「硝子の月」
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2002年06月09日(日) <首都へ> 瀬生曲

「――シオン」
 にっこりと笑い、妙にかわいらしい声で彼女は言った。
「私貴方にお願いがあるの」
「何だいハニーそいつらから助けてほしいのかいお安い御用さなに頼まれなくても僕はそうするつもり…」
「静かにしてちょうだい」
「おおハニー」
 言われたほうではとりあえず、息継ぎをすることは思い出したらしい。
「そんなにもかわいらしい君を見せつけておきながら、この僕にっ! この僕に君をたたえる言葉を封じてしまえなんて、あんまりむごい話じゃないか。そう、例えるならば君は…」
「『慈悲深き沈黙の月よ』…」
「そう、月に例えるのもよいね。……って、あれ?」
「『我、汝の静寂を愛し、願う者なり。我が求むる静寂を与えたまえ。――』」
「るる、ルウファ……?」
「『沈黙の檻』」
 少女が呪文の詠唱を終えると共に、一瞬だけシオンを何かが四角く取り囲んだように見えた。
「――! ――――!」
 彼の声はせず、ただぱくぱくと口を動かすのみである。
「ほ。随分優しいんだなお譲ちゃん」
 グレンが感心したように言った。
「俺はまたてっきり闇に葬るとかすんのかと思ったぜ」
「前に葬ったんだけど出てきたのよ」
「…………」
 一応冗談のつもりだったのだが、と青年は思う。少女の冷酷さと、闇から戻ってきたという青年のゴキブリを超えそうな生命力のどちらに重点を置いて驚いたものやら。


紗月 護 |MAILHomePage

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