「硝子の月」
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2002年06月04日(火) <首都へ> 朔也、瀬生曲

 大して多くもない荷物をまとめた。旅立ってから一つ目の街、時間とてそれほど過ぎたわけでもないのだが、やたら長くここにいたような気がする。
 まるで長い長い夜が明けたようだ。ひかりが眩しいような、心地良いような。
「ティオ、準備できたか?」
「ああ」
 答えて、軽い荷物を背負う。
「アニス」
 呼ぶと、家を出た日と同じようにアニスが舞い降りてきた。
「さて、それじゃあ」
「行きますか」
 グレンとルウファがこちらを見た。それを見返しながら、不思議な気分でティオが頷く。
「――行こう」
 アニスと2人きりだった自分が、今はこんな風に仲間と呼べるのだろう人間と一緒にいて。
 2人で行くはずだった旅立ちを、こうして誰かと分かちている。
(――妙な気分だな)
 くすぐったいような。
 笑い出したいような。
 ティオは歩き出した。本当の意味で、ここから旅立つために。
 そしてふと気付き、二人を見上げた。
「――何か、忘れてねえ?」

「ん? んん、そおだなぁ」
 グレンが微妙に視線を逸らす。
「忘れてもいいものだと思うわ」
 ルウファがさっさと歩き出したのを見て、ティオもそれが何かを思い出す。
「そうだな」
「ぴぃ」
「じゃ、全員一致ということで」
 そうして一行は宿を後にしたのだった。
 十五匹の猫達と至福の時を過ごした「忘れ物」が、元気いっぱいに一行に追いつくまで、彼等は実に快適な旅を過ごしたのだった。


紗月 護 |MAILHomePage

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