野生の森
高瀬志穂



 君の望むことを 望むだけ

 いつもと同じ朝。いつものように目が覚める。少しだけいつもと違うのは。

「おはようキラ。」

 今日は一年で一度だけの日だということだ。
 
 だからと言って眠気に勝てるわけではない。キラは開けた目をゆっくりと元に戻していく。するとコツンと頭を小突かれた。

「寝るな。今日はみんなが誕生会を開いてくれるんだろ。」
「うー。そうだけど、それは夕方で……まだ朝…。」
「あのな。だからこそ午前中に終わらせなくちゃいけないことがいっぱいあるだろ。ほら、早く起きて。」

 アスランに布団を引っ張られ、しぶしぶキラは起き上がる。するとアスランは嬉しそうに口を開いた。

「お誕生日おめでとう、キラ。」

 今日一番最初に、誰よりも早く言われた言葉にキラは顔を緩ませた。

「プレゼントは?」
「そうだな……キラの欲しいものをあげるよ。けどあんまり高いものはやめてくれよ。」
「考えておくよ。」


 今日という日の為に色々とスケジュールを調整した。他の誰の誕生日も盛大に祝うことなんてないのに「せっかくのキラとカガリさんの誕生日ですからね。」というラクスの一声でいつのころからか毎年この日に誕生会が開かれることとなった。
 普通に考えれば歌姫であるラクスの誕生日を盛大に開くべきなのだろうが、ラクスの誕生日は追悼式典の準備で毎年忙しく休みを取ることが出来ない為に一度も開催されたことはない。メッセージとプレゼントを送る程度だ。アスランや他のみんなの誕生日も似たようなものである。
 今ではオーブの代表となったカガリの誕生日ということであれば国をあげての盛大に開かれそうだが、毎年親しい友人だけでパーティーが開かれていた。それでも数十人という単位の出席者のいるパーティーなわけで。
 二人の誕生日ということになっているが、きっと一年分まとめてのみんなの誕生日会なのであろう。
 ラクスが手配したレストランを貸し切ってのパーティーはちょっとした同窓会であった。毎年この日しか会えない人も多い。

「お誕生日おめでとうございます、キラ、カガリさん。」

 用意された轟華な椅子。そこに座る二人の前に本日の主催者であるラクスがやってきて、深々と頭を下げた。

「悪いなラクス。毎年こんな盛大に祝ってもらって。」
「忙しいのに、ありがとうラクス。」
「いえ、私はお二人の姿をこうして見られるだけで幸せですから。それに一年に一度くらいこうしてみんなで楽しく騒ぐ日も必要かと思いますので。」

 そうして一人ずつ二人に挨拶に来ては、久々に会う知人友人と騒ぎだす。二人の誕生日は騒ぐ口実というわけだが、それでもみんなが楽しそうにしているのを見ているのは気分がよかった。

「そういえば、アスランはどうしました?」

 いつもキラの隣にいるアスランの姿がない為か、ラクスは周りをきょろきょろと見回した。

「そういえばいないな今日は。いつも鬱陶しいくらいキラにべたべたしているのに。」

 カガリの言葉にキラは苦笑いすることしか出来なかった。確かにアスランはキラの横にいることが多いが、そういう風にカガリの目に映っていたのかと。

「ちょっと他の人に話があるって言ってどこかに行っちゃった。」
「あら、そうですか。では、私も少しだけ失礼しますわね。楽しんでいらしてくださいませ。」

 ラクスと入れ替わるようにまた新たな客人が到着し、二人に挨拶をする。久々に会える人たちに嬉しくて、キラはカガリと笑い合いながら食事と会話を楽しんだ。

 一年に一回の日。みんなから祝福されてとても楽しかった。これ以上嬉しいことなんてないはずなのに何かが物足りない。何か満たされない。腹八分という言葉があるくらいだから欲張りすぎちゃいけない。

 部屋に帰ってきて、ソファーへとダイブする。楽しかった。興奮はまだ収まらない。けれど疲れた。このまま眠りにつければとても幸せだろう。

「ほら、そのまま寝るなよな。」

 アスランの声が聞こえる。怒っているわけでも呆れているわけでもなく、くすくすと笑った声がキラの耳に届いた。

「あ。」

 そうしてようやく一つのことが頭を過った。何か足りない満たされない。それが一体なんだったのかようやく理解した。当たり前過ぎて気付かなかった。
 今日はキスどころか触れることすらしてない。いつもなら手を繋いだりキスをしたり。さすがに公衆の面前でのことはほとんどないが、二人きりの時はそういったことがある。
 けれど今日は朝起きてから何もない。パーティーの時もアスランはどこかに行ったまましばらく帰ってこず、帰ってきたと思ったら客人を案内して来た。

「アスラン?」

 ソファーから顔をあげる。

「なんだ?」

 いつものようにアスランはキラに笑いかける。嫌われたということはないらしい。けれど服をぎゅっと掴んでみてもアスランはなにもしない。
 欲張り過ぎてはいけない。けど誕生日なんだから少しくらい欲張ってもいいよねと足りないものを思案する。
 もしかしたらこういうことをもう自分とするつもりはないのだろうか。だから節目の誕生日という日を選んだのだろうか。
 そうだとしても、そんなこと聞いてない。アスランの中だけで勝手に決められたことなんてキラは知らない。

「ちょっと来て。」

 手招きしてソファーのそばにアスランを呼ぶ。するとゆっくりと近づいてくる。その身体に両手をのばす。

「起こして欲しいのか?」

 アスランが身体を屈めてキラの身体を持ち上げようとする。けれどそれよりも先にキラはアスランの首へと腕を回し、アスランの唇に自分の唇を寄せた。

「誕生日プレゼント。もらってなかったから。」

 そう言ってアスランに回した手を離す。
 そうして起き上がろうとしたのだが、その身体をソファーへと押された。

「キラはそんなんで満足なの?」
「……え。」
「今日はキラの誕生日だからキラの望むことしかしないよ。言っただろう?今年の誕生日プレゼント。」

 そうしてようやく、キラはアスランが今日一日触れてこなかったことの理由に気付いた。なんて意地悪な恋人なのだろう。

「………だから、今日は僕に触れないしそばにいなかったってこと?」
「キラが何も言わないから。」
「意地悪だねアスランは。」
「これほど優しいプレゼントはないと思うけど?」

 小さく、キスしてとねだればちゅっとキスされる。もっと、他のところにもと言えばキラが求めるように。

「他には?」

 意地悪な表情を浮かべてアスランはキラを覗き込む。

「わかってるくせに……。」

 これ以上なんて恥ずかしくて言えない。いつものように何もわからなくなるくらいにめちゃくちゃにして欲しいだなんて。

「アスランの……好きに、して?」

 これが精一杯の譲歩。

「……っ!」

 アスランの顔が赤くなる。

「どうなっても知らないからな。」

 




 泣きはらした目をゆっくりと開けるとそこはいつも寝ているベッドだった。目をこすりながら起き上がると、パジャマを着ていた。身体に不快感が全くないので、アスランがきれいにしてくれたのだろう。
 最初のころの記憶はおぼろげに残っているのだが、一体いつ気を失ってしまったのか全く記憶にない。
 色々ねだったというか、ねだらされた気もする。一つずつ残っている記憶を辿り寄せると恥ずかしくて仕方ない。
 自分が誕生日だったのにアスランの好きなようにされた気もするが、結局は自分もアスランを欲したのだから、何も言えない。

「誕生日プレゼントありがとう、アスラン。」

 横に眠るアスランの額に軽くキスを落とし、キラは再度ベッドへと潜り込んだ。


 

2010年05月18日(火)



 今だけの言葉

 今しか言えない言葉がある。

 けれど、だからといってそれを口にするのは容易ではない。

「キラもうすぐ出撃だ。」
「……。」
「キラ、キラ!」

 肩を強く揺さぶられ、キラは呼ばれていることに気づいた。

「あっ、ごめん!準備しなくちゃね。」

 そう言って首元を緩めていたパイロットスーツを正す。
 そんなキラの姿を見てか、アスランはため息をついた。

「お前、ちゃんと休んでるのか?疲れていないわけはないが、ちゃんと休める時に休んでおけよ。次の休憩がいつになるかわからないんだから。」
「大丈夫だよ。ちゃんと休んでるから。ちょっと考え事してただけだから。」

 もうすぐ戦いが始まる。きっとこれですべてが決まるであろう。この戦いの勝者、もしくは結果が。

「あ、アスラン!」

 部屋から先に出て行こうとするアスランの背中を呼び止める。すると、アスランはすぐにキラの方へと振り返った。

「なんだ?」
「あ、あのね、その……。」

 自分から声をかけたというのにも関わらず、うまく口が回らない。なんて話をしていいかわからない。なんて滑稽なんだろうか。

「なんでもない、忘れて!」

 いたたまれなくなってアスランに背を向ける。

「そんな気になることわざわざ言うなよな。」
「…ごめん。」

 もしキラが同じことをアスランから言われたら、今のアスランと同じように気にするだろう。
 もうすぐ大事な戦いが始まるというのに、気を散らせてしまったことをとても後悔した。けれども、アスランはそれ以上問いつめることはなかった。

「いや、いいよ。この戦闘が終わったらゆっくり聞くから。」

 ぽんと頭に軽く手を置かれる。そんなことをされると思ってなかったキラは、とっさに顔をアスランへと向けた。
 すると、そこには真剣な表情をしたアスランがいた。

「だからお前も忘れるんじゃないぞ。」

 それは、生きて帰るという約束。死ぬつもりなどないが、生きて帰れる保証なんて戦争にはどこにもない。だけれども、大切な行為。

『キラ、アスラン、クサナギから通信が入ったわよ。』

 戦場に赴く前とは思えないほどに穏やかな空気は、通信によって終わりを告げた。
 通信者の声に振り向くと、画面にカガリの顔が映っていた。

『二人とも平気か?』
「あぁ、お前こそ戦いに参加したいとか言い出しそうで心配だな。」

 アスランの手がキラの頭から離れ、会話も視線もカガリへと向けられる。そのことに、キラは胸がちくりと痛んだ。

『そうしたいのは山々だが、あいにく機体もないし、私が出ていっても足手まといになるだけだろうからな。』
「クサナギで指示を出すことも重要なことだ。指揮官が堂々と構えていれば、前線も安心して戦える。」
『そうだな。……キラ、具合でも悪いのか?』

 何も言わず画面から視線をずらしていたことを気づかれたのか、カガリはアスランとの会話を中止してキラへと声をかけた。
 そんなカガリに思わず作り笑いを浮かべて何でもないと手を振った。

「ご、ごめん。僕、先に行ってるから。」

 後ろで二人に声をかけられていることに気づかない振りをしてキラは慌てて部屋を出た。

「どうしたっていうんだ?キラは。」

 アスランは軽く首を傾げるように疑問符を浮かべる。すると画面の向こう側にいたキラによく似た人物はアスランを睨みつけた。

『……おい、他に言うことはないのか?』

 声のトーンが先ほどよりも数段下がっている。しかし、アスランはそんなことを気にした様子はなかった。

「特にないだろ。カガリの方はマリューさんやラクスと話し合って…。」

 もう作戦会議も済ませたから特に話はない。あとは出撃命令を待つだけだ。しかし、その言葉にカガリは大げさすぎるほどのため息をついた。

『そうじゃなくてキラにだ。誤解をちゃんと解いておけよ。』
「俺は誤解されるようなことはなにも…。」
『なにも気付かないっていうのか、お前は。』
「一体何にだよ。」
『はぁ、馬鹿だな、お前。ハツカネズミだけじゃなくて馬鹿もあったんだな、お前の頭は。』
「だから、何だっていうんだ。」

 画面の中のカガリは怒って、そして呆れているようだったが、アスランにはその意味が理解出来ずにいた。




 一方、部屋を出たキラはは廊下で一人の少女と出会った。この艦の指揮官でもあるラクスだった。

「もう準備はお済みですか?キラ。」
「ラクス…うん、ちゃんと着替えたし、整備も終わってるし。」

 大丈夫、と笑うと少しだけ悲しげな表情で首を横に振った。

「そうではなくて。…キラ、今は戦争中です。私は誰一人として失いたくありませんし、そうさせるつもりもありません。ですが、今しか言えない言葉もあると思いますよ。」

 何も言っていないけれど、ラクスにはわかっているようだった。本当なら隠しておきたいことだったが、今更そんなことをしてもしょうがない。それに帰ってこれるかどうかわからない戦いの前だからなのか、キラは素直に口を開いてしまった。

「今、だから言えない言葉もあるんだよ、ラクス。それに約束はしたんだ。話の続きをしようって。だから、大丈夫。今じゃなくても言える。」
「キラ…。」
「それに誰が欠けても君は悲しむから。そんなことはさせない。」

 弱気になってはいけない。オーブ軍での最前線はキラとアスランなのだ。自分たちを信じてついてきてくれる仲間を不安にさせるようなことは決してしてはいけないのだ。
 キラの決意を知ると、ラクスはぎゅっと目をつぶり、そしてゆっくりと開いてからキラを見つめた。先ほどと違って強いまなざしで。

「無理はなさらないでくださいね。」
「必ず帰ってくるよ。」

 ラクスと別れ、自らの乗り込む機体が置かれている場所へと急ぐ。そして、フリーダムを見つめて、気を引き締める。
 それから少しだけ遅れるようにアスランもその場所へとやってきた。

「す、すまない。」
「アスランも話終わった?」
「あぁ。」
「じゃあ行こう。」

 帰ってきたときにこの気持ちを伝えたら彼はどんな顔をするだろう。少しはうれしいと思ってくれるか。それとももう二度とこうして話しかけてくれないだろうか。
 けれど、きっと伝える。そのために帰ってこなくては行けない。
 今だから言えたかもしれない。戦争が終わったら忙しくて、そしていつでも言えるという甘えが出るかもしれない。
 けれど約束した。言わざるを得ない状況を作り出した。それは意図したものじゃないけれど。
 自分を奮い立たせるように、両頬を叩き、キラはフリーダムへと乗り込んだ。




******

 いつも恋心はアスラン→→→キラな感じなので、今回はキラからの片思い。アスランは全く気付いていないという状態です。けどアスラン以外の周りにはみんなばれているという鈍感アスラン。

2010年05月10日(月)



 残せるもの *

 密室に立ちこめる湯気。鳴り止まない音。
 かき出されたそれは排水溝へと流れていく。生命を、未来を繋いでいく一番最初のものは、未来に何も残さずに消えていく。

「あぁ。これは何人目だろう。」

 シャワーにかき消されるほどに小さな声で呟く。
 もし自分が女であったのなら、一体何人の子をこの身体に宿していたのか。けれどこの身体は子を宿すことはない。吐き出されたものはかき出され、消えていく。
 生産性の全くない行為だとわかっているのにそれに溺れる。
 少しでも一部を体内に残しておきたいと思うのに身体はそれを拒む。
 所詮、相容れないと誰かに言われている気がした。

「けど俺はキラのここ以外にそれを入れたいと思わないよ。」

 キラの秘孔に指を入れて中に放ったものをかき出していたアスランは、その指をまるで円をかくようにキラの中を広げた。

「んっ、ちょ…。」

 先程までぐちゃぐちゃになるほどにアスランのモノでかき回していたその場所は、簡単にアスランの指に従う。

「それともキラは誰かにそれを注ぎたいと思うのか?」
「それは…別に。」

 他の誰か、男でも女でも、アスラン以外とこういった行為をしたいという気は起きない。
 ただアスランにしてもキラにしても子供がいらないと思うわけではない。血を受け継ぎ、子をなして、そうして歴史は続いていくのだ。

「僕はカガリがいるからいいけど、アスランはその…兄弟いないんだし…。」

 彼の身内はもう誰もいない。もしかしたら遠い親戚はどこかにいるのかもしれないけれど、それを探す手がかりはない。

「別にザラの名前を残す気はないよ。だからキラが気にすることはない。」
 
 これはアスランが望んだ未来だとそう告げる。

「キラの両親には悪いと思うけど……カガリに二人産んで貰えばアスハもヤマトも無くなることはないだろうしな。」

 いない人のことを勝手に決めるのは良くないとは思うのだが、カガリなら二つ返事で了解するだろう。

「アスランはそれでいいの?」

 ゆっくりと振り向いてアスランの顔を見ると、笑っていた。後悔も悲しさも全くないというように。

「あぁ。よくも悪くもザラという名前はしばらく残るだろうしな。こんな思いをするのは俺だけで十分だろ。」

 戦争の英雄アスラン・ザラ。コーディネイターこそ優秀な人種だと唱えたパトリック・ザラ。どちらも崇拝も蔑まれることもされる立場だ。
 同じように戦争を生き抜き、尚且つ他のコーディネイターよりも優れているとされるキラだが、その名前も顔も世間に好評されてはいない。

「キラがいてキラの両親がいて、カガリがいてラクスがいて。…それだけで今は十分幸せだよ。それに子をなすだけが未来を作るというわけじゃない。俺達にしか出来ない他のこともたくさんある。そうだろ?」

 水が流れ込んでいる排水溝をじっと見つめる。シャワーから出るお湯は二人の身体を伝ってそこへと流れ込む。
 子をなすことは二人では無理だ。けれど世界をより良い方向へと変える努力なら出来る。

「そうだね。僕らじゃない他の子供達の為の未来なら作れるかもね。」

 もう二度と戦争なんて悲しいことを繰り返させない。殺しあうなんて悲しいことは自分たちの代だけで十分だ。
 自分たちの遺伝子は残らないけれど、意志は残せる。それは無駄なものではないはずだ。

「ほら、あんまりこんなとこいたらのぼせるだろ。」

 そう言われて引かれた手に素直に従った。


2010年05月09日(日)



 cat 〜Plum Tart〜 にょ

「むむむっんっ!」

 可愛らしい声が呻いている。それは気を張っているという声らしい。

「ど、どう?」
「もう少しだけ力を抜いても平気なんじゃないか?」

 そう話しかけると、表情は強ばったものからだんだんと穏やかなものへと変化する。

「平気?」

 おどおどした様子で少女は問いかける。

「あぁ、大丈夫だ。」

 そう答えてやると、嬉しそうに微笑んだ。
 怒っている顔も泣いている顔も可愛らしいが、やはり笑った顔が一番だなとアスランは思う。

「キラ。」

 名前を呼ぶとその身体が近付く。手を伸ばせば触れられるという距離から、簡単にキス出来そうな距離へと。

「何?」

 全ての仕種が可愛く見えるのは自分の頭がおかしいからだろうかとも思ったのだが、それを治したいとは思わない。彼女に夢中ならそれでいいのではないかと自分の中で割りきった。
 手をその細い腰に回してから、耳たぶを甘く噛む。するとキラは身体を振るわせ、丸い人間の耳は三角のぴんと尖ったふさふさしたものに変わった。

「にゃ、アスラ……。」

 彼女は人間と猫を掛け合わせた存在の為に、どちらの姿も不安定なのだ。だからこうして意識を少し反らしてやるだけで、すぐにどちらとも言えない形へと戻るのだった。

「せっかく、ちゃんと出来たのに……。」

 キラの声が沈んでいく。キラの身体は双子であるカガリとは違い人間の姿をずっと保っていることが出来なかった。いつも耳やら尻尾がはみ出しており、それを気にした様子であった。

「これくらいで変わってたら一人で外を歩けないだろ。」

 アスランの言葉にキラの尖った耳がぴくっと反応し、少しだけ垂れ下がる。
 そんな耳をアスランは優しく唇で挟み込んだ。

「だからキラがちゃんと人間の姿になれるようにいくらでも付き合うよ。もちろん、ちゃんとなれるようになっても離さないけどね。」

 そうして、柔らかな耳をふにふにと撫でた。
 この姿も好きだからもう少し見ていたいな、という心の声を飲み込みながら。



2010年05月04日(火)
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