「硝子の月」
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「それで、話っていうのは?」 「貴女のお噂を伺いました」 「ほう」 老婆の瞳に何かを楽しむ色が浮かぶ。 「かつては『叡智の殿堂』におられたとか」 唐突に出てきた単語にグレンは目を丸くした。『叡智の殿堂』の話は『硝子の月』程ではないにしても半ば伝説化した有名な話である。 世界のどこかに存在するという、世界の総ての知識の集う所。知識を司るその殿堂の一族を統べるのは、美しい女だという。 しかし、殿堂の一族が『叡智の殿堂』を出たという話は聞いたことがない。 「どこでその話を? この町の連中は知らないはずだがね」 「噂で、としか申し上げられません」 少女はいたずらに微笑する。老婆も目を細めた。
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