「硝子の月」
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2002年03月05日(火) <始動> 朔也、瀬生曲

 グレンとルウファは一瞬ちらりと顔を見合わせ、それぞれに答えた。
「ああ。帰ってきたらな」
「大丈夫大丈夫。ほっとけばその内目ぇ覚ますから」
「おいっっ」
 それが問題なんだろと突っ込もうとすると、ルウファがちっちっちと人差し指を振る。
「わかってないわねティオ」
「……ナニが」
「ゴミの日は明日なのよ」
「不法投棄してこいっ!」
「それに触るのヤだし?」
「そっちがメインか!!」
 思わず叫んだが、二人は素早くドアを開けて向こうから手など振ってくる。
「というわけで、あたしたち出かけるから。安静にしててね?」
「こいつ付きでか!?」
「幸運を祈る」
「祈らんでいいッ!!」
 グレンに枕を投げつけたが、素早く閉じられたドアにぶつかってあっさりと落ちた。それと同時、激しく痛んだ傷口を抑えて沈没する。
「――――っ、くそォ……」
「……ピィ」
 ぶつけどころの無いうめき声を上げるティオを、ルリハヤブサがただ心配そうに見詰めていた。

「……しかし、大丈夫かね。アイツ」
 グレンは振り返り、多少気遣わしげにドアの向こうを見遣った。透かして見えるわけでもないのだが、何となく意固地な様子の少年が気になる。
 少し離れて様子を見たほうがいいだろうと思ったのだが、放っておくのもどうか。
「お人好しねぇ、アナタ」
 ルウファはちらりと笑い、肩をすくめた。
「大丈夫でしょ。いくらあの馬鹿シオンでも、あのコの面倒くらい見られるわよ」
 怪我人を一人残していくよりはマシな筈だ。……多分。
「…………」
「…………」
「……ホントにそう思うか?」
「…………」
「……にゃ?」
 やっぱしちょっと失敗したかなーなどと思いつつ。
 不思議そうに見上げてくる仔猫を抱え、二人は黙々と歩き出した。

「さて、どうするかな」
 グレンがそう呟いたのは独り言だった。
「何が?」
 しかし当然隣を歩く少女からの問い返しがある。別に話して困ることではないし、むしろ話すべきことである。
「これからさ。あいつは当分動けなさそうだし、かと言ってずっとここにいても仕方がない」
「そうねぇ」
「お嬢ちゃん、魔法が使えるんだろ? 何とかならないのか?」
「なるんだったらとっくにやってるわよ」
 返ってきたのは至極当然のことで「そうだよなぁ」と呟く。
「回復系の魔法はあんまり相性がよくないの。出来ないことはないけど、今度はあたしが寝込むことになるかもね」


紗月 護 |MAILHomePage

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