野生の森
高瀬志穂



 拍手より



「寂しいですか?」

穏やかな波を一人で見つめていた時にふいに彼女にそう聞かれキラは視線を動かした。

「…寂しくない、と言ったら嘘になるかな。」

 ラクスに嘘をついたところでどうにもならないし、きっとすぐに見抜かれてしまうからキラは素直に答えた。

「心配ですか?」
「…それはどういう意味で?」

 少しだけ含みを持たせてそう問いかえせば、さらにそれ以上の笑顔でキラは返された。

「あら、色々な意味でですわ。」

 一筋縄ではいかない歌姫。出会った頃はとても可愛らしい子だと思ったが、それだけの子ではなかった。まぁ敵艦の中をふらふらと歩いたり戦闘が始まりそうになった時にそれを一言で止めてみたりと、今考えればあの頃から彼女は彼女だったのだなと思う。

「…アスランに任せておけば安心だよ。」

 どれを意図する質問だったのかは分からないけれど、質問に対する答えをキラは返した。
 そう、アスランに任せておけば大丈夫。強くてけれど脆い最愛の姉。初めて彼女を見たのは砂漠だった。とても強くて、お姫様なんかには見えなかった。それでも今は立派なオーブの首長なのだ。

「じゃあアスランは?二人きりで心配じゃありません?」

 どきり、と胸が揺れる。

「別にそんな心配は…。」

 してない。なんて言ったら嘘になる。
 だってアスランはかっこいいし、カガリだって自慢の姉なのだから。

「じゃあカガリさんに恋人が出来ることに不満はないのですね。」

 自分の半身であるカガリ。彼女が誰かのものになるのは確かにちょっと複雑な気分だ。けれど彼女は自分ではない。彼女がそれを望むのならキラには何も言えない。

「まぁカガリが幸せなら。」
「じゃあアスランに恋人が出来たら?」

 にこやかな顔でとても意地悪な質問をされる。どうしよう、と考えてキラは口を開いた。

「「アスランが幸せなら」」
「ふふっ。」

 キラが口を開くと同時にラクスも口を開き、同じ言葉を放った。

「…ラクス。」

 キラは呆れるような照れ隠しのような声を出す。分かっていたのなら質問しないでくれと。

「カガリさんを誰かに取られるくらいなら知ってる人がいい。自分が好きな人なら彼女は幸せになるだろう。その逆もまたしかり、なんてこと考えてますか?」

 彼女は本当に物知りだと思う。物知りなのではない。きっと彼女は相手の心が読めてしまうのだ。そう思う。
 だから彼女に隠し事や嘘はなんの意味も持たないんだ。

「アスランならカガリを任せられるし、カガリならアスランは幸せだよ、きっと。」

 幼い頃にアスランと過ごした日々。多分それが一番キラが幸せだった頃だ。戦争もなくて毎日親友が隣にいて。
 二人とも大切な人。幸せになって欲しい人たち。アスランとカガリだけではなく、キラの目の前で穏やかに笑うラクスに対してもそう思っているのは事実だ。

「キラはなぜアスランがカガリさんのボディガードをやってるか知ってますか?」
「そりゃカガリを守りたいからでしょ。」
「本当にそう思っているんですか?」

 問いつめるようにラクスは聞く。けれど答えなくてもきっとキラの思いはラクスに知られているのだろう。

「さぁ、どうだろう。」

 本当の思いなんて自分にも分からない。幸せになって欲しいと思っているのは本当だから。

「まぁ意地悪ですこと。…けど我が儘を言うことも必要ですわよ、キラ。」

 ラクスの言葉の意味をキラはよく分かっていた。

「分かってるよ。けど難しい。昔は簡単に言えたのに。」

 課題が終わらないかた手伝って欲しいとか、今日は泊まっていってとか。そんな些細なことを昔はしょっちゅう言っていた気がする。いつからかそれは言えなくなってしまったのだが。

「大人になるというのは不器用になるということかもしれませんね。…私は大人ではないですから、我が儘を言わせてください。」

 そしてラクスはまっすぐにキラを見つめた。そのまま躊躇うことなく言葉を紡ぐ。

「…愛していますわ、キラ。」

 澄んだラクスの瞳に映るのはキラただ一人。素直な告白。嬉しくないはずなんてない。
 けれど。

「ラクス…ごめん、僕は。」

 ここでその言葉を了承すればきっとみんな幸せになれるのかもしれない。けれど、それは出来なかった。そこまでまだ大人じゃなかった。
 誰かに取られるのは嫌と否定してないのに、自分はその人以外駄目だなんてなんて滑稽なんであろうとキラは思う。

「知っています。知っていますけど私は大人じゃありませんから。相手の都合も考えなく何かを言えるのですわ。」
「君は僕よりずっと大人だよ。」

 たくさんの人たくさんの事を考えているラクス。キラからしてみればラクスの方がずっと大人だった。自分は告白して振られてそんな風に穏やかになんてきっと笑っていられない。

「ありがとうございます。」

 我が儘を言ったら怒る?寂しいって言ったら側にいてくれる?とても近くて遠い人。
 早く大人になって大切な人を護れるようになりたい。
 けれど子供のままの素直な心も捨てたくない。

 それを許してくれますか?
 そして僕を選んでくれますか?


++++++

運命開始前くらい、ですかね……適当に、適当に。いっそ海じゃなくてAAから宇宙を見つめて…ってエターナルがいるころはすでにアスランいたっけ…?あ、いない。確か地球の海で拾われたから。

頭の中の時間軸が大変なことに…。

なんか似たようなネタを何度も何度も書いてます。発想が貧困ですいません。

2007年10月12日(金)
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