moonshine  エミ




2003年06月17日(火)  存分に起伏

 寝覚めなど良いはずもなく、鏡を覗くと案の定まぶたがぶっくり腫れている。
 ゆうべは散々テルに泣かされた。
 いったいこれまで、何度彼に泣かされたことか。

『幻の光』(宮本輝 新潮文庫)
 よせよ、泣くぞ、どうせ。
 と思いながら先日、買ってしまっていた本。
 やめとけよ、ひどいぞ、明日の朝の顔。
 と思いはしたけど、読み始めてしまった。
 短編集。表題の「幻の光」を読む。

『夢見通りの人々』(宮本輝 新潮文庫)の次に、こんなに泣いたよ。
 自分と三ヶ月の子供を置いて、線路に入って自殺した夫。
 その原因ははっきりとは語られない。
 どうしようもなく悲しい。
 「夢見通り」にしろ、「錦繍」にしろ「蛍川」にしろ、宮本輝の描く悲しみは、悲しい出来事、とか悲しい人生、とかいうのではなく、大げさな言葉だけれど「悲しい宿命」のような気がする。
 どこか歯車が狂い続けているような、小さいけれど必要なねじを忘れて生まれてきたようなそんな人生、
 努力とか、一生懸命とかではどうにもならないような悲しみ、がんばってもがんばっても埋められないことがあるという恐ろしさ、そんなことを感じる。
 もちろん「それでも生きていく」というのが宮本輝の小説の主題になっていると思うし、じゃないとさすがに読めないよね。
 昨夜の短編だって、あれほど悲しいものでありながら、光。幻ではあっても、光なのですから。

 読みながら泣き、読み終わって「もう寝よう、もう」と思って電気を消して目をつぶっても、また涙が出てきてかなわなかった。
 こんなに共感してる自分が妙に悲しかった。
 誰にでも「泣きどころ」というのがあるだろう。感動して涙が出てくるということはまあよくあるにしても、「これはひとごととは思えない!」というような感情移入をさせるものが、どれだけあるだろう。
 たとえば「戦場のピアニスト」を見れば私も泣くだろうが、私は幸運にも戦争を体験していないので、映画が終わってまでえんえんと泣き続けるということはないだろう。エンドロールが終わったら、涙を拭いて同席した友達に向かって「てへへ」と照れ笑いして気持ちを切り替えることができるはずだ。
 でも、宮本輝の小説は違う、泣きながらすごくいろんなことが思い浮かぶ。自分の周りのことが。登場人物は、すぐに自分の周囲に置き換えることができる。どうか愛する人たちが、あんな悲しい思いをしませんように、と私は強く願う。けれど一方で、いつか必ずあの悲しみを通る、とも思うのだ。だってこれまでもそうだったじゃないか、と。

 もちろんそれには涙が呼び入れた一種の激しい思い込みも混じっているのだけれど、そうまで思いつめるほど入れ込んで読んでしまうのは、やはり私の中に、宮本輝の描く悲しみを頭じゃなくて体で感じてしまうような要素があるからだと思う。私の「泣きどころ」が反応しているんだもん。

 人生が変わってしまうような大きな失恋をした人、戦争で家族を亡くした人、身近に身体の不自由な人がいる人、犯罪を犯してしまった人、それぞれ泣きどころは違うだろう。
 私が宮本輝のほかに「これはひとごとじゃないナミダ」にくれた本はほかに、『忍ぶ川』(三浦哲郎)、『駆ける少年』『帰れぬ人々』(鷺沢萠)、そして『キッチン』(吉本ばなな)もそうだった。泣いたり感動したり、っていうのはよくあるけど、打ちのめされるような気分にすらなって大泣きする本はそれほどない。ああ、こうして挙げてみると、見事に私の「泣きどころ」が浮かび上がってくる。しみったれてるなあ。暗い。つまり生活に余裕がないのよね、生まれてこのかた。

 いや、生活人ですから、だいじょぶ、です。
 泣いちゃう夜もあるだけ。
 むしろ泣きたい夜なのかも。わーっと笑うのと同じように、わーっと泣くのも、かえって健康的のような気がしなくもない。 

 今夜は軽めの本を読みながら寝ましょう。

 そうだー今日も『大奥』を見た。
 基本的にノリは昼ドラで筋も脚本もわざとらしいんだけど、
 家定のセリフにはぐっときたね。

「(徳川幕府の将軍という名の飾り物として生きている自分をたとえて)
 手水鉢の亀にも、できることはある。
 それはそこに居続けると言うことだ」
 
 うまい! これには説得力あったね。
 やっぱり、北村一輝といういい役者には、自然といいセリフを書いてしまうものなんですかね、脚本家も。
 菅野美穂(御台所)も、この際、青二才っぽい原田龍二なんかとっととうっちゃって、北村一輝(将軍)とねんごろにすればいいのに。(ていうか・・・あの二人って・・まだプラトニックなのか既に契ったのかよくわかんないんだけど、どっちだ?!)





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