「硝子の月」
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2002年05月25日(土) <伝説> 瀬生曲

「遅かったの」
 老婆は一行を屋敷に中に招き入れた。
「少し準備に手間取りまして」
 ルウファが微笑して応えた。
「ここまで歩いてきたのかえ? 大した怪我じゃないんじゃないのかい?」
「意地を張っているだけです」
 無遠慮にティオを観察しつつの次の言葉にはそう応えた。
 実際、現在少年が自力で動いているのは気力によるところが大きい。「おぶってやろうか?」というグレンの申し出を即座に断って、油汗を流しながらここまで自分で歩いてきたのである。
「ふむ。まぁお座り」
「いい」
 短く断る。間違っても遠慮から来るものではない。一度止まってしまった為に、もう指一本動かす余力がないのである。今動けばまず間違いなく醜態をさらすことになるだろう。
「そうかい。それじゃとりあえず」
 老婆は棚から霧吹き香水瓶のようなものを取り出すと、唐突に彼に吹き掛けた。
「「ちょっ…!」」
 ふらりと倒れた少年の体を、ルウファとグレンが同時に支える。シオンが違うポイントで「ああ!」と叫んだのはさておいて。
「何するのよ!」
「なに、ちょいと眠らせただけさ。油汗だらだらで起きてられてもしょうがないからねぇ」
 きつい真紅の眼差しに、老婆は微笑して応じた。


紗月 護 |MAILHomePage

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