- 散歩日記 -


2005年02月04日(金) - 男の選択

フィリップ・マーロウのように、
ハードボイルドな生活を愛し、
単純で分かりやすい事をモットーとしている私だが、
時として選択の迷路に迷い込むことがある。

CD屋。
これはいけない。
ふらっと寄った時が一番危ない。
買うものが決まっていないという心理状態は、
羅針盤のない船旅のようなものだ。
「見るだけ、見るだけ」
音楽というものは見るものではない。
「一枚だけにしよう」
その一枚がすんなり決まるわけがない。
「もしくは3枚まで」
もう既に自分を見失っている。
こんなところで“一期一会”などと場違いなことを、
思ってしまうから自分に負けるのだ。

手に持てるほどつかんで、
「カード払いできますか?」


夕方の帰り道にふと現れるパン屋もいけない。
そういう小腹の空き時のパン屋は産卵期のマムシ並みに危険だ。
パン屋へずんと入って、
「見るだけでもいいですか?」
と聞ける根性があったら、
健康診断の採血の時に涙目になったりしない。
スルリと入店し、トレイを左手に持ち、
あれは何というのだろう、
パンを挟むピンセットの大御所みたいないなヤツを、
昔の国鉄の改札のようにカチカチ鳴らしながら、
パンの前をうろうろしている。
「ああどれだ、私を呼んでいるのは」
「ハイジの黒パンなのか? 黒豆入りあんパンなのか? 
そのピザのようなヤツか? えーい、メロンパン3個入りサービスパックなのか?」
会計してもらっていると、
「うわー、すごいですね、もうシールが一杯になりますよ」
この店では200円買い上げごとにシールをくれるのだ。
カード一杯シールで埋めると、好きなパンが5個もらえる。
その5個を選ぶのは私か?
すぐ決めなければいけないのか?

私は今晩寝られるだろうか?



昨日、荷物を出しに郵便局に行った。
受付終了間際なので混んでいて長い列ができていた。
受付は2つあり共に法人の大量封書で、
てんてこまいだったが、
偶然にも同時に処理が終わったようで2人の受付嬢が、
「お待たせしました、次の方どうぞ」
と言った。
さあ選択だ。
重責を担うのは、私の直前に居た20代前半の青年だった。

どちらにするのか?

左は「強風の中傘も差さずに1時間以上外で過ごした“松たか子”」
右は「天気に恵まれ、栄養もタップリの“さやえんどう”」

どっちだ。

やはり栄養タップリでも植物よりはヒトだろう。
でもそうあからさまなのもなぁ・・・
周りの目というのもあるし・・・
青年の立場になってウジウジ悩んだ。
しかし、
その青年は絶好調時のイチローが四球を選ぶときよりも自信をもって、
左に一歩を出した。
私はその“迷いのなさ”に感動した。

「お客様、こちらへどうぞ」
“さやえんどう”が呼んでいる。

青年よ、
君が選ばなかった道を私が歩む。

賢明なあなたには選択の迷いなど無いのだろう。
では教えてくれ。
使い捨てカミソリの捨て時を。




2005年02月03日(木) - 恵方へつれてって

賢明なあなたなら、
まさか、海苔巻き業界の策略には乗っていないことだろう。
もしくは「恵方巻」という怪しい風習など知らないかもしれない。
知らなくても全く問題はない。

“1977年に大阪海苔問屋協同組合が節分のイベントとして道頓堀で実施したのを、
マスコミが取り上げ、早速全国のお寿司屋さんがそれに便乗して全国に広まった。”

切ってない太巻きを、縁起がよいといわれる方向を向いて、
食べきるまで何も話さず、ただただ口へと太巻きを押し込むという、
ワイルドなイベントだ。

何も話さずというのが泣かせるではないか。

一家団欒の食事時、食台に全員揃ったのを父親が確認し、
「うむ、それでは食べるとするか」
「お父さん、今年はどっちの方向を向いたらいい?」
父はすっと手を伸ばし、ある一点を指さす。
いつもは生活に埋没し、家庭での存在感も危うい父が、
家族を恵方へ導くのだ。
そして静かな食卓。
時計の音ぐらいしか聞こえない。
しかし、突然小学一年生の娘がむせて咳き込む。
父も母も、心配なのだがここはぐっとこらえて身動きしない。
全ては恵方へ向かうために。
その時電話が・・・
こんな大事なときに。
儀式はまだ続いているのだ。
一体誰だ?
未だ電話が鳴り続いている。
大事な電話なのか?
しかし、今は心動かしてはいけない。
家族が恵方へ向かうために・・・・


家族で食べるのは良いだろう。
何となく絵になる。
カップルもまた良し。
彼のコタツでコンビニで買った太巻きを食べる。
「俺のって、これくらい太いかい?」
「じゃぁ、次はこっちの太巻きを」
これが受けるか受けないかで、
その夜が恵方へ向かうかどうか・・・

独りでその時を過ごす人はどうなのだろう。
特にもっと恵みを受けて良いと思っている人は。
大阪の海苔巻き業界のことだから、
「恵方2本食いはもっとええでっせ」
と噂を流すだろう。

「いやいや、カニすきしながらだと御利益で笑いが止まりまへん」
カニ業界と手を組むかもしれない。

「広島風恵方巻もあるけんのう」
西の死角がやってくるかもしれない。

「ホッケ、ホッケ、シャケ、イクラ、ウニ丼、ウニ丼」
最北の大御所が満を持しているかもしれない・・・


ああ、こんなんで長々書いてしもうた。
すんません。









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