「硝子の月」
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「ほう」 ほんの少し驚いたような声を漏らし、老婆はまた笑んだ。 「しかしそれは先を急ぐ理由にはならんね。あれは急いだから手に入れられるというものではない」 「承知しています。私は『先を急ぐ』とは一言も申し上げていませんわ」 相手によっては気を悪くしかねない言い回しにも、彼女はより目を細めただけだった。 「私の出した条件は『仲間の怪我を治していただくこと』。理由は…」 ルウファは小さな溜息を挟んで続ける。 「彼が自分のせいで足止めを喰らうことを気に病んでいるからです」 「ほう」 老婆がまた驚いたような声を漏らす。 「お嬢ちゃん、なかなか優しい子だね」 「よく言われます」 微妙な嫌味を笑顔で交わす。 「まぁ、私がじっとしているのは性に合わないというのも理由の一つではありますが」 けろりとしてそう付け足す。 (はてさて。今度は何割が本音かな) 二人の遣り取りを黙って聞きながら、グレンは一人でにやりと笑った。
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