月と散歩   )   
DiaryINDEXpastwill


2003年10月05日(日) ワンダフルライフ III



 あなたの人生の中から

   大切な思い出を

 ひとつだけ選んで下さい


―――


人は亡くなったとき、天国の入り口でそう言われる。

選んだ思い出だけを持って、天国で永遠の時間を過ごすために。



…そういう映画があった。


僕が選ぶ『思い出』は、いつだろう…?

―――

ずいぶん昔、初めてその映画を観たあと
僕は、ひとつの『思い出』に囚われて しばらく前に進むことが出来なくなった。

それは
くすぐったい、浮かれた気持ちと
ちょっと触れただけで崩れてしまいそうな脆さと
なによりも、強い後悔で縁取りされた
夕暮れの砂浜。
背中合わせのふたり。

思い出すたび、風に飛ばされたその時の砂粒が 奥歯でじゃりじゃりと音を立てた。


いま思えば辛いだけなのに、そのときはそれしかないと思っていたんだ。

―――

そんな僕も、いろんなひとたちに支えられて なんとかここまで来た。
たぶん、前に進んでるはずだ。
『思い出』の選択肢も、ずいぶん増えた。

それこそ、抱えきれない思い出を持っていつか『そこ』へ行ったとき
たったひとつに絞ることなんてできるだろうか。

いやまあ、なにもいまから選んでおくこともないんだけど。


…でももし、そのときが来たら
僕は胸を張って

「選びません」

と言うだろう。


たったひとつの思い出に生きる、地獄のような天国なら
消えて無くなるほうがいい。


いいことも、いやなことも
どんどん思い出の増える、今現在こそが天国だ。



いま、強く そう思えた。



                          『ワンダフルライフ』 by 是枝裕和


2003年10月04日(土) ワンダフルライフ II


なんだかもう、ずいぶん昔の話のようだ。

―――

8月。

前回書いた、7月の長期連休から2週間後。
僕はまた、9日間の連休を貰った。

せっかくなので、田舎に帰ることにした。

―――

付き合って一年半になる女の子も、連れてくことにした。

まわりはいろいろ言うけれど、僕はただ、生まれ育った町を見てもらいたかった。

それだけ。

―――

大好きなひとに、大好きなひとたちを紹介する。
みんな、好きになってくれたみたい。
よかった、よかった。

両親は、「いいかげんなことはしてくれるなよ」と心配顔だけど。
大丈夫。
あなたたちの息子は思うほどいいかげんではないのです。
抜けたところもあるけれど。

―――

連休後半。

ひと足先に帰る彼女を見送ったあと、
僕と仲間は あてのないドライヴに出掛けた。

住む場所も環境も違って、ひとりだったり、ふたりだったり、もうすぐ三人になったり。

「もう昔みたいにバカできなくなってくるからね」
そう言われるのが悔しくて、
『そんなのは一般論で、僕らにはあてはまらないのさ!』
口に出すより行動でそれを確かめたかった。

男4人。
トランクにちょっとの着替えと、ギター3本、ウクレレ1本。

なんとなく、行き先を富良野に決めた。
たいてい僕らの物語の真ん中だったり、端っこにかかっていたりする。
でもまあ、なんとなく。

どこかでひとつ、歌をうたおう。
せっかくだから外でうたおう。
野良演奏だ!

…結局、天気に嫌われて それは出来なかったんだけど。
それでも車中やら室内やらで うたいまくった。

泊まったペンションの部屋は、まるでそんな僕らのためのような、本館とは隔離された列車の車両を改造したバンガロー。
大丈夫。
外に音は漏れていない。
それをいいことに、夜中まで騒いだ。

大丈夫。
僕らも、だいじょうぶ。



りべっとまん |MAILHomePage