上唇に力をいれ、思い切りタコの口のようにしたら、それが鼻の先についた。 こんなちょっとした驚きを感じた今夜だ。
「工場の女」 借り物の時間のなかで生活をし、 フェイクな存在に成りすまし、 マットの工場で日夜働く女。 彼女の名は桐咲順子。 独身。 もうすぐ48歳の誕生日を迎える。 血液はA型。 髪は長く、さっぱりとした服に身を纏う。 趣味は三味線。 気が向くと近所の子供に教えていたりする。 動物が嫌いで、特に野良猫を蹴ってしまう習性がある。 そんな女。 もうすぐ48歳。 独身。 結婚願望はない。 そんな女。
「私は母にこう言った」 私は母にこう言った。 一言「うるさい!」 そう言った。 私は母に録画を頼んだ。 チャンバラ活劇録ってと頼んだ。 母はラテ欄広げて言った。 なんでこんなの見るの?と言った。 僕はそれ聞きむっとした。 とっさに言った「うるさい!」と。 私は感性傷ついた、 人のふりして怒って言った。 私の口調に甘さはなくて、 嫌らしいほど命令口調。 そう、「うるさい!」と命令口調。 軍曹に刃向かう部下に向かって、 そう言う口調と似通って・・・ とっさの言葉にぞっとした、 自分の台詞にぞっとした。
(↑解説:僕がある時代劇を母に録画してくれるように頼んだら、母はその番組を新聞のテレビ欄を見て一言言ったのである。 「なんでこんなの見るの?」と。 僕はとっさに「うるさい!」と言った。 それはなぜか? きっとなんで僕が見たいと思うものにケチをつけるのか?見たっていいじゃないか?という気持ちが働いてそう言ってしまったのだと思う。 それにしても「うるさい!」はないだろうと反省した。 あまりにも理不尽な僕が、その時に現れた。)
「和室に身を置く」 とある和室にて お茶をたて 皆に振る舞って 次に花を生け 皆のそれを並べ やがて私は三味線を取り出し それは馬頭琴でも良いのだが かき鳴らす音 大胆に繊細に とある和室にて その音色 絡まった茎と茎の間にあり 天井の角に溜まり 障子の紙を細かく震わせる その音色 元々にそこにある自然のものであるかの様 終いに私の指先は止まり そこに広がるのは凛とした形の意志 私は三味線をしまっておいた そしてまたお茶をすする
―END―
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