はてなダイアリー
ギャラリー




















旧あとりの本棚
〜 SFブックレヴュー 〜
Copyright(C)2001-2004 Atori

連絡先
ICQ#24078473







2003年01月30日(木)
■『琥珀のひとみ』 ★★★☆☆

著者:ジョーン・D・ヴィンジ  出版:東京創元社  [SF]
【あらすじ】(扉より)
遠く離れた土星の衛星タイタンに住む野蛮な宇宙人と地球人の交信を描く、ヒューゴー短編賞受賞作、『琥珀のひとみ』。一見原始的に見える知的宇宙人と地球人のファーストコンタクトを描く、『猫に鈴を』。自然の免疫性を持たずに生まれてきたため、地球上で暮らすことができず、単独で深宇宙探査船に乗って星の世界を行く女の物語、『高所からの眺め』。亜光速航行によるウラシマ効果のために孤独をかこつ宇宙船乗組員と、年をとりたくてもとれないサイボーグのせつない恋のお話、『錫の兵隊』など六編を収録。

【内容と感想】
 ジョーン・D・ヴィンジの短編集。収録されているのは主に1975年前後に書かれたもので、初版発行は1985年となっている。私はこの作者の長編SF『雪の女王』が好きなので買ってみた。『雪の女王』はアンデルセン作の同名の童話をテキストとしたSFで、「P・K・ディックの作品はどうも…」と言う私にこれが向いてるんじゃないかとSF好きの人が貸してくれたものである。好きな作家なのに作品数があまりないのが残念だ。


 収録作品は以下のとおり。書かれた時期が古いため、すでに現実的でないアイデアのものもある。SFは時の経過とともに陳腐化してしまうことがあるので、旬のうちに読むべきなのだろう。

『琥珀の瞳』
退廃的な雰囲気漂う異星人の暗殺者と人類のコミュニケーション。1978年にヒューゴー賞を受賞。

『ネコに鈴を』
実験動物並に扱われる囚人が、放射能下で生存する地球外生命体が実験動物とされるのを助けようとする。

『高所からの眺め』
地球から離れる一方の、片道の宇宙の旅に志願した女性の日記。

『メディアマン』
他に人のいない衛星上で殺人を目撃したメディアマン。同じく目撃者となった船長の女性を救おうとするが…。

『水晶の船』
植民した星で土民との混血の道を選んだ人々の最後の末裔と、人類が夢に溺れ退廃して生きていることに気付いた少女の物語。

『錫の兵隊』
女性宇宙飛行士と、彼女の帰りを待つサイボーグバーテンダーとの恋愛もの。3年の船旅の間に地上では25年が経過してしまうギャップが面白い。作者の処女作。

 それぞれの作品の後に作者の解説がついている。作者がどういう意図で書いたかなどをあまり読む機会はないので面白かった。特に「メディアマン」の解説で「女性読者は物語後にハッピーエンドになると想像するが、男性読者はアンハッピーエンドになると想像するらしい」と書かれていたのが興味深かった。私はハッピーエンド説。こういう感じ方の違いがあるから女性作家の作品のほうが私は好きなのだろう。


 私はあまり短編を読まない。SFはそもそも長編のものが多い。設定の説明が必要なのでどうしても長くなるのだろう。長編のペースで読み飛ばすと、文章が凝縮されている短編では、わからなくなってしまう。そこで再び前の方を読み直したりするので、意外と時間がかかる。馴染めないまま読み進み、馴染んだ頃にはもう結末を迎えてしまうのだ。

 「水晶の船」は一番馴染みにくかった。人々が麻薬でトリップしていて分かりづらかったのだ。諦めて最初から読み直すことにして1回目は読み飛ばし、1冊読み終わった後で読み返した。ちょっと暗くて陰うつだが、しかしイメージはなかなか美しい。言葉の感じも美しい。


 彼女の作品は女性の目を通し言葉で書いたSFという感じがして、違和感がなくて好きだ。ハードな科学理論が展開されるわけではないが、かといってSF風な味付けをしただけというのではなく、きちんとSFに仕上がっている。描き出されるイメージが美しく、萩尾望都や佐藤史生といった少女漫画家の描くSFと雰囲気が似ている。少女漫画の原作にしてもうまくはまることだろう。テーマも恋愛ものが多いのでうってつけだ。



2003年01月15日(水)
〜 更新履歴 〜 「rd06」他追加

「ギャラリー」に、ビーズアクセサリー「rd06」「wh03」を追加しました。



2003年01月13日(月)
■『ビター・メモリー』 ★★★☆☆

著者:サラ・パレツキー  出版:早川書房  [MY]  bk1

【あらすじ】(カバー折り返しより)
恋人のノンフィクション作家モレルのアフガン行きが決まり、憂鬱な日々を送るわたしのもとに、黒人労働者サマーズから保険金詐欺の調査依頼がきた。また同じ頃、シカゴではホロコーストについて話し合う会議が開催されていたが、そこでスピーチをしたラドブーカという男性の名前を聞いて、親友の女医ロティが失神してしまう。彼女の過去と関わりがあるらしいのだが、何を訊いてもいっこうに答えてくれない。彼女を助けたい一心でわたしはラドブーカを調べはじめるが、その直後、まるで調査を妨害するようにわたしを中傷するビラが街頭でばらまかれた。さらにサマーズの保険を扱った代理店の店主が殺され、ロティが忽然と姿を消す。わたしは二つの事件の意外な結びつきに気づくが、そのせいで身近な人間を危険に晒すことに。事件は混迷を極め、真相を追うわたしの前に事件に関わる人々の苦く哀しい過去が浮かび上がる。
過去の亡霊に悩む親友のために奔走するV・Iの友情が深い感動を呼ぶ大作。英国推理作家協会賞ダイヤモンド・ダガー賞(巨匠賞)に輝く著者が贈る、女性探偵V・I・ウォーショースキー・シリーズ第10弾。

【内容と感想】
 このシリーズはタフな女性探偵V・I・ウォーショースキーを主人公とするミステリー。同じく女性探偵キンジー・ミルホーンの活躍するシリーズとともに、プロとして体を張って活躍する女性探偵もののはしりである。前作が出て以来実に8年間音沙汰なしだったので、新作が発行されたことに驚いた。

 物語の年代が書かれた年代と異なりゆっくり年を重ねるキンジーのシリーズと違って、ウォーショースキーのシリーズは書かれた年代が物語の年代となっている。久しぶりに登場した主人公のヴィクは、前回には持っていなかったパームや携帯電話などを持っていて、時代の流れを感じさせる。世相もタリバンのテロ活動などが背景で語られていて、社会問題を描くパレツキーならではである。


 主人公ヴィクはシカゴで金融関係の調査を専門に探偵をしている。ファーストネームはヴィクトリアだが、ヴィッキーと呼ばれるのが嫌で、ヴィクまたはV・Iと称している。金融関係をメインに扱ってはいるものの、友人や身内の頼みを断り切れずに乗り出した捜査が殺人事件に発展するケースが多く、そのたびにハードな大立ち回りを演じるはめとなる。


 今回はヴィクの親友で母親代わりの存在の女医ロティの過去がからんでいる。ユダヤ人を父に持つロティは、幼い頃ドイツの家族の元を離れてイギリスの親戚に引き取られた。ロティにはひとに知られたくない過去があり、その過去に結びつくラドブーカという名を名乗る人物が現れたことで動揺する。自分の身内を探すラドブーカは不安定な性格をしており、ロティの友達を自分の身内だと思い込み、強引に押し掛けてくる。

 一方仕事で引き受けた保険金詐欺事件の調査を進めるうちに、ホロコーストの犠牲者の受け取るはずだった保険金に関わりがあることが分かってくる。二つの事件は意外なところで結びついていた。


 友人ロティの動揺に心配をかきたてられ、感情の不安定なラドブーカに引っ掻き回され、ヴィクはピンボールのように跳ね回る。泣きわめく子供や死体の発見がさらに不安定さを助長する。

 ヴィクは依頼人の誤解を受け、中傷されて四面楚歌となる。何よりロティの拒絶に傷付く。このシリーズでヴィクは毎度毎度傷つき怒っている。友人達でさえ、立場上敵に回ることもある。また追い詰められた犯人に攻撃され肉体的にダメージをくらうこともある。それが見ていて痛々しい。

 しかしくたくたになりながらも、真実を求める執念で事件を解決していくのである。今回はホロコーストの犠牲者がテーマとなっている。そのため話が暗く重い。しかし弱いものを助け、身勝手な悪人を許さないヴィクの正義感がすがすがしい。
    V・I・ウォーショースキー・シリーズ作品リスト
  • 『サマータイム・ブルース』
  • 『レイクサイド・ストーリー』
  • 『センチメンタル・シカゴ』
  • 『レディ・ブレイクハート』
  • 『ダウンタウン・シスター』
  • 『バーニング・シーズン』
  • 『ヴィク・ストーリーズ』
  • 『ガーディアン・エンジェル』
  • 『バースデイ・ブルー』
  • 『ビター・メモリー』
    (このシリーズの日本語タイトルはいまいちだと思うのだが…)


TOPはじめに著者別 INDEX新着