よるの読書日記
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2002年01月26日(土) 死が二人を分かつとも

『白い犬とワルツを』<テリー・ケイ/新潮文庫>
とうとう手を出してしまいました、去年のベストセラー。
感動作と言われるとつい斜めになってしまうのですが。
あれですな、米国版某ベストセラー小説。
男やもめが寂しいのは万国共通の模様。
じいさんがぼけたのかとうろたえる娘達が哀しくもおかしかった。
連れ合いなくしてがっくり、とはこれもよくある話ではあります。
男性は比較的長生きに向いてないのかも。虫なら食われる運命だしね。

でも先立つとして生涯の伴侶に、ばあさんになって死んでからも
可愛い女だったって思われるってある意味理想。
死んでくれてありがたいとか言われたらすごく悲しい。
あんまりひどいこと言うと化けて出るぞ!


2002年01月20日(日) 死の予感

『家族アート』<伊藤比呂美/岩波書店>
私は独身ですが妊娠・育児エッセイが結構好きで機会があると
読んでおります。著者との出会いともそれでした。
選んで読んでるわけではありませんが私が今まで読んだことのあるのは
母性をあまり強調しない人のが多い。
そのせいか過去に中絶した話とかよく出てきます。

うーむ。前回の話とかぶりますが二股だの不倫だの中絶だの、
お世辞にも自慢できないようなことを繰り返す
実際目の前にいたら絶対嫌いなタイプの人が、
これまた虐待だのレイプだの心中未遂だの、
普通絶対隠しておきたいようなことを大っぴらに
打ち明けてしまう心理を理解したいとは思わない。

でもそれに惹きつけられてしまうのは、彼らがそれを文学として
ちゃんと昇華させていて、尚且つ自分の中のどこかに
同じ業を感じるからなのかもしれません。
私達の遺伝子の一つ一つは祖先の交歓、姦淫、憎悪を経て、
子殺しや間引きを潜り抜けてきたのだから。

おっと、なんだか未熟な文学論みたいになってしまいました。
未熟な読書感想文に戻さねば。
夫と私、三才の娘から成る家族と、居候や友人、隣人らとの
一見普通で、でも奇妙な生活。家族というアートを築いている
著者は、詩人だけあってコトバに力があります。
自分の事を昔だったら難産で命を落としただろう、
きっと子宮が命取りになって死ぬだろう――みたいな記述があって。
男性にはわからないかもしれませんが(わかられてもちょっとイヤだが)
そのリアルさに読んでて貧血起こしそうになりました(^_^;)。

私はたぶん頭が命取りだと思います。
馬鹿やって死ぬと言う意味ではなく、いやそれもあるかもしれないけど、
遺伝的にヤバイのと体質的に頭痛持ちなのと。
どっちに転んでも危ない気がします。
人間ですからいつかは死にますがせめていつか
「よるの育児日記」が完結するまでは生きたいなぁ。
てことは死ねないな、ふっ。


2002年01月15日(火) 迷子の仔犬

『迷宮学入門』<和泉 雅人/講談社現代新書>
迷宮と迷路とは全然違うのだそうです。
迷宮とは行き止まりがなく常に一本道で、
しかしその空間をくまなく通らねば中心にたどり着けないのだそう。
知らんかった、てことは迷宮で迷子にはならんてことだな。


2002年01月10日(木) 記憶にまつわるエトセトラ

作家ってのは想像力を武器にするタイプと
自分の体験を肥やしにしていくタイプがあると思う。
前者で言うと新井素子とか田中芳樹。
職業以外は堅実に生活してそうな方々。
あとは人生ドラマティックで
そこから派生した感情やトラウマを
吐き出す手段の一つとして小説書くパターン。
山田詠美、内田春菊、柳美里、古くは太宰治や壇一雄とか。

さて今回の著者エルロイさんもこのタイプでしょう。
何しろ心理学の本
『記憶を消す子供たち 』< レノア・テア/草思社> で紹介された位だ。
彼は幼少時に母親を殺されています。
最有力容疑者は離婚した父親であったが、
その夜は息子である自分が泊まりに来ていたため、アリバイがあった。
しかし、彼は父が睡眠薬を自分に投与した疑いを捨てきれずにいる。
かくして彼の小説には本人も気付かないまま
「美しい女が殺される」「不自然な深い眠り」などの
エピソードがくりかえし登場しているのだとか。
ついでにS・キングが血まみれスプラッタばかり
書くのも友人の鉄道事故が原因らしい。

ただこの本の冒頭は、テレビでも放送されてた気がしますが
父親が幼友達を殺害した記憶を何十年かぶりに思い出した主婦の話で。
後に自分も虐待されていたことなどを次々に
「思い出した」のですが当時の状況を
丹念に調べると誤りが非常に多いことが判明しているらしいので。
精度としては低い情報になってしまいました。
この手の話題については『抑圧された記憶の神話』
<E.F.ロフタス/誠信書房>に詳しい。

前置きが長くなりましたが
『L.A.コンフィデンシャル』上<ジェイムズ・エルロイ/文芸春秋社>。
映画化もされて、ビデオも見たはずなのにどの刑事が
ラッセル・クロウなのか最後のほうまでわからなかったわ。
映画のストーリーもラストシーンしかまだ思い出せない…。
しかも下巻はいつになったら読めるのであろうか…。


2002年01月05日(土) 名探偵が多すぎる

『堕天使殺人事件』<角川書店/新世紀「謎」倶楽部>
新進気鋭の作家さんたちによるリレー小説。
そのフレッシュな顔触れたるや
知ってる(気がする) 三、著作を言える 二、読んだことある 一。
この分野に関しては上得意だと思い上がっておったのですが。
世間は広い。
内容はですね。堕天使が巻き起こす凄惨な連続殺人事件です。(タイトル通り)
色々制限のある中これだけの内容を書き連ねるのは
生半可な意欲ではできなかったと思います。
しかしついでに新キャラの人数にも制限をしてほしかった。
出ては消え出ては消え登場人物バブルのよう。
新聞記者だけで何人出た?
その他女子高生探偵だの僕たち元元少年探偵団だの
独自性を出そうとしてかキャラというか設定が濃すぎ。
読みながら疲れた(笑)。


2002年01月04日(金) 先入観を持って読んではいけないという総天然色見本

えーっと、これって評伝なの?それとも小説?
わからないまま読んだ2002年の読み初めは
『ピカレスク』<猪瀬直樹/小学館>。
猪瀬氏と言うと佐竹高氏<『タレント文化人百人斬り』/現代教養文庫>
にさんざん小物呼ばわりされてた人というイメージと
何の雑誌か忘れましたが若者海外ボランティア義務化みたいなことを
唱えてて阿呆かこのオッサン(人違いだったらごめんなさい)、
やる気のないボランティア送るなんてプルトニウム輸出するより
相手に御迷惑だっつうのと思った覚えが強い。
いくらなんでももうそんなこと言ってないだろうな。

サブタイトルは太宰治伝です。
文学少女なら(まだ言うか)一度は通る道、太宰さん。
正直あんまり好きじゃないんだけどねー。
偽悪っぽいところが馴染めない。
やるならやるで開き直ってればまだいいのに、
ごめんなさいごめんなさい、と言いながらやめないあたりが。
そんなわけであとがきにあるこれまでの太宰のイメージとして
「人間失格の弱い男で、生きることに耐えられず、
常に死を追い求めていた」と言うのは最初から私は違うと思ってます。
大体作者の描こうとしたという太宰の狡い一面って私大昔に
寺山修二の文章でも読んだことあるぞ。
別に威張って言うほど新しい太宰像でもなかったな。

そしてこの小説で力入ってる何故太宰が
「井伏さんは、悪人です」
と遺書に書いたのか、でありますが。
答えは、出てる。しかし何故遺書にまで、という裏づけがなくて
隔靴掻痒な感じ。
これだけ書くならいっそ井伏鱒二伝にした方が良かったんでないの。
だってピカレスク(悪漢小説)でしょ?
冷静に評価したいんですけど先入観が邪魔をして
悪口ばかり書いている……。
ま、いいか。私の場合ご本人は生きている(笑)。

この本で白眉だったのは、防空壕から出てきた太宰の長兄が、
「早く焼けないかな、こんな家……」
と言う場面。
ここだけぐっときた。
膨大な参考文献を読んだり存命の関係者に証言を得たりした労力は
すごいと思いますが、しかしそれだけに、この場面が
実話なのか作者の力量による創作なのか。
余計なことを悩んでしてしまうのでありました……。
国文学、特に太宰治に詳しい偉い人、誰か教えて。


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