「硝子の月」
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2002年04月03日(水) <蠢動>立氏 楓

 「ごごごごごごめんなさいっ!」
 くすんだ銀髪の少年が、どもりながら頭を下げていた。
 少年の前には痩身の男。必死に謝りつづけている少年とは対照的に、静かに佇んでいる。その双眸に怒りの色はない。
 「謝る必要はない。一筋縄では行かないということは元々解っていた事だ」
 「ででででも…」
 「『ツイン』。私が望んでいるのは情報だ」
 分厚い眼鏡の奥で、何かがざわりと蠢いた。
 「…ひどいなぁ。折角『彼』が一生懸命謝ってるのに」
 「何があった」
 少年は、皮肉げな笑みを浮かべながら肩をすくめる。
 「あーやだやだ、大人はせっかちなんだから」
 「…『ツイン』」
 若干の怒りを含んだ声音に、少年は諦めたように溜息をつく。
 「それが僕にもさあっぱり。仕留めようとした瞬間に、あいつの体が光で覆われたんだ。あれは魔法力でも科学力でもないね。多分、『第三の力』だと思うよ」
 「…何故そう言い切れる」
 「一、魔法力じゃ僕の虫のビームは防げない。ニ、科学力だとしても、あの短時間に何の準備もないあいつに、僕のビームを完全に防ぎ切るだけのバリア―を張る事は不可能。三、僕のビームを防げるバリアは存在しない」
 「…ふん、大した自身だな」
 揶揄交じりの微笑に、少年も同じもので応える。
 「事実だからね」
 次の瞬間、痩身の男の背後に羽音が浮かぶ。
 「で、ウォールラン、あんた僕に嘘をついたろ」
 少年の笑みは絶えない。
 「…何の事だ」
 痩身の男の表情は変わらない。しかし、声音が僅かに緊張していた。
 「あーやだやだ、大人は嘘つきなんだから」
 わざとらしく大袈裟に、少年は天を仰ぐ。
 「あんた、言ったよな?国王が或る貴重なルリハヤブヤを欲しがっているから、持ち主を殺してでも取って来いって。…まぁ欲しがってるっていうのは嘘じゃないんだろうけど。でも、只の『貴重なルリハヤブサ』じゃあないよね?」
 肯定を前提とした、問い。
 「…何が望みだ?」
 羽音が二重になる。
 「質問しているのはこっちだよ。ウォールラン。…でも、それちょっと興味あるかも」
 不意に考え込むような仕草で少年は首を傾げた。
 ぞっとするような笑みを刷いて、彼は呟く。
 「『何が望みだ?』硝子の月にあんたは何を求めているんだい?」
 
 






 


紗月 護 |MAILHomePage

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