「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2002年01月22日(火) <成り行き> 瀬生曲 朔也

 黒い髪が一筋宙に舞った。
 それをした物体は後方に飛び去った。
「何しやがる!」
 ティオは目の前の少年の襟首を掴み上げた。拍子抜けするほどあっさりと彼は捕まえられた。
「ごめんなさい!」
「てめぇいったい…」
 全てを言い切るよりも早く、ティオは背後から先程と同じ殺気を感じる。
 舌打ちをして体を反転させ、少年を盾にする。
  ヒゥン…
 少年に激突する直前、高い羽音のようなものを立ててそれは止まった。
「何だ……こりゃ……」
 それは銀色の機械だった。

「その、すみません、ごめんなさい――撃て!」
「!」
 バシュウ!
 ひたすら謝りながら少年が命じると同時、宙に浮いたその奇妙な機械から白い光が放たれた。盾にした少年の首のすぐ横をすり抜け、咄嗟に身体をひねったティオの腕をそれでもつよく掠める。
「――ッ!!」
 少年を突き放して飛び退く。じんじんと痺れたように痛む腕に触れれば、服の袖が炭化して皮膚が火傷で引きつれていた。
「お前、一体……」
「ああっ、ええと、すみませんすみません痛いですよねごめんなさい。
 あのでも僕、どぉーしても君にお願いがあって」
 銀色の機械を従えた少年は、おたつきながらこちらを見つめている。それはほんの小さな機械であり、まるで羽虫のように金属の羽を動かして宙を飛んでいた。
 ……機械、などというものを見たのはティオも初めてだった。何故こんなものをこんな少年が持っているのかはわからないが――それよりも。
「おねがい――って態度かコレが」
 ぼそりと呟くと、少年はびくぅっと大きく肩を揺らした。
「ええっ!? ややや、やっぱり怒ってますかっ!?」
「これで怒らん奴がいたら連れて来いっ!!」
「ごごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!
 それで僕の要求はですねぇっ!!」
 強気なのか弱気なのかよくわからない、下手な強盗のような台詞と共に銀髪の少年は大きく息を吸う。


紗月 護 |MAILHomePage

My追加