「硝子の月」
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「……何で、窓から入って来たんだよ。二階だぞ、ここ」 しばらくの沈黙の後、少年はそんなことを訊いてみる。 「そこに木があるだろ?」 青年の指差した窓の外には確かに立派な木があった。 「久しぶりに木登りしたくなったんだよ」 「馬鹿じゃねぇの?」 返した言葉はほとんど反射的なもの。考えるより先に口が動く。 「まぁな」 別段怒りもせずに、青年またティオの頭を軽く叩いた。叩かれたほうではどう反応したものやら戸惑う。 「お待たせ。あら、おかえりなさい」 だからその時赤い髪の少女が戻ってきてくれたのは正直言って助かった。 「ただいま」 「林檎? 随分買ってきたのね。でもお粥が先よ」 彼女は粥の乗ったお盆をティオの膝の上に置いて「起きて平気なの?」と問い、少年は黙って頷く。 「そりゃそうか。じゃ、後でな」 『お粥が先よ』に応えたグレンは転がった林檎を紙袋に戻す。 「あたしにも剥いてねv」 「俺が剥くのか?」 「だって器用そうだし♪」 さも当然と言わんばかりに少女が微笑んだ。彼は「しかたねぇな」とあっさり呟く。やはり面倒見がいい。 「……いつ出発するんだ?」 持ってきてもらったお粥を自分で口に運びながら、ティオはそう尋ねる。
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