★ 夏海の日記 ★

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2002年01月15日(火) 新聞から 〜 気分障害 〜 その2 うつ病

昨日は 『躁うつ病』について、転写しました。
では、今日は 引き続いて新聞からの転写で、『うつ病』についてです。

☆☆☆☆☆ ヨーコ先生の 精神科入門 (精神科医、エッセイスト 斉藤 陽子)☆☆☆☆☆

昨日に引き続き 大きなテーマは、『気分障害』です。


4.うつ病の身体症状は多彩
 気分障害のうち双極性障害の症状については既にお話ししました。今回からは短極性障害いわゆる『うつ病』について触れていきます。今や国民病と言われるほど多く見られるうつ病ですが、世界的にも同じ事が言えます。時には心の風邪と表現されるほど発病率が高い一方で、適切な治療をしないと自殺という最悪の結果を招くことにもなる病気でもあります。気の持ちようで何とかなる話ではないことを、ぜひ理解して欲しいと思います。
 うつ病は、その名の通り抑うつ気分、そして意欲・食欲等が低下し、本来の趣味にも無関心になったり、食事も「まるで砂をかむようだ」と表現する人もいたりします。日頃の習慣、例えば新聞を読むなどの行為がおっくうになります。気分は日内変動といって朝方悪いのに夕方には比較的楽になるという特徴があります。もともと責任感が強く真面目な人が多いのですが、必要以上に自分を責めるようになり、それは妄想の域に達します。無関係な事柄でも、うまくいかないのは自分のせいだと思い込み、ますます落ち込むという悪循環にはまるのです。
 思考もスムーズに進まなくなるため、行動面も明らかに動きが減ってしまいます。朝3時や4時に目覚めてしまうといった睡眠障害もよく見られます。全身倦(けん)怠感、頭痛、便秘、胃部不快など、多彩な身体症状が出るのが大きな特徴で、まず内科を訪れる人は実に多いんですね。諸検査で異常がないにもかかわらず、いやそんなはずはないと訴え続けるのです。
 このように内科医師から精神科に紹介されるケースは多いのですが、体調不良なのに異常が見付からないという時、うつ病が考えると言うことを知っておいて下さい。

5.うつ病は薬物療法が必要
 うつ病の罹(り)患率の高さは風邪のようだといえる反面、慢性化しやすいことや死につながる危険性を考えると、心の風邪ではとうてい済まされません。3年前から国内の自殺者は年間3万人を越え、うつ病を発症していたと思われる40、50代はそのうち半数近くを占めると言われています。
 うつ病になりやすい人は真面目で几帳面なため、うつ状態を病気ではなく精神が弱いからだと自分を責め、辛さを見せまいとします。ですから周りにも気付かれにくい。しかし、決して気持ちの問題などではなく、薬物により積極な治療が必要な病気なのです。その理由を説明します。
 私たちの脳には、千億もの神経があります。細胞体から神経線維が伸び、末端は手足のような樹状突起となっており、他の神経と連結して情報のネットワークを形成しています。その連結部分は直接接触していないんです。隙間があるんですね。一体そこをどんな方法で情報が流れていくんでしょうか。
 神経線維内は電気信号として伝わります。それが末端に来ると科学的な伝達に変換されるのです。神経と神経の隙間に放出される神経伝達物質がその役目を果たします。種類はさまざまですが、うつ病の際にはセロトニンとノルアドレナリンの放出が減少しているというわけです。
 その原因についてはよく分かっていません。しかし、変化が起きてしまった神経の系列に働きかけ、神経伝達物質の調整を図ることは可能です。それが、抗うつ剤による治療ということになします。
 うつ病は、脳の中の化学物質のバランスが崩れる、れっきとした病気なのです。休養のみならず、薬物療法は不可欠と言うことを忘れないで下さい。

6.うつ病の薬は開発も進む
 うつの時には、セロトニンやノルアドレナリンという神経部伝達物質が不足したり、働きが悪くなったりしているため、その改善にはほかの身体疾患同様、薬物療法が欠かせません。適切な治療を行えば、多くの場合3〜6ヶ月で症状はなくなります。
 罹(り)病率の高いうつ病は、躁(そう)うつ病に比べて、薬の開発も進んでいます。数年前までは、三環系、四環系と呼ばれる抗うつ薬が主体でした。化学構造上、亀の甲の形をした環の数によって付けられた名前ですが、三環系は、抗鬱効果は優れているものの、抗コリン作用といわれる口の渇き、便秘、排尿困難や、眠気、体重増加、めまいなど、副作用の多いことが難点でした。
 これらは標的とする場所以外の神経系に薬が作用してしまうために起こります。
 他方、四環系は副作用は軽減された代わりに抗うつ効果はやや劣るというものでした。
 そんな中、相次いで登場した薬があります。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)。これは、セロトニン系の神経系にのみ働きかけるもの。
 そして、選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)。これも名称通り、2つの神経系にのみ作用します。いずれも効果は十分、なおかつ副作用は少ないため、服薬を中断するケースが減り、治療効果が高まるといえます。
どの薬が良いかは、個人差があるため明言は出来ませんが、理想的な薬剤の登場で選択肢が広がったことは革命的でもあります。
うつになったら休養を取り、薬物療法を、そして再発予防に精神療法も重要です。なにはともあれ、専門医を受診してみて下さい。

7.難治性うつ病の対策
 うつ病の治療には、休養、薬物療法、再発予防の為の精神療法が欠かせません。薬物療法では、最近登場したSSRI、SNRIが今後いっそう治療効果を高めることになりそうだと、先週お話ししました。
 抗うつ薬に即効性はなく、服用を始めて1,2週間で効果が現れます。継続すると3〜6ヶ月で症状が改善されるのが一般的です。効果発現までの時間、症状がなくなるまでの期間は、いずれも個人差があることをお忘れなく。
 うつ病で最も注意したいのは、自殺です。自殺の危険性が高い場合、抗うつ薬に即効性が期待できないと、どうすれば良いのでしょうか。あるいは身体的理由で服薬治療が困難なケース、さらに長期にわたる薬物療法にも効果がない難治性うつ病の場合の対策は。
 うつ病の治療における最後の切り札。それは電気けいれん療法です。左右のこめかみに電極を当て、100ボルトの電流を5秒ほど通電すると、強直間代発作と呼ばれるけいれん発作が起きるのです。一週間前後続けるうち、目に見えて うつが改善されていくのが分かります。
 人為的に大きな発作を誘発するこの治療法は、前述したように必要とされるケースがあること、また今日では全身麻酔を使って、けいれんを起こさない方法(無けいれん療法)も選択できることで、切り札としての地位は健在です。
 ただ、電気けいれん療法を乱用していた歴史があったことも忘れてはなりません。
 どんな医療法も、最善の選択として適切に行われるからこそ治療であって、いったん誤るとそれは毒と化し、あるいは犯罪、違法行為となってしまいます。重い歴史を背負う精神科医療の未来が明るいものであることを願っています。


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