「硝子の月」
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「伝説だよ」 どこか遠くで声がする。 「『硝子の月』という、誰も正体を知らない伝説さ」 遥か彼方の記憶か、それとも今耳元で誰かが言っているのかすら判別出来ない。 「誰がその名を付けたのか。硝子なのか月なのか、わかりゃしないっていうのにねぇ」 それが年老いた女の声だということに気付く。 あの猫婆さんだろうか――いや、違う―― 「お前にもわかるまいよ、ルウファ」 呼ばれた名前の主は知っている。気の強い、赤い少女。 「わからないわ。わからないけど、いつか探しに行く」 そう応えた声は、知っているはずの声よりもずっと幼かった。 (……性格は同じだな) そんなことを思った。 「ねぇおばあちゃん」 声がこちらを向いた。 「おきゃくさまだわ」 確かに自分に向かってそう言っている。 老婆が笑う気配がした。 「いずれ会えるさ」
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