「硝子の月」
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2002年04月09日(火) <蠢動>瀬生曲

「そろそろ動いてもよい頃合なのではないか?」
 玉座に座る老人が言を紡ぐ。
「小国侮りがたしということを知らしめてやってもな」
 その瞳には老いて尚衰えない輝きがある。その言葉に陰はなく、ただ純粋な自己顕示欲のようなものがあった。
「『硝子の月』のことを思うと気分が若やぐ。まるで今のそなたと同年代にまで若返ったようだ」
 老王は笑いながら片目を閉じて見せた。
「陛下……」
 足下に控える女戦士は幾つもの傷跡の残る顔に微苦笑を浮かべる。まったくこの方ときたら、と。
「ですが……確かにそうなのやもしれません」
 女は先日のことを思い返す。
 『第一王国』の首都の西のあの街で、の少年が見せたのは『第三の力』。まだ未熟で自ら制御することもままならなかった。
「あの力が発動したということは、時が満ちつつあるということでしょう」
「ピィ」
 主の言葉を肯定するように、漆黒のルリハヤブサが彼女の肩で鳴いた。
 王は満足気に目を細める。


紗月 護 |MAILHomePage

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