「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2002年03月30日(土) <始動> 瀬生曲

「それで、話っていうのは?」
「貴女のお噂を伺いました」
「ほう」
 老婆の瞳に何かを楽しむ色が浮かぶ。
「かつては『叡智の殿堂』におられたとか」
 唐突に出てきた単語にグレンは目を丸くした。『叡智の殿堂』の話は『硝子の月』程ではないにしても半ば伝説化した有名な話である。
 世界のどこかに存在するという、世界の総ての知識の集う所。知識を司るその殿堂の一族を統べるのは、美しい女だという。
 しかし、殿堂の一族が『叡智の殿堂』を出たという話は聞いたことがない。
「どこでその話を? この町の連中は知らないはずだがね」
「噂で、としか申し上げられません」
 少女はいたずらに微笑する。老婆も目を細めた。


紗月 護 |MAILHomePage

My追加