「硝子の月」
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数秒の後に、ティオは彼女の言わんとしていることに気付いた。 「なっ……!」 「なぁに?」 彼女――とついでにその後ろの青年――の笑顔は崩れない。 「……ったよ」 「ん?」 「…………」 同じ言葉を何度もは言いたくないが、はっきりとその耳に届くまで、彼女等はこの笑顔を浮かべているのだろう。物凄く嫌そうな顔をしながらも、少年はもう一度、今度は聞こえるぎりぎりまで声量を上げて繰り返した。 「……心配掛けて、悪かったよ」 「どう致しまして」 少女は満足気に笑い、青年はティオの頭をくしゃくしゃと撫でた。 「何すんだよオッサン!」 「照れるなって」 「照れてねぇ!」 思い切り怒鳴ってその手を振り払うと、元傷口であった場所が鈍く痛んだ。 「完治したわけじゃないんだから無理しないの。安静にしてるほうがいいってあのお婆さんも言ってたわ」 そういうことは先に言えとか半病人をからかうなとかいう台詞が喉まで出掛かったが、痛みに耐えるほうが重要だった。 二、三度大きく呼吸して息を整えると、痛みは引いていった。 「どうする?」 「今何時だ?」 ルウファの問いに、会話になっていないかのような問いで返す。 「これから朝食にしようかという時間よ。あなたが一番寝坊したの」 「行く」 少年は短く言った。 ――首都へ――『硝子の月』を探す旅へ―― 「「そうこなくちゃ」」 少女と青年の声が重なって聞こえた。
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