彼が出張に来て3週間。
一日も、離れることは無かった。
彼が飲み会で遅くなったり、私が酔っ払ったりした日以外は、毎日抱かれた。
正常位がいいかと思えばバックがめちゃめちゃ良かったりして、とにかく言えるのは全ての体位が気持ちいいこと。
それでも中イキが出来なくて、申し訳ない気持ちになったのだけど。
彼はいかせることにこだわらず、二人で気持ち良くなることをメインにしてくれた。
同じホテルで、夜中まで行為を楽しんで、終わったらシャワーを浴びて眠り、朝行ってらっしゃいと言って送り出し、夜帰るよコールがあったら駅までお迎えにいって一緒にご飯を食べて帰る。
蜜月、だった。間違いなく。
昼間は私はすることがなくてぷらぷらしていたので、ホテルの人からはさぞ怪しいカップルだったと思う。(一般的には夫婦と見られていたかも)
ホテルの外に出かけて戻ってくるとき、フロントで鍵の番号を言うと、「はい、○○様」と彼の名字を言って鍵を渡される度に、照れた。
本当は違うんだけどって悲しみと、いつかそうなれたらって期待が交錯する。
彼の出張の最終日は、私の家に泊まってから飛行機で地元へ向かう予定だった。 だけどこれで終わりじゃなくて、彼は地元に帰ったその足で、試験があるからと私の地元へ向かい、一泊してくれる。(元々はこの一泊を予定していた)
その最終の金曜日。私は病院へ行って、休職延長の診断を出された。 今飲んでいる薬の効き目が出るまでは、職場へは戻らない方がいいでしょうという、新しい医師の判断で。
飲み屋さんでそのことを話したときには、彼は「うん、しょうがない」ってあっさりした反応で。 けど、そういう風に言うけれど、彼はちゃんと受け止めていてくれることをもう知っている私は。
「うん。だよねー。ちゃんと治さないとってことだよね」
と凹みつつ返す。
それから家に帰った時に。 ふとしたきっかけで、
「私、嫁になれるかなあ?」
って、聞いた。そしたら、
「まずは身体を治してからだね。待ってるから。焦らなくていいからね、大丈夫だから」
と。
私、いきなり涙腺崩壊。私の不安とか、がっかりした気持ちとか、情けなさとか、そういうのを受け止めてくれるこの人は本当に優しい。
特に、「待ってるから」ってなんだ。
12月で終わる可能性もある訳で、待ってるっていうのは……?? と、私は期待と不安でぐるぐる。
そして空港で一旦別れて、私の地元で、小さい方の実家に彼が泊まる日が来た。
自分の生家に、彼が来ているというくすぐったさ。
そして、前の結婚の時のダブルベッドの上で、話をした。
「結局は、私のことは関係なくて、今の嫁とこれからもやっていってBさん(彼)が幸せかどうかなんだよ」
と私が言うと、
「あー、そうなんだよ……。そこなんだよ」
と。
そして、
「それが俺の人生にとって重要なポイントだよね。そして、それに気付かせてくれたのが、ぼむ」
と嬉しいお言葉。
まあきっと彼の場合、薄々気づいていたけど見ない振りしていただけ、というのが正解なのだと思うけれど。
「12月には、嫁にどう思っているか話をしようと思う」
と、言う。
私「嫁が子供いらないって言ったら?」
彼「それは離婚する」
私「嫁が子作りには協力するけど、それ以外のエッチは拒むって言ったら?」
彼「それは……迷う」
私「嫁が離婚なんて嫌だから、子供も作るし普段のエッチにも応じますって言ったら?」
彼「それも迷う」
え、結構迷うんじゃねえかよと心の中で思う私。
嫁に話をしてみる、というのも私にとっては意外だった。
彼の中で結論を出して、その結果を伝えてくれるものだと思っていた。
考えてみれば、話し合いをするというのは当たり前のことで……当たり前なんだけど、話し合いという行為自体が前向き、なものだから。
私の中で、自分は今劣勢なのだと、認めたくない現実が忍び寄ってくる。
彼「簡単に放せるなら、この数年間は何だったのみたいな気持ちもあるし……。嫁も、最初の半年間は普通だったんだ。色んな事したし。手を縛ったりとか、目隠しとか、スパンキングとか、言葉責めとか……。向こうからしたいって言われたことはないけど。だから、ぼむが同じになっちゃったらどうしようって不安はある。 嫁は遠距離になってから変わった。結婚して一緒に暮らし始めてからはセックスの回数は増えたけど、最初だけだったし。セックスも毎回同じことの繰り返しで、正常位しかしないし、舐めて、いかせて、入れて、終わりって感じ」
私「え……それって楽しいの……?」
彼「楽しくないよ。でもその分、一人でする楽しみはあるよね。映像見て、こういうことするんだーとか勉強して、その分ぼむに活かす(笑)」
私「それって二股ありきの話じゃない!?」
彼「いや、だからそれが一つになるかも知れないって話だよ」
私「うん……」
彼が、嫁と向き合う気になってくれたのは本当に嬉しい。
だけどそれって、嫁が心を入れ替えるってなっちゃえば、私なんていらないって話じゃない!?
と、私の心は絶望に蝕まれる。
彼は、「嫁が変わるって言ってくれても、ぼむを選ぶかもしれない自分がいてびっくりしてる」とか言ってはくれた。けれど、この不安症の私にそんな言葉じゃ弱い訳で。
いや多分、それまでは「今のこの平穏な生活変える気なんて更々無いし」って思っていた彼にしたら、凄い自分の変化なんだとは思う、けれど……。
生ぬるい。
こうやって半年過ごした時点で、「ぼむがいなきゃ生きられない!」ぐらいになってないなら、略奪なんて無理じゃね? と冷静な私が腕組みをして私に言う。
現状維持、可もなく不可もなく、って唱えていた彼がどれだけの成長だろうが。
結局嫁を選ばれたら意味なんてない。
彼には本当に幸せになって欲しいけれど。
やっぱり出来れば、彼を幸せにするのは私でありたい。
奥さんじゃなくて。
でも、家のこともちゃんとしてくれて、優しくて、趣味も合って、そんな奥さんのこと簡単に捨てろなんて言えない、でも結局私が言ってるのはそういうことで。でもこの調子じゃ、きっと捨てられるのは奥さんじゃ、ない。
私が「今、悪い方にしか考えられない。っていうか、悪い方の想像をして覚悟しようとしてる」
と言うと、彼が突然泣きだした。
え、これは、「ぼむ、ごめんな……」の涙なのかと益々悪く考えていると、彼が「ごめん……」と言い出した。
彼「ぼむは、そうやって覚悟もしてるのに……。俺は全然、決められなくて。自分が情けない」
と。
いや、私も覚悟してるとか口だけですけどね?
本当にそう言われたら、私を捨てないでって縋るかもよ?
そんな風に言いながら。私は私で、凄い妄想してるよって、伝える。
私「ぶっちゃけ、ここ最近で風疹の予防接種受けてきたし。それやったとき、あ、自分マジだなって思った。引かれるの嫌だから黙ってたけど、言っちゃった。結婚式は両方の親だけで、あそこでやりたいなとか思ってるよ。婚約指輪はいらないけど、結婚指輪はいるかなーとか。離婚してすぐには結婚できないから、最低半年は無理だろうなとか。来年の忘年会で、皆に、Bさんと結婚するんだって報告できたらいいなあとか。……出来婚は嫌なんだよね?」
彼「嫌」
私「じゃあやっぱり、ちょっと待ってから結婚しないとか。いっぱいホントは、妄想してるよ」
彼「嬉しい」
迷惑じゃないって、彼は言う。
私は私のこの感情が、迷惑をかけている以外の何物でもない気がしてずっと気になっている。
帰り支度をしていた彼が、ふいに「ぼむ、マスクいる?」と未使用のマスクを一枚ぴらっと出した。
「どしたの、それ」
「今日は試験を受けるって家を出てるから、咳をしてたら他の人に迷惑だからって嫁に持たされた」
「あー……」
「だから、持って帰ったらまずいでしょ」
それは、そうなのだけど。
そうやってよく気の付く嫁を騙している切なさと。
「良く気のきく嫁」の物的証拠を置いていかれる切なさが。
私の頭をかき混ぜて。
考えてみれば途中のサービスエリアとかで捨てればいいじゃん、って思うものの。
忘れないように証拠隠滅は確実なところでするのが、彼らしいといえばらしい。
ああ、何で彼のところはレスなんだろう。
どうして嫁は、こんな素敵なセックスをする人と離れてて平気なんだろう。
案外、嫁にも好きな人がいたりして……とも思ってみたりする私は。
それでも、彼が帰ってしまってからは、何度か泣いて。
12月に重たい沈黙の末電話で「……ごめん」って言われるところまで想像したら、何かがキレた。
結局彼は住み慣れた楽な方を選ぶだろう。
そんな気がして。
それならきっぱり別れようと思っていたのに。
彼の思い出が、多すぎて。
無理だと、思った。
彼に、「ごめん、嫁ともう一度やり直してみるよ」って、言われたら。
「分かった。じゃあ、やり直して上手くいかなかったとき、私がまだ独身だったら声かけてね」
って、言おうと思った。
つながりを。
断ち切ってしまうのは無理だ。
糸のように細い嘘みたいな約束でも、欲しい。
漠然としてても構わないから。淡い淡い期待で構わないから。
それぐらいのものがないと、私、壊れる。
はっきり、そう思った。
さて、振られたらどうしようかな。
元彼に泣きつこうかな。
やっぱり安定のAさんかな。
2度も、結婚相手に選ばれなかった私は、何かもう大きな欠陥があるとしか思えないよって泣いていいかな。
Aさんなら、単なる相性だろって、言ってくれるかな。
いい女になれるって、言ってくれたもんな。
元彼のあの衝撃を乗り越えたのだから、大丈夫だと思っていたのに。
案外それ以上の強さで襲われそうで、今から既に怖い。
ああ、6月で終わっておけばこんなことには。
彼が出張に来た間だけの、気まぐれの関係だったと。
それか、9月で終わっていれば。
私よりも嫁が大事なのは当たり前だと、そうやって言い聞かせて終われたかも知れなかったのに。
それでもここまで長引かせたのは自分で。
きっともっと苦しくなるだろうことも分かっていたのに、止める気は無かった。
沢山の幸せを貰ったから。
沢山、気持ちをぶつけあえることが出来たと思うから。
後悔はないって胸を張りたい。
だけどこの話の、エンドが怖くて。
本当に本当に、怖くて。
彼が別な県にまた出張に行って、私にお土産を買い忘れたと言ってくれる。
「何かのときに渡そうと思ってたのに」
って。次に会う約束はしていなくて。ただ、
「出張費が結構浮いた」
って彼が言っていたから、「こっちに来てよ(笑)」って言ったら、「無理、でもぼむがこっちに来るなら、そこから出せるよ」って言われた。
私がお金無いの知ってるからって。
全額負担の申し入れ。
そこまでするぐらい会いたいんだ、って気持ちと。
いや、何でもない女友達に5千円ぐらい平気で奢っちゃう人だから、私が思う程の価値はこの行為にないのかも知れない、って気持ちと。
だけど私は、もう決着が着くまで会いたくなくて、返事をうやむやにした。
「今日のぼむ」を、写真つけてメールで送る。
「ちゃんと送ったでしょ?」って言ったら、「これが、「いつものぼむ」になればいいのに」って言われた。
まだ、私たちの間は続くと思ってるのかな?
それとも、会えなくなる可能性を考えないようにしてるだけ?
多分後者なんだろうな。
ただこうなっても分かること。
二股状態でずるずるいくのは、嫌。
特に奥さんとセックス含めやり直すのであれば。
それは自分でも譲らないんだなあ、と自分の限界を知ると同時に。
3週間、毎日会っていたから。
今、会わないのが、とても寂しい。
会い過ぎたな。
おかげで本当に、やっぱり、毎日一緒にいたくなってしまった。
叶わないなら、しばらくは壊れてるしか、ない。
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