「大女優にお伺いします 今夜のスケジュールに空きはあるでしょうか」
彼からのメールを読み 思わず両手で口を覆った
この何日か前 メッセ友達に何気なく聞いてみたんだ 返ってきたのはこんな答え
「好きな人に逢う時間なら いくらでも作れるはずだよ それに キスから先に進まないのは キミを愛してあげる自信が 彼にはないからじゃないの?」
愛する自信がない? 意外だった こういう考えがあったのか
「好きな女なら抱きたくなるはず」 としか思えなかったおバカな私
そんなときだった 女性宛てだと直感した あのメールが届いたのは
そうだ ここで切り替わったんだ 私は
待ち合わせ場所に向かう 歩くスピードは いつもより遅かった
「はいっ」
膝の上に置かれたプレゼント きょとんとする私
「明日は何の日?アニバーサリーでしょ?」
「このままもらってしまったら 次がなくなりそうだから これは次に受け取るよ」
「ダメ これは今日渡さないと意味がない」
明日は私の誕生日 覚えていてくれてたんだね
そうか これを渡すために?
袋の中を見て驚いた てっきり先日レースのパンフレットかと思ってたから
入っていたのは とても暖かで 彼の優しい心がこもっているプレゼント
女の子から男の子へはよくあるだろうけど その逆は殆どないんじゃないかな もしかしたら世界中で私だけなんじゃないかって そこまで思えたもの・・・
さて 何でしょう(笑)
そうだ 思い出した
「本2冊 借りたままだったよね」
「2度使えるじゃん」
「じゃあページ1枚ずつ破って返す」
大爆笑の彼
「電話しちゃいけないかと思った」
「なんで?」
「あなたがまだ話せるような気分じゃない と思ってたからさ じゃあ『電話するよ』ってメールするね」
「うん そしたら電源切っとくから(笑)」
彼と逢っても キスさえしなければ 切り替わった気持ちのままでいられる 風に向かったままでいられる
そう思ってたのに やっぱり待ってたキス
ああ 今日はこのまま帰ることになりそうだな・・・
「じゃあ帰るね」
身支度を始めた私に 彼のキスが飛んできた
私の腕は マフラーを巻いてる途中のまま 宙に浮いている
「うん この匂い」 私を抱き締めた彼が言う
私はと言うと あなたの匂いを完全に忘れてた キスも 唇の感触さえも
なんか違う?と言うのではなく ああこうだったんだっけ・・・って
でも きつく抱かれるあの感触 これだけは体が覚えていた 「ああこれだ」 と思えた
首筋に這う彼の唇 このまま押し倒して・・・と思う
一度は切り替わったはずなのに 風と逢う前の自分に 戻っていた
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