ヤグネットの毎日
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2002年07月12日(金) 耳から離れない音

 文教常任委員会の視察を終えて、無事京都にもどった。息子の屈託のない笑顔がなんとも可愛らしい。
 今回は、台風の進路を気にしながらの視察であった。実はもう一つ、一生忘れられない出来事に遭遇した。帰宅直後、玄関にかけつけた息子をギュ−ッと抱き締めたとき、あの音がよみがえってきた。

 視察の二日目、文教常任委員会の一行は、秋田駅で奥羽線の「特急かもしか3号」に乗り換え12時48分に出発。大館駅に14時10分に到着する予定だった。 
 ところが、能代市に入り、車両の両側が緑の壁に挟まれたようになったところで、いきなり何かを巻き込んだような音がして、警報装置とともに急ブレーキがかけられた。300メートルぐらいすすんだところで、ようやく列車は停車。僕たちは、進行方向一両目に乗車していたが、あまりの衝撃の大きさに思わず前のシートをつかみ頭をすくめた方もいた。
 車掌があわてて、車両を走りぬけていく。どうやら人をはねたようなのだ。
 ということは、あの何かを巻き込んだような音は…。
 
 結局、僕たちは約1時間現場に立ち往生することになった。視察先でも視察時間を短縮せざるえなかった。
 列車のなかで待たされている間、ビジネスマンが取引先に携帯電話で連絡をし、時間に間に合わない旨、頭を下げながら連絡する姿もみられた。恋人同士と思われる二人連れ。女性のほうが、人身事故と聞いた瞬間、悲鳴をあげた。
 
 翌日の新聞の社会面には事故の様子が報じられていた。それによると、亡くなったのは秋田市内の男性でまだ26歳だった。進行方向の左側から線路に入り、しゃがみこんだところを約50メートル手前で運転士が発見。急ブレーキをかけたが間に合わなかった、という。なぜ線路に入ったのかなど、原因を調べている、と記事は結ばれていた。

 仮に自殺であったとすれば。
 列車への飛び込み自殺は、瞬時に命を奪われるが、遺族もふくめ後に残される者にとっては、決してその代償は小さいものではない。「迷惑」という言葉さえ使われるときもある。
 しかしーー。それでも僕は、「なぜ死を選んだのか?」とその原因に同情の念を抱きながら、思いを馳せてしまう。
 最近の自殺の最大の理由は、生活苦などから人生に展望が見出せない、というものである。これだけ、不況で生活が痛めつけられ、政治が腐敗し、人間が粗末に扱われている現代社会において、自ら死を選択する者に冷たい視線だけを送るのは、僕にはできない。
 この世に生まれた以上、人間は与えられた寿命を自らの力で輝かせなければいけないのではないか。それをできなくしている障害は人間の力で取り除いていかなければいけないのではないか。まして、それが政治の力で解決できるものなら、なおさらのことだ。
 政治の一端にたずさわるものとして、僕には決して他人事とは思えないのである。
 線路にしゃがんだ26歳の青年にも、僕の息子のようにあどけない笑顔で親に抱きついた時代があったことだろう。
 一瞬、自転車がからんだのか、と思うような乾いた金属音。その音がいまも、耳を離れない。
 

 


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