「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2002年05月27日(月) <伝説> 瀬生曲

「伝説だよ」
 どこか遠くで声がする。
「『硝子の月』という、誰も正体を知らない伝説さ」
 遥か彼方の記憶か、それとも今耳元で誰かが言っているのかすら判別出来ない。
「誰がその名を付けたのか。硝子なのか月なのか、わかりゃしないっていうのにねぇ」
 それが年老いた女の声だということに気付く。
 あの猫婆さんだろうか――いや、違う――
「お前にもわかるまいよ、ルウファ」
 呼ばれた名前の主は知っている。気の強い、赤い少女。
「わからないわ。わからないけど、いつか探しに行く」
 そう応えた声は、知っているはずの声よりもずっと幼かった。
(……性格は同じだな)
 そんなことを思った。
「ねぇおばあちゃん」
 声がこちら・・・を向いた。
「おきゃくさまだわ」
 確かに自分に向かってそう言っている。
 老婆が笑う気配がした。
「いずれ会えるさ」


紗月 護 |MAILHomePage

My追加