「硝子の月」
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「そろそろ動いてもよい頃合なのではないか?」 玉座に座る老人が言を紡ぐ。 「小国侮り難しということを知らしめてやってもな」 その瞳には老いて尚衰えない輝きがある。その言葉に陰はなく、ただ純粋な自己顕示欲のようなものがあった。 「『硝子の月』のことを思うと気分が若やぐ。まるで今のそなたと同年代にまで若返ったようだ」 老王は笑いながら片目を閉じて見せた。 「陛下……」 足下に控える女戦士は幾つもの傷跡の残る顔に微苦笑を浮かべる。まったくこの方ときたら、と。 「ですが……確かにそうなのやもしれません」 女は先日のことを思い返す。 『第一王国』の首都の西のあの街で、彼(の少年が見せたのは『第三の力』。まだ未熟で自ら制御することもままならなかった。 「あの力が発動したということは、時が満ちつつあるということでしょう」 「ピィ」 主の言葉を肯定するように、漆黒のルリハヤブサが彼女の肩で鳴いた。 王は満足気に目を細める。
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