「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2001年09月20日(木) <旅立ち> 瀬生曲×2

「ああ、もうっ! わかったよ!」
 真横に差し出した腕にルリハヤブサが止まる。
「出て行くんだからいいだろ! 世話んなったなクソババァ!」
 悪態を投げつけて、少年は居心地の悪い家を後にした。


 少年――ティオ・ホージュには両親がいない。物心ついた時には既に今の家にいた。彼を育ててくれたのは父親の弟夫婦だった。
「仕方が無いからな」
 それが彼等の口癖だった。無理もないと言えば無理もないのだろうが。彼等には子供が三人いて、生活は楽ではなかったのだから。兄の子供を自分の子供と同じように扱うだけの余裕は金銭的にも経済的にもなかった。
 おまけに、その子供はルリハヤブサまで連れているのだから。
 ティオにすれば居心地が悪いのは当然である。いつか出ていってやるのだと常々思っていた。
「お前が売られちまわなかっただけ、まぁ感謝しといてやるよ」
 頬に顔を摺り寄せられて微笑する。
 この一羽のルリハヤブサと自分、それとわずかばかりの金と今身に着けている粗末な服と外套マント。それだけが彼の持つ総てだった。


紗月 護 |MAILHomePage

My追加