「硝子の月」
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「何やってんだよ、俺」 俯いて前髪をかき上げる。 「家を出たのだって、逃げたわけじゃないのに」 自分に言い聞かせるように呟く。そうしなければ自分の行動の総てを否定したい衝動に駆られる気がした。 「俺は」 呟く少年の横顔を、ルリハヤブサは静かに見詰める。 「逃げない」 その宣言は決して強くはなく、かと言って弱くもなかった。 「ピィ」 アニスに頬擦りされ、それでいいのだと言われているような気がした。 今した「逃げない」という選択を具体的に考えてみると、どうやら宿に戻らねばならないという結論に達する。 「……あいつ等まだ戻ってないといいけど。戻ってたらうるさそうだよな」 よもや既に一騒動あったとは思うまい。 「俺、探すよ」 「ぴぃ?」 「わけもわかんねぇまま命狙われてたまるか」 親友にその決意を打ち明ける。 「それは『硝子の月』を探すって意味に受け取っていいのかしら」 ルリハヤブサの代わりに少女の声が届いた。
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