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2003年11月28日(金) Word Labo��

冴子:みなさんこんばんは。今日も言葉の不思議を科学する「Word Laboratory(通称Word Labo)」の時間がやってきました。

安藤教授:ウホッウホッ……

冴子:……教授?

安藤教授:ウホッ……っと、あんまり久しぶりの登場なんで自分が人間であることを忘れていたわい。

冴子:……ふぅ。

安藤教授:まあ、冗談はさておき、この超人気番組も、今年の3月を最後にワシの研究のために、しばらく充電期間をおいておったというわけじゃ。その間、局には再開を待ち望むたくさんの視聴者の声が届いておったらしいの。ありがたいことじゃ。この場を借りて視聴者のみなさんにお礼申し上げる。

冴子:それでは、視聴者の声をいくつか紹介しましょう。(そう言ってハガキを読み上げる)

「冴子さんが見られなくなるなんて耐えられません。あのジジイには永遠に充電していてもらって、「冴子アナのWord Laboratory」という番組名でスタートしてはいかがですか?」(27歳男性、会社員)

「いつも番組を楽しく見せていただいています。このたび番組が一時期充電期間に入るとか? 安藤教授には申し訳ないですが、番組にとっていてもいなくてもどうでもいい人の充電なんか無視して、継続放送(もちろん冴子アナは出演してください!)をお願いします」(36歳女性、主婦)

「安藤教授の言動には、同じ世代に属するものとして耐え難いものがあった。今回充電と称している実質上の降板となったわけだが、冴子嬢の理知的な司会進行によるこの魅力的な番組が失われるのは真に大きな損失。ぜひとも早期の冴子嬢を中心とした番組再編を心待ちにしておる」(67歳男性、元会社役員)

「ジジイうぜえよ。早くいなくなれよっ! 冴子L・O・V・E」(15歳男性、中学生)

安藤教授:…………(茫然自失した表情でスタジオの隅にふらふらと向かっていき崩れ落ちるように膝をつく)。

冴子:(スタジオ脇の教授に駆け寄り肩に手を置く)きょ、教授。これは教授への愛情の裏返しじゃないですか。熱烈なファンが早く教授に戻ってほしくて、あえて逆に書いているんですよ。ほ、ほら、好きな子をなぜかいじめてしまうみたいな。

安藤教授:…………

冴子:教授がいないと、この番組ははじまらないじゃないですか、ほら、早く立ってください。

安藤教授:……そうかのう。

冴子:そうですよ。

安藤教授:冴子君。君はいいよな。なんだかかなり熱烈なファンが多そうじゃないか。

冴子:いえいえ、そんなことはないですよ。私なんてまだまだ……(そう言いながらカメラ目線でスマイル)。

安藤教授:ま、ワシだって大学では講義もとても人気があって、たくさんの学生に囲まれているしのう。

(安藤教授、大学での自分の講義のことを思い浮かべる)

 ぽわぽわぽわぽわ……

(満員の講義室。たくさんの学生たちが座っている。しかし、そのほとんどは眠っているかお喋りをしている……それがいまの大学生の姿なのかもしれない。講義の後半、自分が出ている「Word Labo」のビデオを流す時間になると、学生たちが急に起き出し、私語も収まる。)

(講義終了後、たくさんの学生たちが安藤教授を取り囲んでいる)

「ねえ教授。冴子アナウンサーって、実際はどんな人なんですか?」
「冴子アナウンサーって、やっぱり実物はもっときれいなんですか?」
「冴子アナウンサーって……」
「冴子……」

(回想おわり)

安藤教授:…………うう。

冴子:教授? どうしたんですか? 気分でも悪いのですか?

安藤教授:冴子君はやさしいのう。そんなところも人気の秘訣かもしれんな……ま、今日もぼちぼちはじめるとするかのう。

冴子:へんな教授ですね。

安藤教授:さて、今日の「Word Labo」のテーマは効果的なメールの作り方じゃ。最近、携帯電話やパソコンなどでメールのやり取りがますます増えておる。特に若年層の携帯電話への依存度はますます高くなり、意味もなく画面を見てはメールの着信を確かめたりしている者も多いという。もちろん、メールは便利なものだし、過度な依存にさえならなければ非常に便利なものじゃ。そして、メールはやっぱりコミュニケーションの手段であるから、より効果的な、気持ちや用件の伝わりやすいメールを書く努力をしなければならん。そのために今日は「Word Labo」流のメールのテクニックを視聴者の方々にお伝えしようというわけじゃ。

冴子:若者たちの中にはたいした用件でもない、意味もないメールを送りあっているケースもあると聞きますが。

安藤教授:確かにそうじゃ。内容よりもメールの回数を重ねることに意味を見出しているわけじゃな。まあ、友達づきあいのなかで、メールをとりあえず送りあうことが友情を確かめるしるしのひとつになっているというのはちょっと考えさせられるものがあるのう。ワシが若かった頃は、密林の中でともに敵兵から逃げ惑い、隙を見て逆襲することで生まれた強い友情があったものじゃが……

冴子:ギリギリの友情ですね……ええと、話を戻しますが「いまからゴハン」とか、「宿題ウザイ」とか、そういう一言のメールを夜中何人ものと送りあっているわけですね。

安藤教授:なんじゃ、話を戻すのか。戦地での激闘の日々について語りたかったのにのう。まあ、そうじゃ。メールの回数が友情をはかるバロメーターというのは、ちょっとどうかとも思うが、ただ友達や恋人との接点を増やして生きたいというのが人の常だとしたら、それもまたわからないことでもないかのう。

冴子:(今日の教授はなんだか元気がないわね……やっぱり、最初のアレが効いているのかしら)

安藤教授:ま、それはおいておいて、今日の「Word Labo」では、気持ちや用件を伝えるコミュニケーションツールとしてのメールのテクニックをお伝えしようと思っておる。自分のメールが相手にうまく伝わらないというアナタはぜひチェックしておくべきじゃな。

冴子:それでは、CMの後を楽しみにしていてください。

   ―――CM中―――

安藤教授:なあ冴子君、ワシってそんなに人気がないのかのう。

冴子:そ、そんなことないですよ教授。元気出してくださいよ。一部に熱狂的なファンがいるじゃないですか。

安藤教授:そうか。ええと、渋谷の女子高生とかかのう?

冴子:ええと、ええと……す、巣鴨の商店街のみなさんとか……(教授と目を合わせられない)

アシスタント・ディレクター:CM終わりまーす。

   ―――CM終了―――

(安藤教授がうつむいて憔悴している)

冴子:ええと、効果的なメールのテクニックですね。まずはこのフリップをご覧ください。ほら、教授。

安藤教授:あ、ええと、そうじゃったな。効果的なメールのテクニックじゃ。まずは、このメールの文章を読んでみるとしましょう。


 件名:今日はありがとう!!!

 本文
 今日は楽しかった!
 敦君と一緒に映画を見に行けてすごく嬉しかった!
 前から観たかった『フレディVSジェイソン』! すごくよかったよね!
 あのフレディのせつなさとジェイソンのポーカーフェイスにどきどきしっぱなしだった!
 その後でお昼を食べた名曲喫茶もとても落ち着いた雰囲気でよかったよね!
 アメ横でのウインドウショッピングもすごく楽しかった!
 世界の都市名の書いてあるTシャツとか、すごく気になる!
 門限が17時だからそこでデートが終わっちゃったけど、また誘ってね!
 今日は楽しかったよ! ありがとう!!


冴子:……ええと、力の入ったメールですね。

安藤教授:これは駄目な例じゃあああぁいっ!!(なぜかCM終了後に目の前に置かれていたちゃぶ台をひっくり返しながら教授が叫ぶ)

冴子:ええと、どの辺がだめなのでしょうか?

安藤教授:感嘆符が多すぎるんじゃああぁいっ!!(教授。自分のひっくり返したちゃぶ台に向かってダイブする。木の割れる激しい音が響く)

冴子:なるほど。感情を表現する感嘆符なども、あんまり多用しすぎると逆に平面的な感情しか伝えられないというわけですね。むしろ、感嘆符を使わずに驚きや喜びを表現することで、相手の心のひだに深く刻み込まれるということになるんですね。なるほど。

安藤教授:(壊れたちゃぶ台から立ち上がりながら)そうじゃ、冴子君の言う通りじゃ。

冴子:それでは次のメールを見てみましょう。

 件名:クールなナイトにブギウギ

 本文
 明日のパーティのプロミスをコミュニケーション。
 SHIBUYAの8-Ko前にスタンダップ。
 21 o’clock OK? Wow。
 8-Koにまたがっている俺So Cool?
 Non Non ジェントルマンな俺 So Cute?
 Long Night Sweet Night
 タノシミニシテル

冴子:……

安藤教授:これも駄目な例じゃあああぁいっ!!(なぜか教授の目の前に用意されているプールに飛び込む。飛び散る水飛沫。足をつっておぼれかける教授)

冴子:ええと、どの辺がだめなんでしょうか?

安藤教授:意味のない言葉が多すぎるんじゃああぁいっ!! (プールの中から救いを求めるように左手を上げながら)

冴子:なるほど。専門用語や独自の使い回しの言葉はできるだけ避けて、平易なわかりやすい内容にすることを心がけるべきだというわけですね。こだわりのある単語などはむしろ独りよがりになる傾向が強く、コミュニケーションツールとしてのメールには適さないということなんですね。

(プールでは教授が半分溺れており、スタッフが慌てて引き上げている。水をたくさん飲んで、青白くなっている)

安藤教授:(プールサイドで水を吐き出しながら)……そ、そうじゃ、冴子君の言う通りじゃ。

冴子:それでは、最後のメールを見てみましょう。

 件名:君の一日

 本文
 7:00 いつもの駅から通勤。
 8:00 会社に到着
 11:30 クレーム発生。ちょっと大変な目にあっていたね。
 13:20 いつもより遅い昼食。サンドイッチと紅茶だったね。
 17:30 帰社。
 19:20 同僚の美佐子と食事をしていたね。パスタを注文していたね。おいしかった?
 21:35 帰宅。
 23:50 就寝。

冴子:……このメールは?

安藤教授:ストーカーなんじゃああぁいっ!!(教授、いつの間にかスタッフがスタジオ右側に用意した飛び込み台の上にいて、叫びながらその上にあるターザンロープを使って、スタジオ左側の壁に向かってダイブする。教授スタジオ右側から左側へ雄たけびをあげながら移動していく。激しい音が響き、スタジオ左側の壁に教授の人型が刻み込まれる)

冴子:なるほど。ストーカーは犯罪というわけですね。そうじゃなくても、一方的かつ執着の強さが感じられるメールは相手の迷惑になることもあるのだと、ちゃんとした双方向のコミュニケーションツールとしてメールを活用するべきということなんですね。

安藤教授:(スタッフに壁の中から引っ張り出されながら)……そ、そうじゃ、冴子君の言う通りじゃ。(教授、スタジオの隅にあおむけに横たわりながら、ハアハアと肩で息をしている)

冴子:今日は、コミュニケーションツールとしてのメールをより活用するために、効果的なテクニックをお送りしました。みなさんも、今日紹介したテクニックを用いて、より友情を深め合うためのメールのやり取りをしてくださいね。

安藤教授:……そうじゃ、冴子君の言う通りじゃ。

冴子:それでは、「霧島冴子のWord Laboratory」。次回をまたお楽しみに。それでは今日はこの辺で、ごきげんよう。(冴子のアップ。笑顔で手を振る冴子)

安藤教授:……え、え? 番組名変わってない?

(画面が徐々にスタジオの遠景に変わる。手を振っている冴子。スタジオの隅で横になったまま何がどなっているのかわからず驚いている安藤教授)


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