「硝子の月」
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「……あ。ルウファだ」 「なにっ!!? ルウファ、どこだい僕の仔猫ちゃんっ!!」 腹が立ったので適当に明後日の方向を示すと、シオンは宿の窓にへばりついてきょろきょろ辺りを見回した。……これでこそシオンだと思わないでもない。 思えばこいつも正体不明だよな、と首をかしげる。わけがわからないという点では即興パーティー随一だが。 「さて、行くかアニス」 「ピィ」 当然のことながらティオは彼など待たず、とっとと宿を後にする。
「ええいっ、僕の愛しいルウファv がどこにいると言うんだ――あれ?」 10分後、ようやくシオンが振り返ったとき、そこにいたのは困り顔の宿の主人だけだった。
「―――……」 一方ティオは、宿を離れ件の噴水の前に立っていた。もっとも噴水など跡形もなく破壊され、今は石の残骸がそこに残っているだけだが。 あの少年のこと。傷のこと。機械の『虫』のこと。……あの爆発のこと。様々なことが頭を過ぎる。答えの出ないことばかり。 身寄りひとつもないティオをわざわざ殺そうとする理由とはなんだろう。誰か、それをあの少年に頼んだ人間がいる。 そして、あの爆発。 ティオは自分の手のひらを見下ろした。……あの瞬間の奇妙な感覚を思い出す。 身を灼くような、それでいて寒気のするような、満ち足りながら飢えにも似た何かが全身を支配したあの瞬間。
――子供だよ。自分の状態も周りの状況もわきまえずに勝手に行動しようとする。大人のすることじゃない。
認めるのは癪だが、あの青年(の言う通りかもしれない。確かに自分は子供だ。 それが歯がゆくてならない。……そう、思う。
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