よるの読書日記
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| 2003年10月31日(金) |
岳飛さんの話じゃないしー |
『岳飛伝』四<田中芳樹 編訳/中央公論新社> いきなり主人公が囚われの身になってます。大胆な始まりだなぁ。 ふむふむここから回想で武勇伝になるのかいなと思ったら、 どういう訳かタイトルロールの子供が活躍しだします。 おいおい、何でやねん。半分以上読んでから、 表紙に「四」と書いてあることに気づく。あちゃー。 でももうしょうがないので最後まで読んじゃいました。 図書館にはこの一冊しか置いてなかったし、ぱっと見背表紙や 貸し出し表には数字がついてなかったのが勘違いの元。 よりによって最終巻だけ置いておくことないんじゃない? 全くもー。次は最初から読みたいと思います。
『リミット』<野沢尚/講談社> 見てないんだけど、安田成美主演でドラマにもなってた ようですね、これ。どっちが先かわかんないけど。 子供のために命がけで闘う女もいれば、子供を売り飛ばして 平然と札束を数える女もいる。 我が子だけはどんなことをしてでも救いたいという親の願いが、 不幸な子どもの生皮剥いででも、というエゴイズムに つながったりもする。子どもに欲情して、それを止められない どーしょーもない連中、身体を売るしか食う手段がない ストリートチルドレン。
世の中のむごたらしさ、醜さと、子供が親を慕う一途さ、 親が子供を想うひたむきさが共存した怖い小説です。 物語が始まるに至るまでの登場人物の過去を細かく 掘り下げてるのがいかにも野沢流。
『黒焦げ美人』<岩井志麻子/文藝春秋> 本を選ぶ時にタイトルって重要だと思いますが、それにしても この人のセンスってすごい。むごたらしくて華やかで過激で耽美だ。
一家の家計を支えられているのは美しい姉が金持ちの妾をしているから。 おかげで妹は女学校に通わせてもらっている。 姉の周りにはいつも男達がサロンのように集まっていたが、ある日、 彼女は焼死してしまう。 新聞は「黒焦げ美人」と囃し立て、生前の姉の噂まで取り沙汰する始末。 密かに慕っていた男が疑われ、ヒロインの苦しみは続く……。
苦労してて男の気持ちを知るのに長けてそうな姉が実は疎く、 世間知らずでおぼこの妹の方が実は状況がよく見えている、 という前半の描写が良かったです。その妹の目がだんだん「恋」という フィルターで曇っていく……この辺は面白かった。 終盤は観念的というかこじつけっぽいというか犯人の言い訳に なっちゃいます。ちょっと残念。
『秘宝耳』<ナンシー関/朝日新聞社> この人が生きていたら今のテレビ界をどう切るかなぁ。 くりぃむしちゅーの躍進。トリビアにおけるタモリの存在感。 草なぎが20%視聴率取るとニュースで木村が25%取っても ニュースにならない不思議。 ……あれ、何か他に思い浮かばないや。内容微妙に古いし。 最近テレビ見るとき一番最初にチェックするのは WOWOWで今何やってるかだもんなぁ。 この本の内容が収録されていた時私は学生で妹と住んでて テレビが自分の部屋にあったので、かなり共感性を持って 読めたのでした。思えばあの頃が人生で一番テレビの視聴時間が 長かったのではなかろうか。 私自身はテレビにそれほど執着はないのだけど、当時間取りとか 配線の関係で自分の部屋しか置く場所がなかったのです。 一方妹は母同様テレビがないと落ち着かないタイプで、見てなくても 音がないと寂しいとか言う。台所も私の部屋の横だったので 必然的に私の部屋は居間兼となり寝るまで妹が居座って テレビを見続け、妹の目前で着替えたりすると姉妹だろうと もっと慎み持って行動しろと怒られる、おめーが夜遅くまで 人の部屋にいるのが悪いんだよ。 ……ということで、当時私たちの兄弟仲は最悪でした。 部屋を交換するのが一番良かったのでしょうがそれは自分の部屋を 気に入っている妹に拒否された。ますます理不尽。 ここ数年は年に数回しか会わないのでお互い楽になりました(笑)。 できればあっちでいい人見つけて幸せになってくれ(爆)。
えーっと何だっけ、そういう訳で「ビストロ勝者の香取に 目を閉じてくちづけを求める森光子」を見る困惑とか、 サッチーミッチー戦争とか、懐かしくもリアルで面白かったです。 何だか学生時代が甦ってきちゃうわ。タイムカプセルみたい。
『雪が降る』<藤原伊織/講談社文庫> 短編集です。賭博好きの中年サラリーマン(でも仕事はできる)とか、 藤原さんらしいキャラクターが出てますね、やっぱり。 でもちょっと純文学っぽい作品もあって、この幅がさすが 史上初直木賞と乱歩賞のW受賞。 『テロリストのパラソル』の島村氏も出てるし、 あの名作『てのひらの闇』の原型と呼ぶべき小編もあります。 私は長編の方が好きだけど、お得感はありますね。
ところで藤原氏東大出の電通マンという羨ましい経歴の持ち主で あるようですが、麻雀好きと言う悪癖もお持ちのところがまあ 知り合いでなければ「人間味」で片付けられる範囲の欠点と いう所でしょうか。この本の解説は作家の黒川博行氏。 なーるほど、鷺沢―黒川―藤原、の作家麻雀トリオ……。
『花ざかりの君たちへ』21巻<中条比紗也/白泉社> 男装して全寮制男子校行って、好きな人と同室。 巻数字が一ケタ台で両思いにもかかわらず、今回ようやく……。 私はもうヒーローの忍耐強さに目頭が熱くなりそうです。 ありえへん。
と、いうか両思いを確認してから彼に自分が女であることを 打ち明けていいものやら悩んでいるヒロイン……。 実は既に1巻からばれているのだが……ばれないわけないじゃん 24時間一緒で隠してる方は人一倍呑気。 嘘ついてたこと打ち明けたら嫌われるーとか思うその前に 「こいつ、ゲイなんだー!!」と何故驚かない? 恋する乙女だから?アメリカ生まれだから??21世紀だから??? 仮に相手が真正ゲイで「俺、女はダメなんだ」と言われたら 納得できるのか?何が何だかなー。面白いからもっと悩んでろ。
『凶気の桜』<ヒキタクニオ/新潮社> タイトルの漢字を誤認していたのは私だけではない、と思う。
主義があろうと主張があろうと、犯罪は良くないよ君達。 やってることは徒党組んで弱いものいじめしてるそこらへんの 馬鹿どもと変わんないだろう。
大人に利用されていいようにされてるさまはちょびっとだけ 哀れですが。どいつもこいつも薄っぺらな正義なんか 振り回してんじゃねえよ。 と、思う私はもう汚い大人なんですかねぇ。
『日本探偵小説全集 2 江戸川乱歩集』<創元推理文庫> 珠玉の短編を集めた傑作選。初心者にも上級者にも乱歩を 語るなら避けては通れない一冊。 もしかしたらこっちから先に読んだ方が、良かったかもしれない。 結果論ですが。
『犬の方が嫉妬深い』<内田春菊/角川書店> 内田春菊、二度目の離婚を語る(笑)。 この人ってよくよく誤解されやすい人みたいねー。 というか、不満をずーっと溜め込んで、ずーっと我慢して、 相手がつけ上がるだけつけ上がった頃に「どっかん」 と来るので相手も回りも「え?何が起こったの?」 って感じになっちゃうみたい。 だって「できた人じゃない、血のつながらない子供の 面倒も見て家事もしてくれてマネージャーもしてくれて 会社もやってくれて!」 と思ってたら 「別れようと言っても別れてくれなかった、お乳もオムツも 私がやってた、食事は外食やインスタント食品、 マネージメントするのに人見知りの内弁慶、経理はいい加減で 浪費家だった!」 と訴えられても、ねぇ。
たぶん今のところ三番目の旦那さんと幸せみたいだし 別れて正解だったんでしょうが、下半身や夫婦生活の問題まで 赤裸々に触れるのは、それはあかんのと違う? 正直、押し切られた上のことでもそういう人と結婚したのは 自分だし、それまで別れなかったのも自分じゃないのか。 子供が欲しいのに非協力的で、もしこの人に振り回されてたら 今頃体が不妊治療でボロボロになってただろう……って やってもいないのにイヤだわ奥様。DNA鑑定の結果、 夫の子だと思いこんでいた長女も当時付き合っていた 別の男性の子だったというのに……。 ぐうたら主夫と不貞妻、どっちが悪いかって話になるとやっぱり 厳しい目で見ちゃうかな。 批判や反発は覚悟の上で書かれたんでしょうが。
本筋とは関係ないけど、自分やお子さんが太らない体質で、 別れた大嫌いな男が太ってたからでしょうか、 イコールデブは醜い、デブは意地汚いと思ってるような 印象を受けるのは私の僻目でしょうか。気のいいデブだって いると思うのよ。私は違うけど。
『旅涯ての地』<坂東眞砂子/角川書店> 第一章を読み終えるまで、これがマルコ・ポーロの家の話だと 気づきませんでした。疎すぎ。 正確に言うと、中国より帰ってからのポーロ家が最初の舞台。 主人公は中国と日本の混血でポーロ家の奴隷。 東洋から西洋に渡った男の、長い長い旅の物語です。 異端問題とかキリストの聖遺物がどうしたとか、 中世ってやっぱり暗いなー。 ドライでニヒルな主人公の醒めた視点が信仰に振り回されてる 人々をより浮き彫りにしている印象がありました。 坂東さんの人間描写ってやっぱりすごいや。
| 2003年10月08日(水) |
die Geschichte |
『総統の防具』<帚木蓬生/日本経済新聞社> 東西ドイツの統合後に発見された防具。 それは軍国日本からナチスドイツ総統への贈り物だった……。
緊迫した情勢下で燃える日独混血の日本軍人とユダヤ人少女の恋、 日に日に深められる日本大使館とヒトラーとの関わり、 優生保護の考えのもとに行なわれた精神病患者への弾圧。 特に逼迫していく精神病院の描写は、作家自身が精神科医だけに 静かな怒りを感じます。 激流のようなドラマですわ、うーん。骨太で読み応えあります。 ユダヤ人への迫害だけでなく、病人や障害者なども派手に 差別してたのですね、あのちょび髭は。日本人のことは黄色い猿とか 思わなかったんでしょうか。内心思ってたかもねー。 「ミカドにはドイツ人と同じ血が流れてる」位は信じてたかもしれん。
私は言語にめちゃめちゃ苦労したので(第二言語のせいで 卒業できないかと思った)、どうもドイツには劣等意識があるみたいです。 5年ぶりに独和辞典引いたよ……。
『指さきの恋』<時実新子/文藝春秋> 『有夫恋』(読んだことないけど)の俳人、時実さんの エッセイ集です。何となく艶やかで恋多き女性なのかしら、 と想像していたらどうもその通りのよう。 恋多き女、この悩ましくも色っぽい称号は私からは最も 遠いところにあるものですが、こういうダイナミックな人 というのは時期とか状況に関係なく恋愛ウェーブが来た時に がんがんロマンチック街道をひた走っちゃうものらしい。
「これからもいいお友達でいたい」とか「私は人妻だから」 等のブレーキがなく 「子供も産んでオバサンだし」とか、いいわけもしない。 潔い性格でないとなかなかこうは行きません。
題名は、手が好きでやがて全部が好きになる――というような (すみません正確じゃないです)自身の句から。 女の人にとって手って重要ポイントですよねー。 私も大きくてごつごつ骨ばってて指の長い手が好き。 職業柄お客さんの手とか良く見てる筈なのですが、 いちいち反応しないのは何故?金か、金を見てるからか。
| 2003年10月03日(金) |
この胸を濡らすように |
『氷雨心中』<乃南アサ/幻冬舎> お香作り、とか提灯作り、お酒の杜氏など、 今では結構珍しい伝統工芸的な職業が多く出てくる短編集。 最初気づかなかったけど狙いだったんでしょうかね。 題名のせいか、読んでいてジワジワと寒くなる…… 気がしないでもない。
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