愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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2015年05月26日(火)

 コンビニって便利ですよね…。でも、この世からコンビニがなくなってしまえばいい…一店も残らず…。などと思ってしまうことがあります…。なんて。大丈夫なんですか? 大丈夫です。大丈夫じゃないわけないじゃないですか。もっちゃんだって、毎日頑張って幼稚園行ってるんだから、私だって毎日バイト行かなきゃ。もっちゃんの頑張りに比べたら、私なんてまだまだ全然頑張りが足りない! と己に言い聞かせていますよ…。明日も頑張ろう…。いや、頑張らない…。頑張ってはいけない…。淡々と…心を無にして…業務をこなす…それに限る…。
 よし、もう、攻めさえ私好みなら、受けはカワイコちゃんでもいいや。陰がある美人とか魔性の女王様とかでないのならば…。→それならもう、BLでなくて少女漫画でよいのでは?→ほんまや(素)


2015年05月20日(水)

 辞める気満々なんですが、なんか本気にされてない…? またまた〜(半笑い)、みたいな感じになっている? 嫌だ。怖い。いやいや、ほんと、辞めますよ!?
 ミスドで一番好きなのは、ショコラフレンチです(唐突)。昔は、常にあった気がするんですが、今は期間限定でしか出てこない気が…。もっちゃんが好きなのは、エンゼルクリームです。「中になんか入ってるやつ」と呼んでいる。私は、中に何も入ってないやつの方が好きです。ミスドで好きなCPは、フレンチクルーラー×オールドファッションです。


2015年05月16日(土) 世界一が流行ってる

 ワイは、バイトを、辞めることにした…! 色々ありまして…。いや、色々はないんだけど。でもまあ、理由は一つではなく。そんなわけで、来月で辞めますー。続けてるときは、辞めたいーって毎日思ってたんですが、いざ辞めるとなると、なんか寂しいです。辞めるけど。私は学んだ。始めるよりも、やめる方が大変であると。でも、次のバイト探すよー。夏休み終わったらね。
 何だか傷心気味なので、癒しのために、今日もっちゃんが言った可愛い言葉を集めてみるね。どうでもいいだろうが。
「ママがつくったパンより、おみせのパンのほうがおいしい!」
「おうちのラーメンはいらない。おみせのラーメンがいい」
「ママがつくったチャーハン、せかいいちおいしい」
「このからあげくん、せかいいちおいしい」
「ハワイアンドーナツ、せかいいちおいしい」
 チャーハンは、有り合わせで10分で作ったやつです。からあげくんとハワイアンドーナツは、某ソン商品です。辞めることを伝えに行ったついでに買って帰ったんです。


2015年05月12日(火) なんで逆じゃだめなのか

 年をとったら、ちょっとは鷹揚になるのかと思っていたら、全然なりませんね。もうちょい許容範囲が広がるかもしれんという望みがあるにはあったのですが。あ、CPにおける嗜好についての話です。クールで美人な攻めと見た目も中身も男らしい受け、というのが、私の中の王道で、その逆だと私にとっての鬼門となるわけなんですが、かなり昔からこんな感じです。儚くて美しくて過去にトラウマ(おじさんに性的な虐待を受けたとか)のある主人公(受)が、逞しくて高スペックの攻めに出会い、強く求められて(最初は無理矢理とか)、戸惑いつつも受け入れていく…、とかそういう系の話は、超無理ですね(素)でも、安易な設定やストーリーが嫌なんじゃないんです。受攻が逆なら全然いいよ。どんだけ安易でも、好みの受攻ならいいよ。それで、評価が高かったとしても、CPが合わないと避けてしまうんですが、なんか勿体ないよな…という気持ちが、あるにはあり続けているのです。面白ければCPなんて関係ない! リバ上等! みたいになれたら、楽しみが増えますよね。なんで今更こんなこと言い出すのかといいますと、電子書籍でBL読んでみちゃう? という気持ちになってきたからです。スマホで読むならバレんだろう。今までずっと二次創作ばかりで、ほとんどオリジナルのBLを読むことがなかったのですが、この年になって新たな世界を知りたい欲望が…、って、欲求不満ですか? 気持ち悪いです、自分自身が。まあいいや。そんなわけでそんな感じなんですが、私が見る限り、かなりの確率で逆ですね。逆なんですよ。見るといっても、表紙とあらすじ、レビューで判断するんですが、とにかく受攻が逆傾向です。ガーン…となったので、BLは諦めようという気持ちになってきました。なんで逆じゃ萌えないですかね。なんで純粋な面白さより萌えを求めてしまうんですかね。難儀やなー。ちなみに、CPが合ってても、ハードなのは無理です…。


2015年05月06日(水) コンビニネタ続編8(終)

 バスを降りて、近くの書店へ。問題集でも買うのかと思っていたら、郭はタウン誌とか見てる。真田がちょっと意外に感じてたら、
「どこかいいとこないかなと思って。一馬、行きたいとこある?」
 だって。デートスポット探しですか。
 その後、真田邸へ。いつもは、入った途端に母親が大歓迎ムードで出迎えてくれるのだが、今日は出て来ない。
「お母さん、今は留守?」
 買い物にでも行ってるのかな、と郭は思う。真田は、ああ、とだけ返事をし、上がって、と言って、靴を脱いで先に入る。その様子が、なんとなく頑なで、郭は不思議に思った。母親のいない真田邸は、ひっそりと静まり返り、いつもとは違う雰囲気だった。
 先に真田の部屋に通されて待っていると、真田が、お茶とお菓子をお盆に乗せてやって来た。
「ありがとう」
 郭の言葉に、真田は軽く頷き、腰掛けた。
(一馬、なんか、機嫌悪い?)
「英士、唐突なんだけど、夕飯、うちで食べて行かないか? 無理だったら全然いいんだけど」
 夕飯のお誘いは、真田母から数回受けたことがあるが、丁重にお断りした。来訪の度にお菓子を出してもらってるし、その上夕飯までとなるとさすがに申し訳ない。ごちそうが出てきそうだし。こちらは何も返せない。お返しなど全く望んでいないだろうし、むしろ一緒に勉強してるお礼とでも思ってそうだが、それならなおさら気兼ねだ。せっかくの誘いを断るのも申し訳ないが、どうしても遠慮してしまう。そのことは真田に伝えているし、そしたら、「そうだよな。気にせず断って。母さんも気にしないし」と言っていた。郭が返事に少し困っていると、
「今夜は父さんが出張でいないんだ。それで、母さんは、朝早くから友達と日帰り旅行に行ってる。女五人で温泉だってさ。…それで、帰りが遅くなるんだ。9時くらい。英士を家に呼ぶかもって言ったら、ついでに夜ご飯一緒に食べたらって。母さんがいないならそんなに気兼ねがないんじゃないかって。夕飯一緒するなら、適当にピザでも取るって言ったんだけど、なんか色々用意したみたいで。なので、よかったら、食べて帰って。よかったら、だけど」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう」
「ううん。ごめん。早く言えって感じだよな。でも、言いづらくて…」
「いや、全然。気兼ねするんじゃないかって気にしてくれてたんだね」
「いや、そういうんじゃなくて、ただ、他意があったので…」
「他意…」
 そこで、郭は気付く。9時まで二人っきりってことに。まあ、郭の家行っても二人きりだけど。でも、真田にとっては、郭家は落ち着かないんだ。真田には、郭の親がいつ帰ってくるかなんて分からないし。マンションって隣の部屋の会話とか聞こえるのかな、とか思うし。
 郭は、まあまあ動揺してしまい、咄嗟に返す言葉が見つからない。真田は、そんな郭の様子に、うろたえて俯いてしまう。しばらく、気詰まりな沈黙。そしてやっと、郭が、
「一馬、俺の話を、しょうもない、どうでもいい話を聞いてくれる? それは、一馬が気になってるけど聞きたくないって話なんだけど、いい?」
「…俺は、聞くよ、どんな話でも」
 顔を上げ、郭と目を合わせる。でも内心、よりによって今かよ、という気持ちだった。
「あれは中一のとき、」

 郭は、三学期の学級委員だった。ある日の放課後、クラスの副担任である若い女の数学教師に、手伝ってほしいことがあると、数学準備室に呼ばれた。そこで、なんか、そんな感じになったんだ。そんな感じになったというか、先生が、そんな感じにした(適当な説明!)。郭は、一学期から、その先生に気に入られてるっていうのを感じていた。でも、別に嬉しくもないし、特別嫌でもなかった。放課後呼ばれたときは何も思わなかったが、準備室に入って、先生の顔を見たとき、そういうつもりなんだな、って思った。そういうことがあったのは一度きりで、その年度末に、先生は結婚して退職した。

「…とんだ淫行教師じゃないか。中一相手に何すんだ。結婚退職の前に懲戒免職だろ。結婚だって破談だ」
 話を聞いた真田の声は、驚きと怒りで震えていた。
「俺が抵抗して、公にしてればね。相手が本気なら、拒否してた。でも、そうじゃなかった。向こうは、遊びだった。だから、まあいいかって気持ちになったんだ。どうでもよかった。今振り返れば、流れに身を任せたりして愚かだと、呆れるしかない。スリルと短い官能があったかもしれないけど、そこに、喜びはなかったよ。当然だけどね。苦い記憶として残るだけ。自分を大事にしてなかった。自分が大事じゃないから、相手も大事にできない。大切なものが何もない。何が大切か分からない。淡々とした生活が延々と続いていく。それが苦痛かどうかも分からない。世界にも自分にも色がない。明日も明後日もこの先ずっと、死ぬまでこうなのかと思うと、窒息しそうになることがある。でも、それも一瞬だ。次の瞬間には諦めがつく。仕方ない。多かれ少なかれ、誰でもそんなふうに感じることはあるだろうと。誰のことも好きにならないと思ってた。高校を出たら、極力親を頼らず、一人で生きて、一人で死ぬ、そういう将来しか思い描けなかった。
 でも、もう違う。俺にはお前がいる」
 郭がこんなに滔々と話すのは初めてで、内容以前に、それに圧倒されて、真田は言葉を失う。後からじわじわと言葉が染み込んできて、胸に迫った。
(お前、って、初めて言われた…)
 そんなとこにも感動したりして。
「一馬、いつか俺と抱き合ってよ。本当の喜びを教えてよ。共有して」
(『いつか』っていつだよ!)
 というのは、真田の心の突っ込み。でも、自分がこう思ったことを、そしてこの後の自分の言動を、真田は後で悔いることになる。抱き合うって表現に、つい高ぶったけど、郭は、中一の件のせいで、そんなすぐには積極的になれないのかもしれないじゃないか。
「…俺もそれを願ってる。なので、テストが終わってから、男同士ってどうすんのか、色々調べてみた。結果、ハードルが高いな、と思いました…」
「別に、挿入なんてなくていい。ハードルが高いって、そこでしょ。俺はそれが重要であるとは思えない。それだけが官能なわけじゃない」
「ははは」
「え…、笑いの要素あった?」
「だって、英士が、綺麗な顔して綺麗事言うんだもん。嘘っぽくて笑っちゃった。重要事項だと思うよ、俺は。ハードルが高くても、試してみる価値はある。最初から、なくていい、なんて思えない」
「…そ、そうだね」
「まあ、それは、おいおい…」
「一馬ほんとに経験ないの? 異性とも同性とも? 物言いが経験者だよ」
「断じてない!」
 真田の物言いが、やけに世慣れてたり流暢だったりすることがあるのは、本を結構読んでたから。親の教育方針で、小さい頃から本に親しんできた。でも、中学に入ってからは、読書にあんまり興味がなくなった。郭も本は読む方だけど、ジャンルが偏ってる。
 真田は、おもむろに立ち上がり、部屋の北側の引き戸に手をかけて開ける。郭は、初めて真田の部屋を訪れたときから、戸があることには気付いていたが、クローゼットか押入れだと思っていた。でも、戸の向こうは和室で、そこが真田の寝室のようだった。寝室は、今いる部屋と同じくらいの広さだった。自分の部屋が2つあるようなものだ。マンション住まいの郭には考えられない。まあそれはいい。
「用意周到だろ」
 和室には布団が敷かれていたのだった。
「敷いとくべきかどうか悩みに悩んだ結果、敷いといてみたんだけど」
 さすがにちょっと照れつつ。
 一方、郭は、この展開にかなりびびってる。
「あっ、引いてる! 敷かなきゃよかった…」
「い、いや、引いてるとかではなくて! 戸を開けたら寝室があった、という驚きだよ。押入れかと思ってたから」
「…ふーん?」
「…あとはまあ、心の準備ができてなかったというか…」
「へー…。抱き合って、とか、本当の喜びを教えて、とか、殺し文句言っといて、心の準備ができてないって、お前…。それは、マチカフェで、『何がオススメですか』って客に聞かれて、『期間限定の抹茶ラテです!』と堂々と答えたにも関わらず、発注忘れで粉がなくて抹茶ラテを作れない、という事態よりも酷いな…」
「すみません、もう準備はできました」
 それで、二人で和室へ。戸を閉めると、寝室は、引かれたカーテンの隙間から夕方の光が入るだけで、薄暗い。
 どちらからともなく近寄って、抱き合って、口付け合った。
「一馬って、何でこんな良い匂いするの。なんか、それだけで、もう、」
「そんなこと誰にも言われたことないけど…」
 ぎこちなく服を脱がし合いつつ、
「暗いね…。一馬、照明、点けちゃ駄目? もうちょっと明るい方が」
「俺はもっと暗くてもいい」
「これ以上暗かったら、見えないよ…。
 一馬、ちょっと確認したいことがあるんだけど、いい?」
 二人とも上を脱いだ後、郭が言って、真田の前に、おもむろに跪く。
「えっ、何!?」
 郭は、真田のベルトに手をかける。ちょっと待て何すんだまさか舐めるとかじゃないだろうなそれは無理だってまだ風呂入ってないし、という真田の焦りなど、郭は露知らず。
「前に、雷の話、してたじゃない。へそを取られる話。あのときから、ずっと気になってて」
「何が」
「どんなへそしてるんだろうって」
「…普通だよ…」
「見せて」
 ベルトを解いて、ボタンを開け、へそを確認。
「…! こんなところに…」
 郭は、本当にいいものを見つけた、というように、嬉しそうに、指でそっと触れた。へそじゃない。そのすぐ横に、ほくろがあったんだ。なんて官能的なんだ、ってなる。
「一馬のへそが取られなくてよかったよ。俺が雷様なら、絶対取るけど。ほくろごと」
「はいはい」
 へそに、ほくろに、そっと口付ける。
「う…」
「もう、幼稚園の頃の写真には興味なくなったよ。だって、どんなに可愛くても、今の一馬には負けるよ」
「言ってろ」
 真田は、自分は立っているのに郭は跪いてるって状態に耐えられなくなってきて、同じように膝を付く。
「英士…」
 目の高さは同じになったけど、恥ずかしくて視線を合わせられない。真田は、きちんと敷かれた布団をちらりと見た。そしたら郭もそっちを見て。それで、お互い無言で、下も脱いで、裸になって、布団の中で、お互いの体を触り合ったりするといいよね。いいよねって。
 もう言葉は何もなかった。必要なかった。聞こえるのは、息遣いと、耐えても漏れる声、布団が擦れる音。

 触れ合い(…というか…)の後も、布団の中でくっついてた二人だけど、もしも母親が予定よりも早く帰宅したら大変なので、身なりを整えて、食事することに。
「あ、ごはん炊いてない」
 早炊きならすぐできるので問題ないけど。冷蔵庫の中を見ると、おかずがいっぱいで、これを二人で食べろと…? と、真田は少し困惑。今夜のために、はりきって昨夜から仕込んだり、朝早い出発だというのに早朝から用意してくれたのだと思うと、母親に対して後ろめたい気持ちになった。
(でも、黙って女の子を連れ込んだとかそんなんじゃないし。相手は英士だし、いいよな)
 なんて、言い訳してみたり。
 料理を温め直してテーブルに並べてるうちに、ご飯が炊ける。
「パーティーみたいだね」
 と、テーブルにずらりと並んだ料理に、郭が驚いて言った。
「パーティーだな…」
「申し訳ないけど、ありがたいね、ほんとに。それに、今の俺の内面にぴったりだよ。パーティーでもしたい気分だから」
「えー…」
 二人で食べてる途中、真田は、ふと気付く。
「あっ、英士、箸の持ち方、変」
「気付いた? おかげさまでペンの持ち方は直ったけど、箸はなかなか」
「不自由ないならいいんじゃないか?」
「直すよ、そのうち」
 真田は、何か急に恥ずかしくなってくる。少し前まで、薄暗い部屋の布団の中で肌を合わせていた相手と、向かい合って食事をしている。あんなことのすぐ後なのに、普通に会話して、普通にご飯食べるとか。別に大したことなどなかったように。そんなのできっこない。
「あーーーー、思い出したら恥ずかしくなってきた。恥ずかし過ぎて、対面でご飯とか無理」
「俺は恥ずかしさより、抱き合えた喜びで胸がいっぱいだよ」(恍惚)
 郭のうっとりとした表情に、真田は我に返って、落ち着いてくる。
「抱き合えた、か。途中までだけど」
「充分だよ。もうこの先一生何も無くても、俺はこの時の記憶だけで満足できそうだよ」
「えっ、もうしないのか?」
「いや、さっきのは例えばの話」
「そういや、英士が見る夢ってどんなの? それって願望? なるべく希望に添うよう努力するよ? あ、変態的なのは無理だけど」
「…恥ずかしいんじゃなかったの?」
「箸の持ち方、別にいいんだけど、気付いちゃうと、気になるなあ…」
「…こう? これなら合ってる?」
「なんか違う!」
 まあ、そんな感じで、パーティーします。

 帰り際、玄関で、真田は両手で、郭の両手を優しく包み込む。
「ほんとに、無理に直さなくていいよ、箸の持ち方。
 あと…、中一のこととかが原因で、性的なことに恐怖や嫌悪感があるかもしれないのに、性急でごめんな」
 やっとそこに思い至った真田です。
「いや、それは、全然、」
「ううん、本当に、ごめんなさい」
「いやいやいや、むしろ、こちらが、ごめんなさい」
「今日はついつい、急いじゃったけど、でも、これからは、気長にいこう。お互いの気持ちを大切にして、話し合って、たまにはケンカもして。俺は、英士を大事にするよ。英士も俺を大事にして。もう、何もかも、諦めなくていい。明日は今日とも昨日とも違う日だよ。毎日、色んなことがある。楽しいことも、つらいことも。心配ない。大丈夫。だって、これからもずっと、お前には、俺がいる。頼りないけどさ」
 神様…、
 って、郭は思う。この世に神様がいるように感じられたのか、真田が神々しく見えたのか。
 頼りないわけない。たとえこの先、何があっても、ひどい別れ方をしたとしても、この言葉が、生きる希望となるだろう。なんて心強いんだろう。でも(だからこそ)、何も言葉が出ず、不覚にも(不覚ではなく)、涙がこぼれた。
 そしたら、
「泣き顔も綺麗だな」
 って、真田が言った。

 おしまい。


2015年05月05日(火) コンビニネタ続編7

『日曜空いてる? よかったら、一緒にプラネタリウムに行きたいんだけど。今回は絶対寝ません…』
 真田から連絡がきて、郭は本当にホッとするし、嬉しい。勿論、OKする。プラネタリウムで居眠りしたこと、まだ気にしてたんだと思うと、微笑ましいし、そういうとこが好きだと思う。ところで、郭は、真田と都合がつきやすいように、真田のシフトに合わせてバイトの予定を入れてる。真田は、基本、火・木の夕方〜夜と、土曜の午前中か日中。郭のバイトは週一で、火・木の夜か、土曜の午前なら大丈夫だと家庭教師先に伝えてる。真田は基本的には日祝は出ないから、郭も、日祝に振り替えるのは無理、と伝えてるよ。真田は、郭が自分に合わせてると知らないから、たまたまバイトの休みが被っててよかったー、と思ってる。たまたま違う。わざわざ合わせてるんだよ。

 日曜。バス停で待ち合わせ。真田はいつも予定より早く来てる。10分前には到着。不慣れな場所なら、もしものことを考えて早めに出るため、もっと早く着いてしまうこともある。郭は、5分くらい前に着くよう行動してるんだけど、真田が10分前なので、真田と待ち合わせのときは、いつもより早めに行く。郭がバス停に着くと、真田はもう既に来てた。真田の格好を見て、郭は、あっ、と思う。なんかいつもよりお洒落してる感じだったんだ。基本、真田も郭もシンプルです。真田がお洒落してるっていっても、雑誌に出てくるようなのじゃなくて、普段よりはシンプルじゃない、くらい。そして、カジュアルな感じではなく、いいとこの坊っちゃん風です。実際、真田は、まあまあいいとこの坊っちゃんなんだよ。普段はそんな風に見えないけどね。
「どうしたの、一馬。よそ行きだね。似合ってるよ。かっこいい」
「うっ…、ありがとう。でも、もう服装について何も言わなくていいよ…」
 恥ずかしいからね。デートだし、たまにはお洒落してみたよ。
(かっこいいのはそっちだろ…)
 バスの中、隣に座った郭の横顔を盗み見る。切れ長の目、通った鼻筋、白い頬、薄い唇、細く長い首、…なんて綺麗なんだろう(※恋する真田視点です)
(英士の横顔、好きだなあ…)
「どうかした?」
 真田の視線を感じて、郭が振り向く。
(あっ、正面も好き)
「ううん、何でもない」
「バスで寝ててもいいよ? 上映中に寝ないように」
「さすがに今回は寝ない…」
 そしたら郭が微笑んで、真田は、
(あー、笑った顔も好き…)
 ってなる。病気みたいなものだ。ちなみに郭には、真田が時に可愛く、時にかっこよく、時に神々しく見えることすらある。

 プラネタリウム上映中、途中で、郭は、真田の手を握るんだ。真田はびっくりして、嬉しさよりも緊張の方が勝ってしまう。暗いから気付かれないだろうけど、会場は結構混んでいて、両サイドにも家族連れが座っているというのに、手を握ってくるとは。落ち着かない。
 上映が終わり、照明が点く直前に、郭はさっと手を離した。
「寝なかったね」
「…おかげさまで」
 今日は天気がいいので、外で昼ご飯を食べる。バスを降りた後、近くのコンビニでおむすびやらパンやらを買ってる。木陰にあるベンチに座って食べるが、陰にいても暑い。
 幸せな感じだ…、って、郭は素直に思う。満ち足りてる。抱き締めてキスした時だって、満ち足りてたけど、幸せを噛み締める余裕なんてなかった。直接的過ぎて、幸福感より官能を呼び起こす。
 とにかく、お家で勉強デートも夜の公園デートもいいけど、真昼の広場デートもいいよね! そのうち梅雨入りするだろうけど、雨続きでも、君と一緒なら。
 真田は、プラネタリウムの上映内容について話してる。春の星座がどうとか。郭は、苦笑い。
「ごめん、よく見てなかった」
「えー…」
 真田は、郭に手を握られてから気もそぞろだったが、なんとか意識を集中してたというのに。
「一馬のことばかり考えてたからね」
「はいはい」
「あ、素っ気ない反応」
「あー、たまに食べるコンビニのおむすびって、妙に美味しいー」
 気安い会話が嬉しくて楽しくて、二人して笑ってしまう。
 そこで、ふと、郭は思い出す。昔のことを。小学生の頃、家族四人でここに来て、一人でプラネタリウムを見た日のことだ。母親がいなくなる予感は外れたが、その日からしばらくしてから、父親がいなくなったのだった。父は、ある日突然、家を出て行った。子供にとっては突然の出来事だったが、母には分かっていたことなのかもしれない。母親は、至って落ち着いていた。その時に限らず、取り乱した母の姿など見たことなかったが。
「今日から家には父親がいません。でも私達は、今までと変わりなく生活していきます」
 母は、有無を言わさぬ口調で宣言した。父親が急にいなくなったのに今までと変わりなくって無茶じゃないか? と郭は唖然とした。姉も、しばし呆然としていたが、ハッとなって猛然と母に食ってかかった。それはどういうことなのか、父親は何故いなくなり、どこに行ったのか、いつ帰ってくるのか、等々、喧嘩腰で質問攻めだ。元々、姉はお父さんっこで、母とはあまり接したがらなかった。お父さんは優しい、お母さんは冷たい、と、よく言っていた。
「お父さんが何故出て行ったのかは、お父さんにしか分からない。どこに行ったのかも分からない。離婚するから、お父さんがここに帰ってくることはもうないわ。でも、あの人があなた達のお父さんであることに変わりはないし、あの人は、今もあなた達を愛しているし、これからも愛し続けるでしょうから、いつかきっと会えるわ。しばらくの間は寂しいかもしれない。でも、徐々に慣れるわ。この家には父親がいないのが当然なる。何も心配はいらないのよ。あなた達は、昨日までと同じように過ごせばいい」
 だから、家族が一人欠けたっていうのに、同じようになんて、できっこないじゃないか。でも、そんなこと、母親もよく分かっていて、その上で言っていたのだろう。母親がこんなに長々と話をするのを聞くのは、多分初めてだ。台本を読んでいるような調子だった。抑揚がない。
「…いい加減にして。馬鹿なことを言わないで。冗談じゃないわ。お父さんが出て行ったのは、お母さんのせいよ。あんたが出て行けばよかったのに」
 押し殺したような静かな声で、姉が言った。怒りと憎しみと悲しみが入り混じっていた。

「英士、かなり暑くなってきた。中に入らない? それとも、することもないし、とりあえず帰る? 10分後にバスあるけど」
 真田に話しかけられ、郭は我に返る。
「…うん…」
「帰る? まだいる?」
「…帰ろうかな。帰りに本屋寄ってもいい?」
「いいよ。その後、よかったら家に寄ってく?」
「うん、ありがとう」
「英士、さっき、ボーッとしてたな。何か考え込んでた?」
「一馬のこと」
「それはもういい」

 帰りのバスの中。
「家に行ったら、一馬のお母さんに、幼稚園の写真を見せて下さいって言おう」
 真田は、一瞬、驚いた表情になり、その後、取り繕うように、座席に深く座り直す。
「まだ言うのか。呆れる…」
「いつまでも言い続けるよ」
「何で? 好きなの? 幼児が? 怖いよ?」
「そういう言い方されると、ますます見たくなる」
「……」
「何?」
「あんまりいい思い出がない。幼稚園は、結人が一緒だったし、楽しいこともあったけど、でも、別に好きじゃなかった。幼稚園に限らず、小学校も、中学校も。昔の写真なんて、見たいと思わないし、見せるなんて、もっと抵抗ある。見せてどうすんだよ」
「確かに」
「な?」
「でも、見たい。小学校のも中学校のも見たくなってきた」
「えー…。
 あー、なんか、ちょっと眠くなってきた。着くまで寝てていい?」
「うん」
「ちゃんと起こしてくれよな」
「もちろん」
「おやすみ」
「おやすみ」
 真田は目を閉じて、郭に少しだけ、自然にもたれかかった。肩に頭を預けるような寄りかかり方じゃない。二の腕が触れ合う程度だった。バスの中は空いていて、前の方に二組家族連れがいるだけ。前方は、ざわざわと明るい雰囲気が漂っていたが、二人が座っている後ろの方は、静かな空気に満ちていた。腕から伝わる温もりが、微かに聞こえてくる寝息が、シャンプーなのか柔軟剤なのか何なのかとにかくとても良い匂いが、胸に染み込んで、言い様のない気持ちになる。幸福感なのか、それが呼び起こす切なさなのか。眠る真田を見る。ずっと見ていたいような、あまり見てはいけないような。到着まで、あと30分程。もっと長く、このままでいたいのに。

 父が出て行ってから、しばらく経った日の夜のこと。郭が夜中にふと目覚め、リビングにお茶を飲みに行くと、母がいた。照明も点けず、暗い部屋で、何をしているようでもなく、ただ座っていた。
「お母さん、どうしたの?」
「なんとなく眠れないだけ。英士は?」
「喉が渇いて目が覚めたんだ。電気点けていい?」
「ええ」
 郭は、照明を点け、冷蔵庫からお茶を出す。
「お母さんも飲む?」
「ありがとう。でも、いいわ。さっき飲んだから」
 グラスにお茶を注ぎながら、郭は、何気ないふうを装って、
「お母さんは、お父さんがいなくなって、寂しい?」
 聞いたとき、母は、微かに笑った。
「それは当然、寂しいわ。でも、仕方ない。寂しいのは、みんな同じ。みんな、一人なのよ。お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、あなたも。家族でも、どんなに寄り添い合っていても、結局は、一人なの」
 悲嘆にくれた様子で言っていたなら、慰めようがある。でも母は、どこまでも淡々としていた。
 なみなみと注いだお茶を、郭は一気に飲み干した。

 母親が言ったことは、間違ってない。正しいと感じる。姉は、「あなたはお母さんに似てる。可哀想に」と言っていた。姉は、母のようにはなりたくないと思っていた。郭は、母のような態度で生きていくのもいいだろうと思っていた。
 寄り添い合っても、一人。そうかもしれない。でも、今は、逆の角度で感じている。
 一人だけど、寄り添い合ってる。誰しもみんな結局は一人なのかもしれない。でも、寄り添い合える。愛し合える。一人だからこそ? そのことが、音もなく静かに忍びより覆い被さろうとしてくる諦念を、憂鬱を、絶望を、孤独を、力強く押し返す。明日を、未来を、信じる勇気を与えてくれる。

 降りる一つ前のバス停を出発したところで、真田は目を覚ました。次はO駅前(降りる停留所)、というアナウンスに反応したのだろう。
「起こさなくても起きたね」
「うん」
「寝顔、可愛かったよ」
「それ、言うと思った」
「写真撮ったよ。待受にしよう」
「やめろ」
「冗談だよ」
「分かってるよ」

 次で終わり。多分…。


2015年05月02日(土) 日記です

 日記のタイトルが「日記です」っておかしい(素)そんなわけで、ネタの途中に日記を放り込んでみる。続編は、多分あと二回で終わります。多分て。ほんとはあと一回で終わらせたい。でも、書いてると長くなる。
 ゴールデンウィークも普通にバイトです。そして何かしら予定があり、もうスケジュール帳無しでは、何日の何時に何用なのか把握できない。信じられない。時間を無駄にするのだけが得意で、空白の時を過ごすのを趣味としている私が、時間に追われている? 恐ろしいことです。でもこれ書いてるうちに、そんな追われてないよね、日記書いてるし、妄想もしてるしね、って感じになってきた。うん、追われてない追われてない。
 回転寿司にたまに行くんですが、私は基本的にはイクラしか食べません。バイキングにもたまに行くんですが、好きなものを一通り食べた後は、ライチがあれば、ライチをずっと食べ続けています。むいては食べ、むいては食べ…。私は、友人の家族に、「ライチの人」と呼ばれました。長年日記を書いているのに、イクラとライチが結構好きだということを書いたことがない気がするので、書いてみました。なんというどうでもいい情報。どうでもいい情報ついでに、コンビニネタ続編に出てきて今後はもう出ない牧には、どうでもいい設定があります。彼はイケメンと呼ばれる部類なんだけど、それゆえに色々あって、現実の女性が苦手になり、二次元の女性を好むようになりました。オタクですね。仲の良い友人もオタクばかりです。趣味にはお金もかかるので、どこか近くでバイトしようってなって、コンビニの求人に応募しました。どうでもいいけど。


2015年05月01日(金) コンビニネタ続編6

 中間テスト期間に入り、順調に終わる。全体的に手応えがあり、これは五位以内に入れるかも、って真田は感じる。でも数学は、一問自信がなくて、一位にはなれないなって思った。
 テスト最終日から、早速シフトが入ってる。バイト先に行くと、店の端の方で、オーナーが誰かと話していた。後ろ姿なので分からないが、若い女性だ。常連なのか、知り合いなのか、業者なのか。会釈して通り過ぎようとしたら、オーナーに、「あ、真田君」と呼び止められ、女性が振り向く。二十代だろうか、目鼻立ちのはっきりした綺麗な人だ。
「先日はご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした」
 女性は、そこまで、というくらい深々とお辞儀をした。
(えっ…?)
 知らない女の人からこんなことを言われる覚えは…。真田は彼女の顔をまじまじと見て、ハッとした。
「あの時の…!」
 ゴールデンウィーク最終日、店に逃げ込んできた女性だ。髪をばっさりと切り、身綺麗にしているから、全然気付かなかった。まるで別人だ。
「あの時は、本当にごめんなさい。怖い思いをさせて、危険な目に遭わせて、すみませんでした。私を庇ってくれて、本当にありがとうございます。あなたの勇気と優しさに、心から感謝します。ずっと忘れません。あの勇敢で賢い女の子にも、どうかよろしくお伝え下さい。本当は、彼も謝りに来なければならないのだけど、合わせる顔がないと言って…。私も、どの面下げて、と思いますし。でも、彼もとても、反省しています。反省しても、許されることではありませんが…。ごめんなさいね…」
 女の人は、また深々と頭を下げた。真田は、返す言葉が見つからず、はい、はい、と頷くことしかできなかった。
 女性が帰った後、オーナーが、
「あの二人、結婚して遠くに引っ越すらしいよ。女の人の実家の近くで住むらしい。丸く収まったみたいでよかったね。あの人、Kさんにも会いたかったみたいだけど、Kさん、旅行中でしばらく休みなんだよね。
 Lってケーキ屋さん知ってる? そこのケーキとお菓子を沢山貰ったよ。あの店の、美味しいんだよなあ。高いけどね。休憩中に食べてもいいし、家にも持って帰ってね」
 あんなことがあったのに、結婚するのか。それとも、あんなことがあったからこそ、なのか? オーナーが言うように、『丸く収まった』のかどうかは分からないが、彼女の様子を見る限りでは、とりあえず大丈夫そうだ。
『庇ってくれてありがとう』
『勇気と優しさ』
 女性に言われた言葉を反芻する。自分が余計な一言を言わなければ、余計な手出しをしなければ、男が自分を威嚇することも凶器を出すこともなく、あんな大事にならなかったのではないかという思いが、澱のように心の底にあった。でも、もう一度あの場面に戻ったとしても、やはり同じようにしてしまうだろうから、後悔しても仕方ないと、考え過ぎないようにしていた。だけど、自分の判断が間違っていたのではないかと悩み、苦しかった。
(よかった…)
 全然庇えてなかったけど、役に立てなかったけど、勇気も優しさもほとんど持ち合わせてないけど、間違ってたのかもしれないけど、でも、いいんだ。よかったんだ、あれで。安心感か、解放感か、頭と体から力がすっと抜けていくようだった。
「真田君、怖い思いして大変だったと思うけど、辞めたりしないよね? 真田君が辞めたら、困っちゃうよ。ほんと、辞めないでね」
 シフト埋まらなくなるしね?
「あ、はい、辞めません」
「ああよかった! あっ、そうそう、この土曜から新しい子が来るから。男の子で、同い年だよ。D高生だって。バイト自体が初めてらしい。最初の一時間くらいは僕がみるけど、あとはよろしく。レジ教えてあげて」
「えっ、…はい」
 真田は、教えるより教えてもらう方が圧倒的に気が楽なタイプ。バイトの入れ替わりが結構あるから、自分より新しい人も増えてきて、荷が重く感じられてくる。新人を教えるなんて、かなり気を遣う。
(同い年か…。ずっと年上とかより返って緊張するなあ…。でも、女子よりは男子の方が気兼ねがないな。いや、人によるか。それにしても、D高生かー…)
 なんだか気乗りしない真田でした。

 土曜日。真田がバイト先のバックルームに入ると、新人らしき男子がいた。やたら爽やかだったので、咄嗟に言葉が出ず、向こうが先に、「今日から入ることになったMです。よろしくお願いします」と挨拶した。あ、笑顔も爽やか。これでD高とか、ちょっとずるくないか。何か気後れしてしまう。Mは、引き続きバックルームでオーナーと話し中。真田は、着替え終わって店に出る。
「見た? 新しい子?」
 今日一緒に入るのは、Cだ。専門学校生のNもシフトに入っているが、少し遅れてから来るらしい。Nは、遅刻常習犯で、急な欠勤もある。でも、仕事は出来るし、人柄もよく、辞められると困るから、オーナーはそんなに強くは注意しない。
 Cは、どことなく色めき立っていた。
「さっき挨拶しました。男前ですね」
「そーう! かっこいいから、ちょっとびっくりしたんだけど。あっ、真田君には真田君の良さがあるからね。常連のお年寄りに人気だよ、君」
「Cさん、それフォローですか? 返って傷付くんですけど」
「あははっ、ごめんごめんー。いや、でもね、ほんと、人気なんだって。いつも130番(煙草の番号)とホットのS買ってくお爺さんいるじゃない? こないだ、真田君が休んでるときに来てね、『あの子がおらんなら、今日はコーヒーはいらん』って、煙草だけ買ってったんだよ。真田君、コンビニもいいけど、介護関係とか向いてるかも」
 Cさん、私語多っ。真田は、まともに聞いてる時間が惜しいので、煙草の補充をしながら聞く。そうしてるうちに、オーナーとMが出てくる。爽やかMは、コンビニの制服も様になってる。これ、ファンがつくな。女性客増えるかも。ただでさえ忙しいのに。でもまあ店にとってはいいことだ。レジは、オーナー+新人とCに任せ、真田は、掃除してからウォークインへ。あー、忙しい。基本、Cは、言われないと掃除しない。ウォークインも、よっぽどじゃないと入らない。
(別にいいけど)
 って、真田は思った。
(俺がやった方が早いし。それ以前にやってなんて言えないから、俺がやるしかないし)
 Bさんがいたらなあ、と真田は思う。Bは、なるべく皆が平等になるよう仕事を割り振っていた。結局、Bは、バイトを辞めたのだ。親の介護とバイトを両立することが不可能になってしまった。
(大丈夫なんだろうか、Bさんは…。Bさんがいなくても店が回ってるのが、なんか寂しい…)
 そんなことを思ったところで。真田君なら大丈夫、というBの言葉を支えに、嫌なことや納得いかないことがあっても頑張ってきた。Bが教えてくれたことは、何でもメモしてる。ほとんど全て、一から、Bが教えてくれた。業務だけでなく、心構えまで。心構えは、言葉で教えられたんじゃない。そうだったら、ここまで見習おうとは思えなかったかもしれない。Bの姿勢と働きぶりから、真田は学んだのだ。
(Bさんがいなくても、頑張ろう。Bさんに教えてもらえて、ほんとによかった)
 とか考えながらも、テキパキと飲料を補充していく。ふと、ウォークインの扉が開いた。
「おつかれー、さな。遅れてすまん。ウォークイン、代わるわ。オーナー外出するって言ってるから、新人に付いてやって」
 Nだった。彼は、真田を、さな、って呼んでる。
「おつかれさまです。新しい人には、Cさんが付いてればいいんじゃないですか?」
「Cさんに適当な仕事教えられたら困るだろ。Cさん、動かねーよなー。って、遅刻しといて言える立場かって感じだけど」
「…じゃ、Nさんが付いたらどうですか?」
「あのイケメンに? やだよー。とにかく、オーナーが、さなに付くよう言ってるんだから。はいはい、長いことウォークインいたら寒いから、早く出て、レジ行って。あ、どこまで出来た?」
「アルコールがまだです。じゃあ、すみませんが、よろしくお願いします」
「了解ー」
 レジに戻ると、早速オーナーが、「あ、真田君、僕はもう出るから、後はよろしく。真田君は、ずっとM君に付いてて。Cさんは、レジ見つつFF(揚げ物)をお願いします。午後からは品出しもね。後はまあ、N君の支持に従って」
 Cは何となく不満げだった。真田と役割が逆なのがよかったのだ。
 それにしても、アルファベット増えると混乱しません? Mは適当に名前付けますか。Mだから、牧(まき)にしようかな。もう、牧 真樹生(まき まきお)でいいんじゃないか。まあ、とにかく、真田は牧に教えるんだけど、全然大変じゃなかった。飲み込みが早い。一度言ったら分かってくれる。言わなくても、真田のやり方を見て、吸収する。だからって、自己判断ではやらず、何か疑問があれば、すぐに聞いてくる。邪魔にならないタイミングで。こう覚えがいいと、ますます気後れしそうなものだが、純粋に感心した。教え甲斐がある。
 二人で休憩中、
「ほんとにコンビニ初めてですか? 初日からあまりに出来るので、びっくりしてます」
「バイト自体初めてです。教え方がいいんですよ。真田さん? 真田君? どう呼べばいいです?」
 さらっと『教え方がいい』とか言っちゃうし。
「同い年だし、呼び捨てでいいです。あと、敬語でなくていいです」
 牧が笑った。敬語じゃなくていいって言った本人が敬語だから。
「牧君? 牧?」
「牧、でいいよ」
 まあ、そんな感じで、真田が心配してたほど気疲れせずに、無事一日が終わりましたとさ。ところで牧君は、ほんの脇役です。Mのままでもいい人です。真田にちょっかい出すとかいう展開にはなりません(素)というかもう出てこないと思うよ。

 一方、郭はというと。
「先生、何かいいことありました?」
 家庭教師先、J家です。勉強の時間が終わり、片付けてる郭に、Jが聞いてきた。
「何で?」
「やっぱりいいことあったんだ」
「あったって言ってないよ」
「だって、否定しないから。先生、にやけてますよ」
「…にやけて…?」
 思わず、顔に手をやってしまう。
「あ、表情じゃなくて、雰囲気が。空気が。彼女といいことあったんですか。いいなー。楽しそう。高校生っていいなー」
「……」
 女子中学生、怖い。

 それから間もなく、テストの結果が出ました。真田は、全体で五位、数学では二位。あー、なんか、予想通り…、と真田は思った。例の条件が無ければ、充分な結果だが、数学で一問外したのが悔しい。
(悔しい、とか、そんな気持ちになるなんて。いや、今までも、悔しいと感じたことはいっぱいあるだろうけど、自分が悔しく思ってるってことを、認めようとしてなかった。別に構わない、って、思おうとしてた。でも、今、素直に悔しい…)

 平日、真田がシフト入ってる日。上がる時間に、郭がコンビニに来る。たまに、夜の公園マチカフェデートしますよ。15分程度だけど、幸せな時間だ。
 真田は、テストの結果を伝える。
「やっぱり数学、駄目だった。分かってたけど、改めて残念…」
「すごくいい結果じゃないか。立派だよ」
「うん、まあ、今回は頑張った」
「今回だけじゃない。一馬はいつも頑張ってるよ」
 真田は、何か恥ずかしくなる。郭が、お母さんみたいなこと言うから。
「あ、そういえば、最近、新しいバイトが入ったんだ。同い年でD高だって。牧って言うんだけど、知ってる?」
「…牧真樹生?」
「まきまきお? まきおっていうのか、あいつ」
 あいつ、という呼び方に気安さを感じ、郭は何となくモヤモヤする。それにしても、D高はバイト禁止なんだ。って、郭はバイトしてるけど。許可取ってやってる。許可を取らずにやってる生徒もいるけど、さすがに高校から近いコンビニでっていうのはまずい。牧は、D高はバイト禁止というのを知らないんだよ。
「牧って苗字の男子が学年に一人だけかどうかは分からないけど、俺が知ってるのは、牧真樹生だよ。去年同じクラスだった」
「男前?」
「男前だね」
「じゃあ、そいつだ。関わりあった?」
「ほとんど話したことない。顔と名前が一致してるってくらい」
「そうなんだ」
「仲良くなったの?」
「いや、別に。二回一緒にシフト入ったけど、めっちゃ覚え早いよ。さすがD高生」
「高校は関係ないよ。牧が器用なんだろう。コンビニのバイトは、俺には無理だ」
「そんなことないよ。英士なら、すぐ覚えるよ」
「そういう問題じゃない。愛想がない。笑顔がない。接客業は無理だよ」
「まあ、『いらっしゃいませこんにちはー』とか明るく言ってる英士なんて、想像つかないけど」
「うん。それはともかく、一馬と牧が仲良くなったら嫌だな」
「シフト一緒のことあっても雑談する暇はほとんどないし、そんな仲良くはならないだろうけど。牧のこと苦手? いい奴そうだけど」
「ほとんど話したことないから、苦手も何もないよ。ただ、一馬と親しくなるのかなと思うと嫌なだけ」
「牧が女子なら、英士の言うことも分かるけど、男子だぞ?」
「そうだけど」
「そんなのよりずっと、英士が女の子に勉強教えてる方が心配だよ。家庭教師は同性の方がいいだろ。間違いが起こったらどうするんだ」(真剣)
「俺も同性の方がいいだろうとは思うよ。間違いは起こらない。リビングだし。部屋でも起こらないけど。あと、中二だよ」
「中二の男子は子供だけど、中二の女子は女だよ」
「…その物言い…」
「何だよ…」
「あるの?」
「何がだよ。ないよ。さっきのは一般論だ」
「そうなの?」
「童貞だよ、もちろん」
 郭は、最後の一口のコーヒーを飲もうとして、気管に入ってしまい、咳込んだ。
「大丈夫?」
 真田は郭の背中をさする。
「…大丈夫、ちょっとむせただけ」
「英士は?」(笑顔)
「何が?」
「何が? さっきの話の続きだよ」(笑顔)
「………」
「えっ」(真顔)
「いや、」
「あるんだ。結構というかかなりびっくり。まあまあショックだ」
「ちょっと待って。あるとは言ってない。微妙なんだ」
「微妙? 途中までってこと? でも結局は、あるかないかの二択じゃないか?」
「じゃあ、ない。多分」
「何それ…」
「聞きたいなら話すよ。でも、ここじゃちょっと…。また今度、家で」
「絶対聞きたくないのにすっごく気になるという、やっかいな気持ち…」
「ごめん…」
「悪くないのに謝るし…」
「いや、」
「…ごめん。そろそろ帰ろっか」
「うん…」
 ちょっとぎこちない感じになっちゃった!


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