「硝子の月」
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「ごごごごごごめんなさいっ!」 くすんだ銀髪の少年が、どもりながら頭を下げていた。 少年の前には痩身の男。必死に謝りつづけている少年とは対照的に、静かに佇んでいる。その双眸に怒りの色はない。 「謝る必要はない。一筋縄では行かないということは元々解っていた事だ」 「ででででも…」 「『ツイン』。私が望んでいるのは情報だ」 分厚い眼鏡の奥で、何かがざわりと蠢いた。 「…ひどいなぁ。折角『彼』が一生懸命謝ってるのに」 「何があった」 少年は、皮肉げな笑みを浮かべながら肩をすくめる。 「あーやだやだ、大人はせっかちなんだから」 「…『ツイン』」 若干の怒りを含んだ声音に、少年は諦めたように溜息をつく。 「それが僕にもさあっぱり。仕留めようとした瞬間に、あいつの体が光で覆われたんだ。あれは魔法力でも科学力でもないね。多分、『第三の力』だと思うよ」 「…何故そう言い切れる」 「一、魔法力じゃ僕の虫のビームは防げない。ニ、科学力だとしても、あの短時間に何の準備もないあいつに、僕のビームを完全に防ぎ切るだけのバリア―を張る事は不可能。三、僕のビームを防げるバリアは存在しない」 「…ふん、大した自身だな」 揶揄交じりの微笑に、少年も同じもので応える。 「事実だからね」 次の瞬間、痩身の男の背後に羽音が浮かぶ。 「で、ウォールラン、あんた僕に嘘をついたろ」 少年の笑みは絶えない。 「…何の事だ」 痩身の男の表情は変わらない。しかし、声音が僅かに緊張していた。 「あーやだやだ、大人は嘘つきなんだから」 わざとらしく大袈裟に、少年は天を仰ぐ。 「あんた、言ったよな?国王が或る貴重なルリハヤブヤを欲しがっているから、持ち主を殺してでも取って来いって。…まぁ欲しがってるっていうのは嘘じゃないんだろうけど。でも、只の『貴重なルリハヤブサ』じゃあないよね?」 肯定を前提とした、問い。 「…何が望みだ?」 羽音が二重になる。 「質問しているのはこっちだよ。ウォールラン。…でも、それちょっと興味あるかも」 不意に考え込むような仕草で少年は首を傾げた。 ぞっとするような笑みを刷いて、彼は呟く。 「『何が望みだ?』硝子の月にあんたは何を求めているんだい?」
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