兼松孝行の日々つれづれ

2007年11月22日(木) 燐光群「ワールド・トレード・センター」

911を少し俯瞰した立場でとらえた作品。

芝居の前半はとにかくあの日の出来事を会場全体で共有しようというかんじだった。
そして中盤、あの日の出来事をいろんな角度で分析してみて、そして後半にあの日の出来事をふまえた上で、この先この現実を受け入れた上で明日に向かって進んでいこう、という感じの流れだったのではないかなと思った。

911そのものの凄惨さは見事に描き出されていた。
そして、戸惑うニューヨーク在住の邦人たちの描き方も、しっかりと生活感があってこちらに伝わってきた。
あっという間に芝居の世界に引き込まれていった。

確かにあの日、こんなことを思ったよなとか感じたよなってことが鮮明な記憶として、感覚としてよみがえってきた。
かなり痛い気持ちとして甦ってきた。

だけど、芝居の終盤に911だけが唯一無二の出来事ではなく、たまたまリアルタイムにみることが出来た出来事だったから衝撃が大きかっただけのことで、他にもそういったことは世界中見渡せばたくさん起きている。
しかも、アメリカが仕掛けたことばかり。
そうした現実を知ると、実は遠く離れた我々が、当時みたく唯一無二の出来事としていろんなことを考えるのではなく、もっと客観的に、そして俯瞰した形でとらえるべきじゃないかな、という提案にも似たメッセージをくれた感じがする。
そういう意味では、凄惨な題材だったにも関わらず、最終的にはすっきりした形で劇場をあとにすることが出来たかなと思う。

でもね、でもですよ。
こんなシビアな客席は久しぶり。
ほとんどが七ツ寺共同スタジオがらみの演劇関係者ばかり。
その所為か、開演前の客席は冷えきっていた。
時々聞かれる言葉は演劇関係者同士の挨拶ばかり。
こんな客席を相手に芝居をするのは非常に厳しいし、こんな客席を相手にやりたくない、と普通に思うような状況だった。

だけど、幕が開くと同時にすっかり芝居の世界にもっていってくれる芝居の完成度の高さにかなり助けられたかな。
同時に、自分が考えていた芝居作りがはずれじゃないなってことを、この芝居を見ながら確信に出来たことは大きかったかなと思う。

この芝居の中身については、速報版みたいな感想は書いたけれども、ちゃんと消化するまでにはもう少し時間がかかりそうかなと、そう思えるすてきな芝居だった。


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